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証明(:?)


View.?



「失恋、デスカ」


 私の問いかけに対し、ロボはキョトンと年齢相応な可愛らしい表情になる。素顔を見せるようになってからの彼女はとても良い表情をするようになった。これも恐らく隣に居る獅子のようなルーシュ・ランドルフに恋をしたからであろう。

 ……私が失恋したという相手も恋をしているし、周囲の恋をしている皆も彼女に似た良い表情をするようになったので、この表情が恋によるものならば恋とは実に素晴らしい物なのだろう。ただ、失恋したらしい私の場合は別にこんな風な良い表情を失った訳でも無い。となると、やはり私が失恋していないのか、表情は恋とは無関係なのか、はたまた良い表情を失った自覚が無いのか。それも失恋について聞けば分かるかもしれない。そう思い、私は聞き、答えを待っていた。


「ウウン、ドウデショウ。ワタシは失恋をした事が無いデスシ、自分の恋以外は分かりマセン。ルーシュクンはどうデスカ?」

「オレも貴女が初恋だからな……初恋が実ってオレは幸せだぞ、ロボさん」

「い、今はそういう事を聞いてはイマセン!」


 成程、これが惚気というやつか。

 失恋したての時にこういう事をされるとイラっすると聞くが、イラっとは来ずにさっさと結婚しないかな、と思うだけである。……というかなんでシキで恋をしている皆は、こんな風にあらゆる事をイチャイチャに繋げるのだろう。シキの風土病的な奴なのだろうか。


「しかし経験がないとはいえ、ある程度は答える事は出来る。だがその前に、その失恋はどういった意味での失恋だ?」

「どういった意味、デスカ?」

「告白してフラれた、意中の相手が別の誰かを好きだった、長年付き合って別れた、などだな」

「ナルホド」


 つまり、好きだった異性に行動を起こして失恋した。

 思いだけ募らせて行動せずにいた事により失恋した。

 想いを通わせた、燃える様な恋心が終息し失恋した。

 確かにそう言われると似ているようで、違う失恋だ。

 言語という音を以って説明を受けるとおおよそ認識していた失恋にも多くの種類があると気付く。やはりこうして聞いてみたのは正解だったかもしれない。

 だが、私の聞きたい失恋はどれも違う。


「どれも違う? と、なると一体どういった物だろうか」


 私は失恋を証明したいのである。


「……む?」

「……エ?」


 “世の中における、最上の証明は経験だ。”という言葉を以前メアリー・スーから聞いた。私もその言葉には大いに同意する。しかし私は失恋を経験したにも関わらず、失恋というものが分かっていないのである。

 これでは経験した意味が無い。私はこの失恋を証明する事で、経験として私の中に私という存在の経験値を蓄積をしたいのだ。


「……失礼だが、それは証明する必要はあるのだろうか。失恋は心苦しいもの。証明したとして、苦しむだけではないか?」

「ソ、ソウデス。失恋したけど、今は苦しくなかった、というのが現在の経験の証明で良いのでは無いデスカ?」

「ロボさんの言う通りだ。気持ちはどう解釈するかは自由。無理に証明は必要あるまい」


 その答えも正しい物だとは理解している。だが、自由は不安になるのだ。

 私は自由にこの気持ちを定義出来る。

 私は自由に趣味に没頭できる。

 私は自由に好きな事をし続けられる。

 私は自由に嫌いな事をしなくて良い。

 ――けれど、何処までも行ける枷から外れたままの自由でいると、不安になるのだ。私は自由のままでいいのか、と。

 私より強いだろうが、シキの皆もそうなのだろう。シキの皆は自由ではあるが、ある意味ではシキという地の枷をつけている。その枷は何処までも上まで行く事を阻みはするが、不安は少なくなり、なにより枷という重みが行く方向をゆっくり定める事が出来る。

 だから私は自由に振舞う事で、失恋が終わっても自覚が無いのならばそれで良い、などと決める事は出来ない。恋という言葉を自由に終わらせたくはない。

 だから私は失恋した事と向き合い、今後の参考にして経験にしたい。


「エエト、まず失恋……したのデスカ?」


 ああ、そうだとも私は大いに失恋をした。

 この世で最も好き、愛していると言っても過言ではない相手が別の誰かと乳繰り合っているのである。これが失恋と言わずになんと言うのか!


「ソ、ソウデスカ」

「何故こんなにも堂々としているんだ……?」

「ルーシュクン。シッ、デスヨ」


 だが、残念な事に私に失恋の自覚は無い。私は失恋したはずなのに、通常の失恋で湧くと言われる感情の悲しさとか悔しさとか一切湧かない。一体どういう事なんだ。

 やはり失恋していないという事か? いや、そんなはずは無い。私は失恋したはずだ。


「反語デスカ?」

「ちょっと違う気がするぞ」


 ならば証明するしかないじゃないか。

 私の失恋を証明する事で、私の中の悲しさと悔しさの感情を爆発させて経験とし、今後に生かすとしよう。そうすれば折角経験した失恋を糧に出来るというものだ!


「アノ、聞くのは失礼デスガ……失恋の相手を良ければお聞かせ願えマスカ?」


 そうすれば私は――


「私の失恋した相手。恋をしていた相手は――クロだよ」


 私は、前を向いて彼と接する事が出来る。

 ……そして、彼と付き合う事が出来る。


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