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シキの領民(:?)


View.?



 今日もシキは平和だ。


 様々な理由で流れ着いた多くの領民が自分らしく生きる事ができ、それでいて今のシキが壊れないようにルールを守り、力になっている。

 本来なら別の所に行ったり、流浪の旅に出た方が彼ららしく、好きに出来る様な領民も居る。けれど彼らは「今はその時ではない」と、安寧と刺激、発展を得られるこのシキに居心地の良さを感じ、シキの領民となっているのである。

 もちろん月日が経てばシキを去る者達も居るだろう。いつまでもシキに居る事が、彼ららしくある事ではないのだから。


 例えばアイボリー・アレクサンダー。

 首都で提起した医療方法を記した本を発禁処分とされ、当人の勤務態度と倫理観が問題で首都を追い出された優秀なお医者さん。

 彼は数年の間首都以外で医療行為を行わなければ首都に戻れないのでシキに居るという事に()()()()()

 事実は公式には存在を否定されているような教会関係者であり、過去にフューシャ・ランドルフの傍で仕え、絆された。そして巡り巡って王族に忠誠を誓い、ローズ・ランドルフに仕える事となったのだが――フューシャ・ランドルフの幸運に巻き込まれる形で怪我を負い、療養と当時領主が交代したばかりのシキに行く事となった。

 一応本の発禁処分も彼が医者という事も事実ではあるので、シキでは医者として働いているようではある。だが、彼もシキの抱えている問題を終わらせればシキを去る事になるだろう。


「フハハハハハ、良いぞ善いぞ好いぞ! このシキに居ると患者共が新しい症状を抱えてやって来る! 度し難い馬鹿共、俺に怪我を治させろハハハハハハ! ――む、ああ、奥さん。その後の怪我の調子は――なに、その時のお礼だと? いらん、金は充分に貰っているし、俺は怪我さえ治せればそれで――ああ、分かった押し付けるな、受け取る! ……くそっ、なんでどいつもこいつも医者のいう事を聞かんのだ……。……いや、すまない。助かるよ。身体は大切にして、二度と怪我をするなよ、愚患者が」


 ……まぁ、彼はなんだかんだシキを好きではあるようなので、どうするかは彼次第かもしれないが。

 あと、個人的にはエメラルド・キャットやフューシャ・ランドルフとどうなるかを知りたい。個人的にはエメラルド・キャットと良い感じだと思うのだけど、悪友な感じもするので微妙な所だ。



 例えばカーキー・ロバーツ。

 様々な男女を抱いて来たプレイボーイ。

 相手が三倍以上生きていようと同性だろうと、両性具有だろうと性別無しだろうと不定形だろうと、命に関わろうと抱けるのなら抱くという剛の者だ。ちなみに私は過去や厳命によりあまり誘われる事は無い。

 彼が今シキに居るのは、手を出してはいけない相手に手を出した反省によるものだ。……反省しているのなら、そもそもむやみやたらに誘うのをやめた方が良いとは思うのだが、そこは彼らしさと言うべきか。

 ともかく、それがなければ彼は抱けるだけ抱くために世界へと羽ばたいていくだろう。コーラル・ランドルフも現在では精神が落ち着いているというし、場合によっては彼の過去の件も許され……まではいかないものの、緩和くらいはされるかもしれない。あの子もなんだかんだで頭が固いし、難しいかもしれないが。


「ハッハー、冒険者のお嬢さん、こんな所でまた会えたのも運命だ! どうだい、今夜俺の家にでも――ん? “また”って、そりゃ、五年前の冬、路銀が無いからと俺が分けただろう? そりゃ覚えているさ。うん? ああ、いや、あの時のお礼が欲しい訳じゃないし、返すために身体で払えという事でもないんだ。俺は金を払って一緒に寝る趣味は無いんだぜ。あくまでも俺という男に惚れこんだのなら、一緒に寝て欲しいという事なんだぜハッハー――って、何故泣くんだぜ!?」


 ……うーん、彼は所かまわず誘いはするけど、シキの皆に好かれているのはなんとなく分かるんだよね。こう思うのはなんだけど、彼はシキに居続けて欲しいなぁ。無理にとは言わないけど。



 他にもグレイ・ハートフィールドとアプリコット・ハートフィールドのような、成長するために学園に行ったように、いずれ戻って来るとしても去りそうな領民は多く居る。

 しかし反対に、シキが今のシキである内は残る流れ着いた領民も居る。

 それは例えば、オーキッド・■■■■■■と、ウツブシ・■■だ。

 黒魔術師と、暗殺者集団の一族(パンダ)

 両名共それぞれの理由で生まれ故郷から逃げた上に、それぞれに追手もかけられた。追ってから逃げる際には様々な傷も負い、大丈夫だと思った場所で裏切りにあい人間不信にもなりかけたようだ。

 両名が追い求めたのはあくまでも安寧であり、自分達が馴染む事が出来る場所であった。

 だが人間不信になりかけていた両名は町で暮らすよりも森の奥地でただ暮らしていこうとしたそうだ。

 しかし現在のシキに辿り着いた際に、当時代わりたての領主にお忍びで会いに来ていたスカーレット・ランドルフとその領主が追手を返り討ちにして、処罰したそうだ。

 まだ追手がかかるかもしれないため、迷惑をかけるとシキを去ろうとしたそうなのだが、「安心してください、その時は全力で返り討ちにしてやりますので!」という説得や、シキなら彼らの在り方も馴染めるという事と……彼らを受け入れ、守ってくれた領民に感謝の意を示すためにシキに定住を決めたようである。


「ククク、ウツブシ、最近思うのだが、亜空間の中に自分たちの屋敷を建てて過ごすというのはどうだろう。そこならなにをしても周囲に迷惑をかけずに黒魔術も出来るし、君の負担も減るんじゃないかな」

「え、いや」

「ククク、何故だい?」

「だってあの空間自己認識が甘くなって世界に溶け込みそうだし……なにより、シキで過ごすのが楽しいのに、誰も居ない空間に居たくない」

「……確かにそうだね。シキに入れないのは、寂しいなクククククク!」


 亜空間の煉獄、か。

 ……ちょっと行ってみようかな。どうやら私は失恋したみたいだし、少しくらい考えない時間があっても良いかもしれない。


備考 カーキーが路銀をあげた冒険者

路銀が無いのは本当で、カーキーを騙すか、無理なら身体でお金を貰おうとしたのだが、路銀が無いと言ったらあっさりと一晩の宿を摂って貰った上にご飯も奢ってもらい、別の部屋で寝た次の日の朝には手紙と共に路銀を置いて行ったとか。

お人好しで馬鹿と思うと同時に、今までカーキーを探し回っていたようである。


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