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View.グレイ
白衣の女性が激怒したのを皮切りに、彼女の後ろから続々と彼女の子である敵が襲い掛かって来た。
敵、非生物古代技術モンスターは強靭で凄まじく。数もさることながら、敵の行動思考が未知のという点が私達を苦しめた。
例えば大砲が頭と手に付き、二足歩行でこちらに向かってくる二m近いモンスター。その全身が金属である故の高い防御力に、三つの大砲を順番に撃つ事で絶えまない攻撃は、ワイバーンレベルならば一方的に屠れるらしく、戦況を一変させる力を有しているそうだ。
例えば狼型の体躯の背中に、小さな大砲(銃口というらしい)を搭載した、機動力と攻撃に優れた個体。銃口や弾が無くなっても口から敵を喰い殺す事で弾薬とエネルギーにするという、恐ろしき存在だ。これは数百体を同時投入する事で、恐怖を伝播させる事に有効な存在だそうだ。
例えば、永久機関を成り立たせた機械人形。自身に呪いの言葉を言わせる事で自分を呪い、呪いのダメージをエネルギーに変え、エネルギーを稼働と攻撃に転嫁するという恐ろしき存在。まさに呪いの人形。しかも普通に倒せば溜まった呪いが周囲に溢れる存在。これはフューシャちゃんが倒す前に気付かなければ、私達は呪われて全滅していただろう。このような物が軍団を為せば、それだけで手を出す事自体が出来なくなり……まさにその方法で運用するつもりだった。
どのモンスターも地上に溢れれば尋常ではない被害を出す存在であり、さらにはこれらの他にも多くがこの遺跡の奥地で逐一作られ続けるというのだ。
今は作り続けても奥地が一杯に溢れるので際限はあったのだが、外に溢れてしまってはこれらがどんどんと作られ続けていく。まさに今は充分な生産体制と数が揃ったので、その外に侵攻していくタイミングであった。そして力試しに丁度良いとして、外への侵略の手始めに私達に襲い掛からせたそうだ。
「……以上だ。文句あるか蠅ども」
と、いう事を全ての敵を倒した後に白衣の女性から聞いた。
いやはや、全てが強敵であった。油断すればやられていたのはこちらだっただろう。
しかしながら私達の方が一枚上手であり、結果だけ見ればこちらの損害はこの場での簡易治療と、後で検査を受けて適切な治療を受ければどうにかなるような勝利であった。
半分近くは雷系統が有効であったためティー君の活躍も大きい物ではあったが、これもひとえに私達の班の皆様が活躍したお陰だ。皆様が今持てる力を十全に発揮し、協力し合たからこそこの結果と言える。私達はまた一歩成長したと言えるだろう!
「ああ、可愛い我が子達……純粋で私の思いに応えてくれた……不甲斐ない母を許してくれ……」
……しかし、白衣の女性が我が子と呼び、愛する子達を屠ったのは申し訳ないとは思う。
彼女が言うように彼らには善悪の基準が無く、ただ与えられた行動をしていただけだ。言われた事をただ成し遂げようとする存在を、こちらの命に関わるからと壊す……いや、命を奪った事に関しては祈らせて貰おう。……どうか、安らかに。
「妙な同情は不要だ、小蝿風情が」
私が祈っていると、縛り付けて動けなくした白衣の女性(名前は教えてくれなかった)が、私に吐き捨てるように言った。
「小蝿……あ、先程から蠅と仰っていますが、視界に蠅が飛び回るのは視力の衰えと言います。目の運動をお勧めいたしますよ」
「舐めてんのかお前」
む、何故だろか。先程から蠅が見えているようだから、目を大事にして欲しいと言っただけなのだが。
「彼はいつだって本気ですよ、思春期の研究者さん」
「お前は馬鹿にしてるなこの優男蠅!」
「そんな事無いですよ。ですが良いですね。キチンと私が話を聞きますから、どんな些細な事でもその調子で私に話してください」
「思春期の子供の相談相手をするような対応をするな! ……いや、違うんだ……私は思春期ではなく、子を持つ母。大人な視点で真理で真実を語っていただけなんだ……」
「はい、そうですね。どんどんそうやって話してください」
「やめろ……私を面倒な思春期を扱うように話すのをやめろ……!」
「ティー兄様……大分怒っている……もしかして……鬱憤晴らしている……?」
「あはは、そんな事無いですよ」
ティー君は憲兵の御方が来られるまで、白衣の女性に対して柔らかな笑顔で優しく接していた。
いかに相手が世界を滅ぼそうとして新人類を生み出そうとしていたとしても、最後まで話して自分の糧とする。まさに王子らしい在り方である!
