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何故か周囲は存在に気付かない(:灰)


View.グレイ



 一年の部の試合の休憩時間に、私はアプリコット様と共に闘技場内にある飲み物を売る場所に来ていた。

 初めはバーント様が私の代わりに買いに行かれようとしたけれど、クロ様がわざわざ私に頼んで買いに行っている。その時は気付かなかったけれども、どうも私が闘技場内を探検してみたいという事を見抜かれていたように思える。


「タピーナオカ……これはなんの卵なのでしょうか……」

「弟子よ、それはキャッサバから採れるデンプンを加工したモノらしいぞ」

「キャッサバ……確か毒ですよね。これはエメラルド様が開発したのでしょうか」

「いや、そこは大丈夫なはずだ。ああ、店員よ、すまないがその飲み物を一つ。一番小さいヤツで良い」


 私が興味を持っていると、アプリコット様がその飲み物を買われた。頼まれていた物とは違うので、アプリコット様が飲まれるのかと思ったが、


「ほれ、弟子。興味を持ったのならば試してみろ。滅多にない機会なのだから、気になるに留めておくと後悔するぞ」

「え、あ、ありがとうございます」


 店員の方から飲み物を受け取ると、私に向かって差し出してきた。

 相変わらず気配りが上手で、クロ様とヴァイオレット様とは違う価値観をお見せしてくださるお優しいお方だ。


「ああ、ただクロさんやヴァイオレットさんには内緒にな。予定したモノとは違うモノを買い、弟子が飲み過ぎとあっては我の今日が説教(ディエスイレ)になってしまう」

「はい、絶対に言いません!」

「ふ、良い返事だ」


 私はその言葉に返事をして頷き、迷惑にならないようにと売り場から少し離れる。

 妙に太いストローを見て、沈んでいる黒い塊に本当に飲み物なのかと怖さ半分で眺めつつ、アプリコット様にその様子を微笑ましそうに見られたことに気付いたので、咳払いをして改めて飲もうとすると。


「こんにちは」


 ある女性に話しかけられた。

 私達に声をかけたのは金色の髪に赤い瞳が特徴的な、ヴァイオレット様とは違う種類の美しさを持つ女性。いわゆる妖艶さ、とでも言うべき外見を持つ女性だった。


「メアリー・スー、様?」

「一昨日会ったのを覚えていてくれたんですね。以前はシアンさんに連れ去られていまして挨拶もあまりできませんでしたが」


 そう、メアリー・スー……様。

 ヴァイオレット様を、この学園にて貶めた要因となった存在。

 勿論ヴァイオレット様にも貶められる原因があったのは知っている。メアリー様に強く当たり、元婚約者のヴァーミリオン殿下の話を聞かずに周囲が見えていなかった、という事があったのも事実だ。しかし身勝手な話だとは思うけれども、メアリー様の事は殿下と同じであまり好きになれず、警戒を抱いてしまう。


「以前は挨拶が出来ませんでしたね。改めてはじめまして。私めはクロ・ハートフィールド様にお仕えしております、グレイと申します。以後お見知りおきを」


 私がタピーナオカが入った飲み物を持ちながら礼をする。せっかく買って頂いたので早めに飲みたいが、今飲んでも味気ないだろう。

 私の後にアプリコット様も挨拶に続き、メアリー様も改めて挨拶を返した。メアリー様の仕草はヴァイオレット様とは違う種類の優雅さがある。


「それと、先程の試合での白星おめでとうございます。拝見した限りでは、優勝も難しくないのではないでしょうか」

「ふふ、ありがとうございます。ですが勝負は時の運とも言いますから、運に見放されないように出来ることを為すだけですよ」

「素晴らしい心掛けなのですね。尊敬いたします。……失礼ですが、私め達に用があったのでは?」


 社交辞令もそこそこに、私はあまり会話を続けてはならない気がしたので早めに本題に移ろうとした。


「キミは、クロさんの息子なのですよね?」

「……はい、養子ですが」


 するとメアリー様は妖艶な笑みを浮かべ、こちらに自然過ぎて一瞬気付かないほど静かに近付いて来た。近付くことによってより見える赤い瞳は、こちらの全てを覗き込むような感覚に陥られるような不思議な感覚がある。


