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特別と普通と弱点


 カナリアの事は大いに心配ではあるが、グレイやアプリコットと同じで、彼女もいつかは俺の傍からも離れて俺の知らない交友関係を広げるものだ。ヴァイオレットさんが言うように、今は彼女らを信じるとしよう。ただし信用を裏切った場合は、シロガネさんに対してどこぞの第二王子と同じになるやもしれない。その時は覚悟いたせいシロガネ殿!


「敵討ちをする場合は私も参加する。だから戻るぞクロ殿」

「はい」


 ……うん、なんかヴァイオレットさんに心の中を見透かされた気がする。ちょっとテンションが上がり過ぎた事を反省しなくてはな。良い大人なんだから、少しは心の余裕を保たなくては。……今更な話である気はするが。


「しかしここ一年で色んなカップルが生まれてますよね。両手じゃ数えられませんよ」

「私達も含めて、な。だが、世界的に見れば付き合う・結婚する数としては、そのような物かもしれないぞ」

「確かにそうかもですね」


 屋敷に戻りながら、手を繋ぎつつヴァイオレットさんと会話をする。

 あまり実感は湧かないが、今こうしている内にもカップルは出来るだろうし、婚姻を果たす者も大勢いる。前世で言う所の、「1秒間の間に○○が●増えている!」というようなやつだ。これは今世でも当てはまるだろうし、それだけ俺の知らない所でも物語は起きている、という事だ。


「しかしまぁ、王族の恋愛数に関しては、シキが世界でもトップクラスでしょうね」

「……確かにな」


 そしてその中でも、シキでは濃い連中の濃い恋愛が為されるから多く感じるだけなのかもしれない。めでたい事であるとはいえ、もう少し間を置いて欲しい物である。まぁ恋愛なんて突発的に起こるものだから、仕様が無いのかもしれないが。


「恋愛が色々と起こるのは嬉しいですが、もう少し落ち着いて俺達の恋愛もしたいものですがね……」

「賛同はするが、むしろ多いからこそ私達にも良い刺激になっている、とも言えるぞ?」

「確かに。アイツらに負けじと熱く燃え上がる、というやつですね」

「そういう事だ。私達も先程のカナリアの強引さに負けぬような燃え上がりを見せてみるか?」

「なるほど、つまり今日の昼前のような、お姫様抱っこからの周囲への見せびらかしを再度所望ということですか?」

「私が抱える立場で良いのならやるが」

「やるんです!?」


 以前も俺はヴァイオレットさんにお姫様抱っこで運ばれた事があるので、運ぶ事自体は出来るだろうが……うん、周囲になにを言われるか分からんな! でも見せびらかすという点では良いかもしれない! ……落ち着こう、それはなにか違うだろう、クロよ。


「お気持ちだけ受け取っておきましょう」

「そうか、残念だ。では肩車でもしようか。私が下で」

「運び方の問題じゃないですからね!?」


 しかも何故ヴァイオレットさんが下なんだ。いや、今のヴァイオレットさんはスカートだから上だと問題があるのかもしれないが……うん、俺が上の方が問題が多いな。色々と。


「――ふふ」

「どうしました?」


 俺が肩車について色々考えていると、ヴァイオレットさんが俺の様子を見て小さく微笑んだ。

 もしや今までのは俺を揶揄うために言っていたもので、俺の反応が面白かった、というやつだろうか。例えそれが正解でもこうして微笑むヴァイオレットさんが見られるのならば何度でも良い反応をしてみたいものだが。


「いや、すまない。単に幸せだ、と感じたんだよ」

「何故急に?」

「カナリアを心配するクロ殿は、普段は何処か一歩引いた目で見ているにも関わらず、子供のように慌てふためいて可愛かった」

「可愛い、ですか」

「褒めているのだぞ? ともかく、可愛いと思うと同時に嫉妬もしてな。私にはまだない年月による積み重ねの愛情……というよりは、愛着のような物が見えてな。先程の互いに好きと言い合う事が、“特別であり普通でもある”事が羨ましかったんだ」


 それは先程のカナリアとの互いに好き、と言い合ったやつの事か。

 確かにカナリアは大好きである。だがそれはヴァイオレットさんとは違うタイプの好き、である。わざわざ言うほどの事でも無いというような、当たり前の好き、である。恋愛感情とは違うその好きが、ヴァイオレットさんにとって引っかかっていたのだろうか。


「だが、こうしてクロ殿と触れ合いながら話していると、そんな嫉妬は“小さな事”だと思えて、何処かへ忘れてしまいそうになるんだ。それが幸せな事だと思うと、自然と笑みが零れてしまったんだ」


 ――――。

 そんな事を、満面の笑みで間近で言われても困る。

 自分としては自然と接していた事が、愛する人にとって特別であり幸せである。なんて言われたら、嬉しくて嬉しくて――ああ、もう、この場で抱きしめようかそうしようかうんそうしよう。


「駄目だぞ、クロ殿」

「え?」


 抱きしめようとすると、ヴァイオレットさんが手を握った方とは逆の手で俺の額に指を当てて静止してきた。

 表情は相変わらず笑顔のままだが、何処かイタズラじみた笑顔であり。


「今は誰かに見せつけるより、クロ殿を独り占めしたい気分なんだ。その抱擁は、二人きりになるまで待っていてくれ」


 そして同時に、俺は彼女には勝てないと思わせる、魔性とも言える笑顔であった。


――他人の恋愛を心配している場合じゃ無いな。


 いつになったら俺は、彼女のこの笑顔が弱点じゃなくなるのだろうか。

 もしかしたら一生弱点のままではないかと思いつつ、屋敷へと一緒に歩いて行くのであった。


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