「それで、この新人類計画を立てたのは貴女だけですか?」
「…………」
「なるほど、今度は無視ですか」
「…………」
「……家に帰っても、挨拶もせずに自分の部屋に直行する感じですね」
「くそ、こいつなにがなんでも思春期の行動に繋げやがる……!」
おお、素晴しき誘導術。ティー君はどうやら思春期の相手はお手の物のようだ。今度クリームヒルトちゃんに伝えるとしよう。
「……そうだ、私だけだ。そもそもお前ら人間が嫌いなのに、誰かと一緒に行動すると思うか」
「まぁ、それなら後は憲兵の御方に任せるとしましょうか。そして貴女の野望はここで費えて貰うとしましょう」
「ハッ、良かったな。世界の危機を未然に防ぎ、お前達はくそったれな世界での地位をあげたぞ」
「……白衣の御方。何故そこまで私め達を滅ぼしたいのです?」
白衣の女子の憎々し気な言葉に私はついそんな事を聞いてしまう。
彼女が思春期な事は分かったが、その行動私には分からなかったからだ。
「グレイ」
私の質問に、ティー君は諫めるように名前を呼ぶ。
恐らくは世界を危機に晒そうとする犯罪行為を犯した行動内容自体は聞いても、その行動理念を軽々しく聞くのは良くないという事なのだろう。先程私達に思春期を語った時のように、言霊魔法のように言葉は相手を惑わす時があるのだから。
……けれど私はそれでも聞きたかった。だから私はティー君には首を横に振り、止めないでくれと行動で伝えた。
「ハッ、お前には分かるまいよ。お前のように、温室で育っただろう貴族の甘ちゃんには、世界の醜さは分からんさ」
「確かに今の私めは貴族ではありますが、温室育ちとは一体……?」
「今は?」
「あ、はい。私めは元貧民街出身なので」
「……なに? ……ならば理解できるはずだ。ヒトの悪意を。善意など役に立たず、奪われたくなければ奪うしかない、と」
「はい、それは分かりますが……」
その理屈は理解できる。私は騙された事は何度もあるし、殺されそうになった事も多くある。善意を見せた者は、明日の朝には冷たく地面の上にいる、なんて事は日常茶飯事だった。
「世の中は綺麗事ばかりではない。むしろ悪意が蔓延っている。そんなものを目の当たりにすれば、世界など醜いなど分かるだろう。ならば今の世界を憎み、綺麗にしたいと思うのは当然だろう。それとも今の生活に満足し、その気持ちを忘れたのか?」
確かに私は昔を思い出さないようにはしている。貧民街に居た頃も、前領主様に飼われていた頃の事も。なにせその頃を思うと、私は恐怖で動けなくなる事もあったのだから。
「そうですね。忘れたというよりは……」
けれど、昔を振り返っても思う事はある。
「私めは世界を憎むほど、世界を知りませんから」
私の世界はまだまだ狭い。シキという王国の小さな地方の地ですら多くの発見が日々あり、様々な考えの皆様に感銘を受けていた。そしてそれをマネするだけでもとても楽しい。
今も首都で学ばせて頂いているが日々新しい発見だらけで、私の無知さを思うばかりだ。そしてそれが楽しく、日々が充実している。
「それに、世の中は悪意だけでは無いと知っています」
悪意だけしかないとか、善意だけしかないとか、別にそんな事は無いと思う。どちらも確実に存在している。
貧民街では善意を見せた相手に救われた事もあるし、徒党を組んで色々な目的を達成した。それはあの貧民街にも悪意だけしかなかった訳では無いという事だ。別に0か100かで語る必要は無いと思う。
ようするに、私の言いたい事は、
「私めは知らない存在を憎むほどに、私めの世界は広くないのです」
ただ、それだけである。
「なので、愛すほどに世界を憎んでいる、貴女様の話を聞きたいのです」
愛憎は表裏一体と聞く。ベージュ様夫妻を見ていると良く思うものだ。
この御方は世界を愛していた。だから世界を壊すほどに憎んだのだろう。
それに世界の真理を語るほどに、この御方は世界を知ったのだろうから、その話も聞きたいのである!
「……お前に話す事は無い」
しかし白衣の女性は話してくれないようだ。
むぅ、残念ではあるが、無理に聞くのは良くない。ここは大人しく引き下がるとしよう。
「(……世界を憎むほど、物事を知っている訳では無い、か。……子供の戯言だ。バカみたいな言葉だ。けれど……私はいつから世界を定義し始めた……?)」
聞き取れない小さな声で、白衣の女性は自問自答をし始めた。
シキでもこういった御方を見る事は多くあったので、こうなったらしばらくは話しかけても意味が無いという事は、私にも分かる。やはり大人しくしていた方が良いようだ。
あ、でもこれだけは言っておこう。
「白衣の御方。ヒトを傷付けるのはよくありませんよ」
「やかましい。お前らだって私の子を止めるのに暴力をふるい傷付けだだろうが」
「傷つけるのは良くないからと、殴られ続けろというのは違うと思いますが」
「あー分かった分かった。私が悪かった。お詫びに良い事を教えるから勘弁しろ」
「良い事?」
返事が返って来たのは意外だったが、はて、良い事とは一体なんだろうか。
……はっ!? まさか遺跡の奥地の製造場所の使い方だろうか。そして私もロボ様のように古代技術を使って空を飛ぶとか出来るのだろうか!
「ここの外の話だが」
どうやら違うようである。残念だ。
しかし外の事で、良い話となると一体……?
「外に大事な誰かが居るのなら、早めにそいつの元へいってやれ」
「何故でしょう?」
「簡単だ」
白衣の女性は、少し前に会った誰かの事を思い出すように、言う。
「私だけじゃないんだよ。この世界を憎み、このショクという地で攻撃を仕掛ける馬鹿共はな」




