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なにかを彼女に感じて(:灰)


View.グレイ



「はーはっはっは! 改めてよくぞ来たぞアゼリア学園の勇士達よ! 屋敷を提供するついでに持て成しのために食事を用意した! まずは精をつけて学習に励むが良い!」

「わー、これ全部食べて良いのクチナシちゃん!」

「ああ、もちろんだともクリームヒルトちゃん! 遠慮せずに食べると良いぞ、私も食べるからな!」

「おお、じゃあどっちが多く食べられる勝負だね!」

「良いとも、健啖家である私に勝てるかな!」


 今日はショクに着いて一通りの予定と必要物資を買いそろえて皆が戻った頃には、夕方になっており、皆様が夕食を用意しようと屋敷の中に入ると、何故か既に用意がされていた。

 どうやらこの料理はクチナシ様が方々の料理人を集めて、歓迎のために特別に作ったそうだ。

 皆様が面を喰らう中、事情を知っていたフォーン会長様などは「厚意に預かりましょう」と言う事で、学園の皆様は豪華料理の前にテンションがヒャッホーイ状態になり楽しく食事を摂る事になった訳である。


「先程油断できない、と言っていたクリームヒルト先輩は何処に行ったのであろな」

「油断せずにヒャッホーイしているのでは?」

「……そういう事にしておくか」


 そしてクリームヒルトちゃんの様子を見て、何処か呆れたように見るアプリコット様。


「我達はゆっくり食べるぞ。彼女らの真似をする必要は無いからな」

「はい。……あ、こちら変わった味ですね」

「む、どれどれ……なるほど、この調味料は……ふむ、こちらも……混沌の中に内包せし基礎音律……混ざる事無く奏でる三重奏はまさに――なるほど、このような使い方もあるのか、なるほど……」


 しかしすぐに用意された料理に興味を示すと味わうように、かつ味を再現しようと研究するように食べられ始めた。その様子は普段のアプリコット様の凛々しき姿とは違う様子である。

 このように未知なる好きな物を極めようとする、アプリコット様の姿を見るのが私は大好きである。なにせコロコロと表情が変わってとても可愛らしいのだ。見ているとこっちまで笑顔になってしまう。


「良い笑顔だな、グレイ。そんなにアプリコットを見ているのが楽しいか?」


 私から見てアプリコット様とは反対の左隣に居るシルバ様が、私の様子を見て小さく尋ねて来た。その様子は不機嫌……とまではいかないが、いつもと比べると明るさが足りない気がする。


「はい、とても!」

「即答かよ」


 シルバ様の様子は気になるが、問いに対しては素直に答えておこう。なにせとても楽しいですからね!


「シルバ様も見ていて楽しくなりませんか?」

「まぁ確かにアプリコット自体は楽しそうだな、って思うけどさ」

「そうですよね、アプリコット様は素晴らしいです!」

「あーはいはい、素晴らしい素晴らしい。そんな素晴らしいと誰かに取られるかもなー」

「取られる?」

「誰か別の男に取られるかも、って事だよ」

「むむ、確かにその心配は大きいですね。ですがその可能性が常にあるほどアプリコット様は素晴らしい女性です。隣に並び立つ場所は譲りませんよ!」

「あー……なんか違う気がするな」


 アプリコット様は常に前に進んでいかれる女性。油断をすれば置いて行かれ、すぐに隣に並び立つ事は出来なくなるだろう。そうならないためにも、私自身もアプリコット様を取られないように精進せねば!


「というか、そういう話題を我の隣でするでないわ、シルバ」

「いやいや、僕はアプリコットがグレイに好かれている言葉を言わせたかっただけで、他意はないよ」

「それ自体が他意を含んでおろうが」

「? よく分かりませんが、好きと叫べばよろしいのでしょうか。いつでも良いですよ!」

「やめい」


 む、それは残念だが、アプリコット様に言われたのなら大人しく言わずにおこう。父上達のように一度好きと叫びたかったのだが。


「というよりも、なにやら不機嫌そうであるな、シルバ。なにかあったのか?」


 アプリコット様は食事をしながら、私も感じていた事をシルバ様に聞く。するとシルバ様は明るくないから、何処かピリついた表情になってから周囲を一瞥する。……どうやら周囲の意識がこちらに向いていないかを確認しているようだ。


「……ちょっとだけね」


 そして周囲がこちらに意識が向いていない事を確認すると、小さな声で話し始めた。どうやらあまり聞かれたくない話題のようである。


「なーんか最近生徒会の皆……特にエクル先輩が様子がおかしいのに、このショクに来てからは特に様子がおかしくてさ」

「おかしいと言うと?」

「誰かに追い詰められている、っていうのかな。誰かを警戒し続けている感じ」


 聞くと、私が感じていたエクル様の変わった様子をシルバ様も感じられていたようで、その変わった様子が先程の挨拶の時により一層強まっているように感じたようだ。

 なんでも挨拶に行った時に“要請者”が今日は見られないと聞いて初めは安堵していたようだが、すぐに気を引き締めてなにかに警戒し続けていたとか。


「表面上は普通に振舞っていたけど、なにか隠しているのは確かだし……なーんか誰も彼もが抱えているな、って思ってさ」

「それなのに聞いても“なんでもない”と返されるからイライラする、という事であるな」

「まぁそんな感じ。あともう一つ理由があるんだけど……あのクチナシ、だっけ。クリームヒルトの奴となんか凄い勢いで大食いバトルしている女性」


 視線の先を私も見ると、大食い対決に盛り上がっている御二人と、その周囲を囲んで歓声をあげている皆様が居た。周囲の中にはティー君も居るのだが、クリームヒルトちゃんを応援したい気持ちと、無理して食べて欲しくない気持ちがせめぎ合っているのか、複雑そうに二人を見ている。

 しかしそれは置いといて、クチナシ様がどうしたというのだろう。


「なーんか、あの女性と会ってから変な感じがするんだよね。昔を思い出すって言うか……それでなんか変な感じがする。だからちょっとピリついている感じかな」

「む、確かグレイも似たような事を言っていたな」

「そうなのか?」

「はい。昔を思い出すと言いますか、もっと別の……」


 彼女を見ていると貧民街(スラム)に居た頃を思い出す。

 だが今改めて彼女を見ていると、もっとなにか別の……私の根源的ななにかに関わっていると言うか、昔は常に身近に居たと言う……よく分からない、あまり思い出すべきではないと思う感情が湧いて来るのである。


「あ、僕もそんな感じなんだよね。昔の……特に夜とかに感じた物と同じモノを彼女に感じるんだ」

「そうですね。私めもです」

「? よく分からぬが……つまり二人は彼女に同じモノを感じている、と」

「おそらくですが、はい。――なにか、私めにとって、彼女は大きな存在と感じるのです」


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