「そんな君から見て、お父さんはどう映っているのかな?」

「どう、とは」

「例えば立派とか尊敬しているとか、不思議な事を知っている、とか」

「……尊敬していますし、立派な方だと思っております。不思議な事に関しては、私め自身が浅学なため、凡その事が不思議に映るため分かりかねますが」

「そっか、じゃあ夫婦仲はどうかな?」

「仲睦まじいと思います。一歩踏み切れていない感はありますが」


 不思議な声と息遣い。

 顔を近付けられて熱を持つ息が肌にかかり、妙な感覚に支配され、メアリー様の質問に何故か素直に答えてしまう。まるでこの空間に私とメアリー様しかいないようで――


「メアリー殿。あまり我の弟子を虐めないで欲しい」


 と、私の感覚が妙なものになる前に、アプリコット様に肩を掴まれて身体事寄せられ、私の意識が元に戻り周囲が騒めきのある闘技場であることを思い出した。……なんだったのだろう、今のは。


「ふふ、そんなつもりは無かったのですがね。ごめんなさい、アプリコットちゃん」

「いや、こちらこそすまない。ただ質問しているだけかもしれないが、弟子も多感な年頃だ。貴女のような美しさを持つ女性に近付かれると緊張をしてしまうだろうからな」

「あら、ありがとうございます。気をつけますね」


 メアリー様は照れとも余裕ともとれるような笑顔のまま軽く礼をし、謝罪する。

 その表情からは真意が読み取れないが、不思議と真意など気にならないかのような仕草で、問い詰めようという感覚は沸き上がってこない。


「クロさんに興味があるのか? 我で良ければ問い(エニグマ)に答えるが、彼には伴侶(イヴ)が居る。恋愛感情を持つ異性としての興味ならば……」

「ふふ、いいえ。そういうつもりはないですよ。ただ不思議な方だと思ったから興味が湧いたのです。はしたないとは思うのですがね」

「不思議? 先程も言っていたが、どういう意味だ? 別にクロさんは毒を進んで食べないし、愛を語る時に殺しあわないし、機械(アーティファクト)に身を包んで大空を滑空するようなシキの住民と比べると普通だが」

「ごめんなさい、なにを言っているかよく分からないです」


 ……? そういう方々はシキ以外にも居ないのだろうか。そういえば首都に来てからあまりシキの方々のような行動をする方に会っていない。まだ一週間も経っていないが、シキの方々が少し懐かしい。


「不思議というのは、ですね」

「メアリーくん!」


 メアリー様が言葉を続けようとすると、少し遠い場所から男性の声が聞こえてきた。

 声の方に私達が見やると、そこに居たのは白い髪に黄褐色の瞳の、クロ様より身長の高いスラリとした爽やかな男性。確か一昨日見た劇でメアリー様と一緒に演技をされていた方だ。名前は確か……


「エクル先輩」


 そう、エクル・フォーサイス。

 ヴァイオレット様の一つ上の伯爵家の方、だったか。


「歓談中悪いね、メアリーくんの試合の番になるのに、控室に居ないものだから探していて」

「あ、ごめんなさい先輩。もうそんな時間でしたか」


 メアリー様はエクル先輩様に謝罪と感謝の言葉を言うと、こちらに向いても一つ礼をする。


「ごめんなさい、グレイくん、アプリコットちゃん。出番だからもう行かないと」

「いや、気にすることは無い。活躍を期待していよう」

「はい、僭越ながら私めも応援させていただきます」


 私も礼をすると、メアリー様は感謝の言葉を述べた後、一言二言会話を交わし「また機会があれば」とまた会う約束をする。……出来れば次に会う時は、もう少し心持ちをしっかりしたいと思う。

 あとエクル先輩様は手持無沙汰なのか、首に手をやっているが何故だろう。癖なのだろうか、首でも痛めているのだろうか。


「ああ、それと」


 メアリー様は去る間際に、私が持っている物に視線を移し、


「その飲み物、美味しいですよね。私も好きです」


 と言い、笑顔で去っていった。……なんだろう、彼女の笑顔は何故かズルいと思えるような感覚がある。魅力的、という言葉が合うだろうか。

 そしてタピーナオカが入った飲み物は、少し温くなってしまった。

 戻る前に飲んでしまおうと思い、飲んでみると未知な感覚の飲み物であり、味も良いと知る事が出来た。買ってくださったアプリコット様には感謝しなくては。

 ただ、記憶に妙な記憶(モノ)が入ったことが、少しだけ残念だ。出来ればこの体験はアプリコット様とだけの記憶にしたかった。







「遅かったな、グレイ、アプリコット。混んでいたのか?」

「いえ、そのような事は無かったのですが……」

「? なにかあったのか?」

「……一言で表現するならば、汚されました」

『え!?』

「弟子、恐らくあの妙な感覚のことを言っているのだろうが、言い方は選んだ方が良いぞ」


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聖女、悪人やん。
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