分からない。(:灰)
View.グレイ
「シルバ先輩の……身体は……生徒会のメンバー男性陣……好みの身体で……結構評判が良い……」
「僕そんな肉体誇示した覚えないんだけど……というか、そんな話あるの?」
「うん……生徒会のメンバーは……かっこいい男の子ばかりだから……誰と誰とが良い感じになるかと……」
「ちょっと待って。それ男と男で良い感じになる前提で話してない?」
「…………」
「目を逸らさないでフューシャ殿下!」
「そういえば私もこの学習に行く前に聞かれたのですが、“ティー殿下は今回の男性陣の誰と仲良く温泉に入りますか”、と。もしや関係あるのでしょうか?」
「その女生徒ある意味かなり勇気あるな。殿下に言うって」
「いえ、相手は同級生の男性ですが。その男性はなにやらシルバ先輩と身体を流し合うのが良いですよと言ってましたよ」
「聞きたくなかった……! というか昨日背中洗ってくれたのそれが理由か……!」
「はい、得難い経験でしたね!」
「うん、そうだね……!」
なにやら楽しそうに会話をなされている御三方。それを聞きながら私もよく「生徒会の男性の先輩で仲良いのは誰!?」と聞かれるなと思い出しつつ、私も参加して何故か複雑そうな表情をなさっているシルバ様の肉体を褒め称える事でフォローをしようかとも思うけれど、今は別の事をするとしよう。
「アッシュ様」
御三方の会話を横目で見つつ、私はアッシュ様に話しかけた。
私に呼びかけられたアッシュ様は自身の身体を確かめ、そのような事を噂する一年生に注意をすると同時しなくてはならないと思っているか、自分の身体を高めようと己が肉体を見られる事で鼓舞するかのどっちかと言った様子であった。
「どうしました、グレイ。なにか気になる事でも?」
「はい。シルバ様が不機嫌な理由なのですが、差し支えなければお教え願いますか?」
気になる事は、昨日から何処となく不機嫌なシルバ様について。
昨日はエクル様やクチナシ様云々と本人は仰ってはいたが、アッシュ様は不貞腐れていると評していた。その評し方は何処となく不貞腐れる場面に遭遇したか、理由を知っているからこそ出た感想だと思ったのでアッシュ様に聞いてみたのである。
とはいえ、あまり本人の知らぬ所でこっそりと聞くのは理由が分かって対処しやすくなると同時に、勝手に話される事でさらなる不機嫌を招く要因にもなる。なので私より遥かにそういった機微には聡いアッシュ様に、話して良い事かの判断を委ねた。
「……あまり当てにされていない感じがするのですよ」
そしてアッシュ様は話しても良いと判断した……というよりは、自分も表には出さないようにしているだけで、シルバ様が不貞腐れる理由には、自分も不貞腐れる事に繋がっている出来事であるように語り始めた。
「グレイも聞いていますよね、ここに生徒会のメンバーが集められた理由と、私達がなにを注視しなくてはいけないのかを」
「はい」
私達生徒会のメンバー……というよりは、後から来るシャル様の母君であるヴェール様も含めた、げぇむに関して知っているメンバー。その彼らは先程言われたような、“説明は難しいが必ずイベントに準じたなにかが起きる”事の兆候を見つけて未然に防ぐ役割がある。
あるのだが、それが何故アッシュ様も不貞腐れるような事に繋がるのだろうか。
「この班の選抜メンバーが、どうしてもね」
「私め達が、ですか。皆様優れた能力の持ち主だと思うのですが……?」
「ああ、すまない。グレイや殿下達が劣っているとかそういうのではないんですよ。ただ……」
「ただ?」
「……期待されてないな、とね」
「?」
聞くと、メアリー様に自分達が期待されていない、とアッシュ様は言う。
まずこのメンバーの中に前世持ちが居ない。
いくら説明しても、魔法もなくロボ様外装のような存在が多く存在したという父上達の前世は想像し辛い所がある。例えばげぇむというのは本などとは違って自分で動かす事が出来る物語、という点は実物を見なくては分からないというのが私達の見解だ。
つまりイベントの兆候については、私達よりは前世持ちの方々の方が遥かに気付きやすい。いくら説明を受けても、事前情報の差でどうしても理解が真には近付いたとしても、真にはなりえないと言うべきだろうか。
当然前世持ちでないが故に気付く事も多いだろうが、今回私達が“別件”調べるのはイベントの兆候。“本件”で調べる異常など当然ながら警戒するし、別件について最終的な判断をして貰うのは前世持ちの方々でなければ成り立たない。
その事がまず一つ。
そしてもう一つが……
「蚊帳の外として扱われている感じがしましてね」
ショクで起きる事を説明してくれる。
イベントの兆候として考えられる事を話してはくれる。
けれど肝心な知りたい部分ははぐらかされる。
それは偏見を招かぬ敢えて話していない訳でも無ければ、話しても理解しきれないから話さない訳でもない。そしてメアリー様自身も蚊帳の外として扱おうとしている訳では無いと分かってはいる。
しかしそれでも、どうしても今までとは違う感覚を覚えてしまう。
愛しの相手はなにか知らない目標を見つけた様に振舞い。
主君兼親友は垢抜けたかのように振舞い。
幼馴染の親友は荷が降りて
先輩であり先達者はなにかに怯えている。
悪意を持っている訳でない事は分かる。しかし、それが辛い。
詳細を聞く事は憚られる。しかし、何処かで聞くべきでないと理解できてしまっている。
頼られてはいる――しかし、期待されてはいない。
「……すみません、こんな事を貴方に話しても意味が無いですね。愚痴を言ってしまい申し訳ありません」
一通り言った後、アッシュ様は私に謝罪をなされた。
私には分からない事が多い。今も「頼られてはいるのに、期待をされていないというのはどういう意味なのだろうか?」と思っている。けれど何処かで、アッシュ様の言いたい事は伝わっていた。
誰が悪いという事ではなく、そのような状況を作り出してなにも出来ずにいる自分が恨めしいとアッシュ様は仰り、シルバ様も似たような感じなのだろうと言う。
――アプリコット様ならば、なにか言えただろうか。
……私には分からない事が多い。今もアッシュ様になにを言えば良いかが分からない。
これがアプリコット様ならば、父上なら、母上なら。クリームヒルトちゃんならばなにか言う事が分かったのかもしれない。
気の利いた一言を言ったり、解決出来なくとも前向きになる言葉を言えたであろうか。
少なからず多くの言葉を学び中の私には、言うべき事が分からない。
「……いえ、私めでよければいつでも愚痴を言って下さい。それでアッシュ様の気が楽になるうのならば、いくらでも聞きますから!」
だからこそこんな事しか言えない自分が、少しだけ嫌になる。




