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そこに居たのは(:灰)


View.グレイ



「ああ、失礼。盗み聞きするつもりはなかったのだが、聞こえてきてしまってな」


 そこに居たのは、一人の女性であった。

 クリームヒルトちゃんと同じ金色に近い髪に、美しい青い瞳の綺麗な女性。そしてヴァイス様ほどではないが白く綺麗な肌に、母上と似た凛々しめの美しき風貌。


「怪しい者では無い。私はクチナシという者でこの屋敷の所有者、というやつだ」


 クチナシと名乗った女性は我々と比べると背が高く、スカイ様よりも鍛えられていると感じるその在り方は、何所となく軍人を彷彿とさせる。

 軍人様達特有の厳しめの様子はなく、どちらかというと豪快と言うような言葉が似合っている女性なのだが……何故かそう思わせる様な雰囲気を纏っていた。あと、年齢は二十代前半から中盤、といった所だろうか。


「所有者? 確か此処はレイア家の別荘と聞き及んでいるのだが」

「ついこの間まではそうだったのだが、レイア家が財政難でね。そこを私が買い取ったのだよ。連絡は行っていなかったか?」

「アプリコット様、確か急な予定変更で情報が色々とありましたが、泊まる場所の所有者が変わったという連絡があったように思えます」

「む、そうであったか。これは失礼した。そして挨拶をされたからにはこちらも名乗ろう。我らの名は――」


 彼女への評価はともかく、相手が名乗った以上は、こちらも名乗らなくてはなるまい。

 名前と学年、生徒会に入っている事を言い、軽く礼をして挨拶とした。


「あの、私が錬金術師という事も、他にも錬金術師を知っているようでしたが、先程会った女の子の事なの? ……でしょうか?」


 ちなみに生徒会メンバーが挨拶に行っているのはこのショクの最高責任者や、“要請者”とやらがいる所である。この屋敷の所有者に関しては特にあがってはいなかったが、クリームヒルトちゃんの問いかけのように錬金魔法の事を知っているようであるし、挨拶した際に彼女もその場に居て、メアリー様と会話をなされたのだろうか?


「いや、かつて私の所有する山で勝手に五階建ての段ボールハウスを作り生活をしているゴルドと言う名の男女が居てな。そいつが錬金術師(アルケミスト)だったというだけだ」

「あの馬鹿師匠!!」


 なるほど、ゴルド様であったか。

 というかクリームヒルトちゃんが“先程”と口にしていたが、「頼むから師匠の方ではないように」と願っていたからつい聞いてしまった感じなのだろうか。


「申し訳ないです、うちの馬鹿師匠が……」

「気にするな。その者が勝手にしたと言うだけで、君は悪くない。あと、敬語は不要だ。私自身も敬語が慣れぬ身なのでな」

「え、だけ――ですけど、年上のこの屋敷を買い取るほどの――」

「互いに苦手同士だ。遠慮する事は無く話せば良いし、子供がそう遠慮するな」

「……あはは、ありがとうクチナシちゃん! 遠慮せずに話させて貰うよ!」

「む、“ちゃん”ときたか。この年齢でそう呼ばれるようになるとは……だが、まぁ、悪くない」


 クチナシ様は佇まいに何処となく気品が感じられる上に、屋敷や所有している山、という辺りから貴族、あるいは力を持つ商人の御方のようではあるのだが……なんというか、見た目通りで話せる女性のようだ。鍛えられた体躯からして強く、軍人然とした佇まいは寄せ付けない厳格さを漂わせるものなのだが、話す事が出来る不思議な魅力に溢れている。


「しかし屋敷の所有者が何用だろうか。なにか使うにあたって注意事項でも?」

「なに、この地にまで噂が届くほどのアゼリア学園で優秀な若い子らが来ると聞いたからな。実際にこの目で見たかったというだけだ。そして見ていた所、話に聞いていた生徒会のメンバーを見つけたから話したかったという事だ」

「話とは?」

「今のアゼリア学園生徒会は、長い歴史の中でもトップクラスの優秀さを誇る、とな」


 恐らくその噂は主に私達の一年上の先輩方、特にメアリー様の事だろう。

 なにせ数多くの功績を一年の時から作り上げ、卒業後の行く先の争奪戦がずっと起きている上に学園の諸問題を次々と解決していっているのだ。

 まさにメアリー様は学園の女王様と言って差し支えない女性。なにせ同級生が話していたが、「メアリー先輩に踏まれたい」「女王感がある」「サディスティッククイーンとして君臨して欲しい」と評しているほどですしね!


「しかしその生徒会メンバーが温泉で覗きをしたいとは……」

「あはは、言ったねぇ」


 そしてその有名な生徒会メンバーが、先程の会話をしていた事にクチナシ様はやや重い表情となる。

 やはり不特定多数の異性の裸を無許可に覗こうという行為は、彼女にとっては良くない事と映ったのだろうか。


「あははではないぞクリームヒルト先輩。いや、これは違うのだ。ただの冗談であり、実際にしたい訳ではなく――」

「だが分かるぞ錬金術師(アルケミスト)! 私も君くらいの年頃には似た感情が沸き上がっていた!」

「同調するというのであるか!?」


 おお、まさか同好の士。つまり……クチナシ様は変態仲間というやつなのでしょうか!


「あはは、分かるのクチナシちゃん!」

「ああ、よく分かる。今の私の旦那はとてもモテる男でな。本人にその気は無くとも多くの女性が言い寄っていた。彼は私の婚約者ではあったのだが、気が気ではなかったよ」

「おお、つまり温泉という互いに無防備の状態の時に突っ込めばいい具合に既成事実が出来て他の女性陣を牽制出来る、と思った訳だね!」

「その通り、それに夫との間に子供も欲しかったのでな! あと、例え失敗しても相手の裸は見れるし、自分の裸も見せられて虜に出来て、虜になるという事だ!」

「お、おお!? だけど恥ずかしくないの? それに婚約者なんだし、慌てる必要はなくどっしり構えれば良いんじゃ……?」

「甘いぞ錬金術師(アルケミスト)。女は大胆に、時に化かし合いをしなくてはならない。好きな男には堂々と、適切な時に――無茶苦茶に激しく攻めてしまう事も重要なのだ」

「あはは、なるほどね!!」


 ……話している事は今一つ分からないけれど、クチナシ様が愉快な女性という事は分かった。


「流石はシキと同じ語源を持つ土地。領民も似た特徴を持ちやすいのですね……!」

「いや、それは流石にどちらの領民にも失礼だからその感想はやめると良いぞ、グレイ」


 私が抱いた感想に、アプリコット様は何故だか何処となく頭を痛めそうな表情で諫めて来たのであった。


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