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誰にでもという訳では無い(:金糸雀)


View.カナリア



 シロガネ君の事が好きかどうかと問われれば、好きな部類には入ると思う。


 私の脈絡のない、思った事をただ話すだけの会話にも面白そうに聞いてくれるし、先日のシキの案内も私が気兼ねなく過ごせた。途中から私の趣味で森の方へキノコを採りに行ったにも関わらず、綺麗なお召し物や綺麗な肌が汚れる事も厭わずに一緒に楽しんでくれた。


――多分彼は、頭が良いのでしょう。


 相手を不快にさせる事無く、なにより私が成人男性相手でも怖さを感じる事の無い気配りをしてくれた。こういったストレスなく過ごす会話が出来るのは、受け手の相手が話し手に合わせる事が出来るからこそ出来る芸当だ。話して間もない相手に自然体で振舞わせる、なんて事は、余程でなければ出来ないはずだ。それもシロガネ君が優秀だからこそ可能になっていると言える。


――なんであんな男性が私に好意を……


 私の勘違いとも思ったのだが、私と会うたびに普段浮かべている笑顔とは別の生き生きとした笑顔や、弾む声を見れば流石の私も分かる。彼とは会って数日だが、それでも彼の私に対する態度はシアン・シアーズがスノーホワイト・ナイトに対する態度とそう変わらなかった。

 後ついでを言うと、昨日の夜にシロガネ君と、ソルフェリノ・バレンタインとムラサキ・バレンタインが部屋の方でしていた、


『お前は好きなカナリア嬢をこの滞在期間中に、手紙をやりとりし合う仲程度にはなれるのか?』

『何度も話しても結局連絡先を言えずにいるようですが』

『や……やってみせます。初恋の女性相手に、私はやってみせますとも……!』


 と、いう会話を聞けば嫌でも分かる。今思えばアレはソルフェリノ・バレンタインの策略だったような気もするけど……まぁ、そこは良い。あの会話のお陰でシロガネ君の私に対する好意に気付いた。

 ……詳細の年齢は覚えていないモノの、私のような結構年上の女性に初恋するとは、私もなんとも言えない感はあるが……うん、そこも置いておこう。


「ソルフェリノ様、ムラサキ様。ちょっとシロガネ君を借りても良いですか?」

「え」

「うむ、良いぞ。ちょっとと言わずに無期限に貸してやろう」

「え」

「ありがとうございます! でもあとでちゃんと返しますんでー!」

「え。ちょ、なんですか急に!?」


 年の差が犯罪的な感じがしたのはエルフだから気にせずに、とりあえずシキを周っていたシロガネ君一行を見つけ、シロガネ君をかっぱらう……じゃないや、貸して貰った。

 貸して貰う際にもソルフェリノ・バレンタインは「予想よりは早かったな」というような表情をした気がするが、別に邪魔をしている訳でも無いので気にしてはいけない。オール……じゃない、ルオは「え、今から外で!?」とかよく分からない事を言っていたけど、そっちは気にしてはいけない気がするのは何故だろうか。


「な、なんでしょうかカナリア様。私になにか御用でも……?」


 気になる気にならないという感情はひとまず無視しつつも、シロガネ君を連れだした私である。が、当然ながらシロガネ君には困惑されている。なにが起きたかも分かってはいないけれど、連れ出される際に手を握られたので戸惑いと嬉しさが混じっている、という魔力(ひょうじょう)だ。


「あ、シロガネ君。別に様はいらないよ。呼び捨てか偉大なるエルフのカナリアさん、のどちらかでお願い」

「間を取ってカナリアさん、で良いでしょうか」

「うん、それでも良いよ」

「……譲歩的要請法をされたような……いや、気のせいでしょうか……」

「なにか言った?」

「いえ、なんでもないですよ?」

「そう? まぁいいや。ちょっと話したい事があってね!」

「話したい事ですか?」


 さて、私はシロガネ君の事は好きな部類ではある。けれど恋人として見れるかと問われれば、見る事は出来ない。

 単純に会って数日なのでよく分からない相手、というのもあるが、彼は私にとって立派な相手が過ぎる。

 優しい性格、整った容姿、身なりが整っていて鍛えられた体躯。勉強が出来て、魔法が出来て、従者スキルはあのブルストロード兄妹をもしのぎ、気配り上手の家事上手。あと資産運用も上手くて、貯金も大分あるらしい。そんな、世の女性陣がまず放っておかないだろうというとても立派な男性だ。

 対して私は彼に勝っている所なんてせいぜいキノコ関係くらいなんじゃないか、と思うような女である。そんな私には勿体無い男性だ。ようは住む世界が違うので、恋人とかそんな(イメージ)が全く湧かないのである。


「ねぇシロガネ君。私の事好き?」

「ゴホッ!? え、ええと、はい。とても素晴らしい女性であると思いますよ」


 多分今のは「私が友達として好きか」と、問うたのだろうと思ってすぐに持ち直した感じか。……恐らく彼の主人達が見たら「折角のチャンスを……」みたいな目で見ていそうな気がするのは気のせいか。


「そっか、ありがとう。じゃあさ、ちょっと付き合ってくれる?」

「付き合――コホン。良いですよ。どちらに付き合えば良いのでしょうか?」


 ふむ、今のは思ったよりも惑わされなかったな。まぁ実際今のはそういう意味での付き合うではないのだが。


「私の家」

「そうですか、カナリアさんの――え」


 よし、とにもかくにも付き合ってくれるという言質は取った。後は目的地に一緒に行くだけである。


「実はキノコ栽培が進んでいてさー。立派に育ったのもあるから、それを是非見せたいんだよね!」

「え、い、家に行って良いのですか? いえ、異性を誘うなんて――」

「シロガネ君だから良いの。安心出来るし」

「私だから……そう、ですか」


 うん? 今のは……ああ、信頼はされていても、男として見られていないから複雑、という所か。


「では、行きますか。キノコを見るのが楽しみですね」

「うん、活きの良いキノコがあるから楽しんでね!」

「活きの良い……え、キノコですよね?」

「え、キノコは活きが良いのが良いよね?」

「……そ、そうですね。楽しみです」

「うん、じゃあ行こっか! あ、それと行く前に言っておきたいんだけどね」

「なんでしょう?」

「私は男性は怖いし、シロガネ君は男性だし、誰にでもキノコを見せる訳じゃないんだ」

「はい?」

「……ま、そういう事だから、早速行こっか!」

「え、お待ちください、カナリアさん。今の発言はどういう――」


 ……なにかする訳でも無いし、好意を受け入れる訳でも無い。まだ彼と付き合うかどうかなんて分からないけれど、私から積極的に話し合いを進めるくらいは良いだろう。

 そんな事をよく分からない緊張を頬に感じながら、シロガネ君がなにか言おうとしていたけれど、私は聞く事無くそのまま家へと向かって行ったのであった。


 ……その後の事を少しだけ語るのならば、なにか特別な事があった訳では無いけれど、これから手紙を交換する事にはなった、とだけ語っておく。


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