どんな身体にも需要はある(:灰)
View.グレイ
「グレイやシルバが昔を思い出し、なにか大きな存在と感じる、か。」
「あ、申し訳ございませんアプリコット様。私めの場合は感覚の話であるので、なにか根拠がある訳ではないのです」
「僕だって感覚の話だよ。根拠とか特にない」
「いや、それでも“なにかを感じる”というのは確かにあるのであろう?」
「まぁそうだけど」
「勘というのは判断の過程を理解せずに結論付ける答えの事だ。そしてその答えが気がかりならば、その過程を理解出来るまで忘れずに心の隅に取っておくと良いぞ、グレイ、シルバ」
「はい、了解いたしました」
「……分かったよ」
私達の根拠のない、ただの感覚の話にアプリコット様は真摯に答えてくださった。
気になる事を気のせいだと考えないのは思考の停止に他ならず、必ず原因を突き止めるように努力をする事。
しかし考え過ぎて自滅をしないように、あくまで主題ではなく副題として考えるようにする事。
要約すれば「その直感を大切にしなさい」だ。
シルバ様は別の解釈をなさったかもしれないが、少なくとも私はそう解釈した。そしてアプリコット様はそれも含めて私達に言ったのだと思う。今の言葉をどう解釈し、どう考え、どう活かすかは自分で考えるべきである、と。流石はアプリコット様、私の大切な女性であり、素晴しい師匠である!
「……ところでさ、アプリコット。学園に関わる時は皆の事先輩呼びなのに、なんで僕は先輩呼びないんだ?」
「……フ」
「おいなんだその“フ”、は!」
「さてこの料理も美味いぞグレイ。ドンドン食べるが良い」
「はい。ですが食べ過ぎも良くないですし……」
「確かに良くないが、グレイは成長期であるから食べるとその分成長できるやもしれぬぞ」
「成長……そうですね、無理のない範囲で食べていきます!」
「うむ、その調子である!」
「なぁ、おい、無視するなよ!」
◆
「では、私め達の班は周囲の山を探索です。行きますよシルバ先――シルバ!」
「はい、頑張っていきましょうねシルバ先ぱ――シルバ!」
「あ……えっと……頑張ろうね……シルバ先輩……じゃなくて……シ……シルバ……!」
「…………」
「良かったですね、シルバ。ティー殿下やフューシャ殿下も含めた可愛い後輩に呼び捨てで気安く呼ばれていますよ?」
「分かって言ってるだろ、アッシュ」
翌朝。班別行動で私達の班の生徒会メンバーはティー君、フューシャちゃん、アッシュ様、そしてシルバ様……もといシルバ。
……うん、やはり呼び捨ては慣れないし、あまり揶揄うのも良くないので普通に呼ぶ事にしよう。
「では、改めての確認ですが、私達の班は【温泉の源泉の一つの調査を行い、水質及びモンスター調査、場合によっては討伐】が主な目的です」
アッシュ様は私達のほんわかとした雰囲気を咎める事はせず、しかし私と同じでこのままの空気も良くないと判断したのか空気を引き締める。
私以外もそれを感じ取ったのか、全員が冒険者の依頼中のような、仕事状態へと移行する。いくら学園の授業の延長とは言えモンスターが出る場所へと赴くのだ。一瞬の油断が取り返しのつかない物になる可能性もあると、この場に居る皆が理解しているのだろう。
「……それと、他の班員に気付かれぬように別の目的も忘れぬように」
アッシュ様は周囲の班の皆様に気付かれぬよう、この場に居る生徒会のメンバーにだけ伝わるように告げる。
別の目的とはこの地に眠る封印されたモンスターについての調査である。
このショクという地は【かさす】なるげぇむでは、王国に封印されたモンスターが眠る場所との事である。なんでも火山の中に封印されているとか。
そしてげぇむでは封印に関するイベントが起きるらしく、そのイベントは下手をすれば封印が解かれたり、シキで起きたような余波でモンスターを活性化せるものだと、クリームヒルトちゃんを始めとした前世持ちの方々から聞いた。
ただげぇむとは時期も違うし、事前対策で封印を解かれないようにしているので、イベントのような事が起きる可能性は低い。
「なにか新たな痕跡、気付いた事があれば、気のせいだと思わずに報告してください。それと、決して一人にはならないように」
だが、今回の学習では学園に要請が出て、全員で行った方が良いという判断が下されるなにかが起きた。決して対策がしてあるからと言って油断する事無く、己の強みを活かして調査をするとしよう。
「特にシルバ」
「なんだよ」
「不貞腐れる事無く、キチンと調査するのですよ」
「……分かってるよ」
? アッシュ様はなにやらシルバ様に釘を刺したが、なにかあったのだろうか。
確かにシルバ様は昨日から何処となく不貞腐れているような気はする。そして今日は何処となく昨日よりもその度合いが強いような……なにかあったのだろか?
「――はっ!? もしやシルバ様。メアリー様にお風呂を覗かれなくて拗ねているのですか!?」
「なんだよそれ」
「いえ、見せつけたいのに好きなヒトに見せつけられない物悲しさが拗ねに転じているのかと」
「転じてない!」
「この地と温泉と言えば覗きだそうですし、重要だと聞いてますが……まさか見せつけたかったのですか!?」
「違う!」
「そうなのですか、シルバ。見せつけたかったから拗ねてたのか」
「シルバ先輩。自信があっても女性に無理に見せつけるのはよくありませんよ」
「大丈夫……シルバ先輩の……身体には……一年の女の子達も……好評だから……需要は大いにあるはず……!」
「違うって言ってるだろ! ていうか好評ってなに!?」




