調査開始(:灰)
View.グレイ
――気持ちの切り替えです。それを出来ずしてなにをするというのです!
アッシュ様にもシルバ様にもなにも言えない私ではあるが、なにも出来ない無力さを嘆いて気持ちが沈んでいては話にもならない。私は私らしく元気に何事も楽しむ事にしよう。
父上は「空元気はいつ折れてもおかしくないから時には沈む事も大切である」、と仰られていた。そして私は先程のアッシュ様の会話からこの探索地点である遺跡に来るまでに沈み倒した。ならば後は上げるだけなので、迷わずに上げて行きますよヤッホウ!
「わー、遺跡です遺跡! テンション上がりますねティー君!」
「ええ、未知なる古代技術が眠ると言われる遺跡だねグレイ!」
「楽しそうだね……ティー兄様に……グレイ君……」
『それはもちろんです!!』
「笑顔が……眩しい……!」
というより、今の私は別の意味でテンションが上がりきっている。
今回私達の班が調査する場所は今は失われし技術が眠るとされている遺跡である。なんでもここにある技術の資料を読み解く事で、ショクの温泉技術が発展して今の形になっているという、ショクにとっても重要な場所との事である。
今は観光地としても入口からある程度の距離までは一般開放されてはいるそうなのだが、ある場所を境に一般開放されていない調査・研究場所、安全が確保されていないため進入禁止とされている場所、というように分かれているそうだ。
聞く所によると進入禁止区域は常に軍や冒険者等に依頼を募り調査できる範囲を広げたりしているとの事。
クリームヒルトちゃんとメアリー様曰く。
『もう怪し過ぎてなにかあるとしか思えませんよね!』
『うん、絶対禁止区域からモンスターの大群が攻めて来て研究の場所に居る人達が犠牲になったりする場所だよね!』
との事らしい。
しかし実際この場ではげぇむによると禁止区域から大量のモンスターが攻めてくる、という事は無いらしい。代わりに別の兆候があるようだ。
「くくく、奥地から現れるモンスター達にいつもとは違う属性が付与されている可能性がある……!」
「ふふふ、その属性は別の場所で封印されているモンスターの魔力が移ったものであり、封印破壊の兆候であるという……!」
この遺跡のモンスターの発生源はげぇむでも王国の調査結果でも明らかにはされていないのだが、げぇむだと突然この場所のモンスターに火属性が付与されるとの事だ。
国とショクがそれらについて調査を行っている間、偶然学園の学習で調査に来ていた主人公達一行が、この遺跡を調査する間手薄になる周辺一帯やダンジョンを見回る任務を与えられる。そして主人公が意中の男性がダンジョン近くを歩いていると、痴情のもつれなる事が起きようとした最中に封印されているモンスター(またはその前哨モンスター)が復活するらしい。
その復活したモンスターを討伐したり、意中の相手が怪我を負ったりする、というのがこのショクという地のイベントだそうだ。
そして今回は私達を要請された方々曰く、「通常とは違う属性を持つモンスターが現れ、ダンジョンにいつもより活発なモンスターがいる」というイベントに近い事が起きているそうである。ので、私達はその中でのこの遺跡の調査にあたる、という事である。
「えっと……二人共……アプリコットちゃんの……マネ……?」
「いえ、私めはオーキッド様の」
「私もです」
「おお、揃いましたねティー君。イェーイ!」
「揃ったな、グレイ。イェーイ!」
「テンションが……とても高い……! これが浪漫を……求める……冒険者……ってやつなの……!?」
まぁ、それも重要なのは理解しているが、やはり古代技術が眠り、未だに解析されていない物が多くある、という場所は心が躍る。ここに父上やアプリコット様が居れば同様にテンションが振り切る事だろう。それほどまでにこの遺跡は浪漫が詰まっている!
「言っておくけど……遺跡の物を……勝手に持って帰ったら……学園生でも……罰金だからね……?」
「分かってますよフューシャ」
なお、この遺跡に眠る古代技術の遺物を勝手に持ち帰ろうとした場合にはかなり多くの罰金が科せられる。大体ではあるが、冒険者をやらない一般男性が一生を罰金返済に費やす羽目になる金額である。
「あと……ティー兄様は……古代技術に近寄る時……気を付けてね……」
「流石に気分を高揚させて物は壊しませんよ」
「そうじゃなくて……雷魔法のせいで……遺物壊さないでね……?」
「う、確かに……」
古代技術は物にもよるのだが、特に雷魔法に弱いらしい。なんでも他の魔法には耐性を持っているが、雷魔法だけは耐性を高めても他より駄目になる事が多いようだ。なので戦闘モードになると雷を纏い、戦闘終了後もしばらく帯電しているティー君にとって古代技術はより注意して扱う必要があるだろう。
「でも見るだけなら大丈夫ですし、問題は少ないのでテンションは高めに行きましょう!」
「行くんだね……」
「はい、行きます。……クリームヒルトさんも居たら一緒に楽しめただろうになぁ……」
「確かにクリームヒルトちゃんは一緒に楽しく見て回れそうです」
「うん、絶対彼女はピョンピョン跳ねながら見て回りそう。……おお、想像したら見たくなって来た。デートに遺跡というのも有りですね……!」
「デートに……それは……どうなんだろう……」
「良いですね。私めもアプリコット様と遺跡探検をしたいです!」
「……確かに二人共……喜ぶだろうけど……二人は……デートで……それは良いの……?」
「クリームヒルトさんが喜べば私はそれ以上の幸福はないです!」
「私めもです! ではティー君、私め達は今回の学習で!」
「ああ、デートの下調べだグレイ!」
「……。二人共……頑張れー……」
そうと決まれば今回は遺跡の歩き方を学び、アプリコット様と共に行く時の前哨戦とするとしよう。ようし、頑張っていくぞぅ!
「ようし、そうと決まればフューシャちゃんも一緒に行きましょう!」
「え……私も……?」
「はい。如何に好きな相手のためとはいえ、己が領分を放棄しての調査は好きな相手のためにもならない堕落ですから」
「私達だけでは気付けない内容ありますし、女性視点も欲しいのです。調査内容的にも、デート的にも」
「…………重要なのは……どっち……?」
「? 調査です」
「はい。好きな相手とデートをするのは、世界の危機を排除してからです」
「危機なんてぶっ飛ばそうなグレイ!」
「はい!」
「自分にしか出来ない、自分なりの事を為して危険から守ると言うより、危険を未然に防いで起こさせないようにな! 好きなヒトを好きと言うためにも!」
「はい! ……あ」
「どうしたの……グレイ君……?」
「いえ、なんでもないです。フューシャちゃん頑張りましょうね! オー!」
「お……オー……!」
ティー君の言葉に先程アッシュ様に言うべきだった言葉を見つけた気がした。
今は少し離れた場所でシルバ様と共に調査を行っているアッシュ様に、この調査が終わったら話してみた方が良いだろうか。
そう思いつつ、私達は調査を開始した。
備考1 バーガンティーの口調に関して
基本親兄弟にも敬語ではあるが、グレイには気安めの口調になっている。
備考2 クリームヒルトとのデート場所
基本バーガンティー相手なら何処でも喜ぶが、堅苦しい場所よりはダンジョンとか遺跡とか身体を動かせる場所の方が喜ぶのは確かである。




