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ムネ(:紺)


View.シアン



「良いですか、ムラサキ様。男は見える所に乳を放り出せば視線が吸い寄せられるモノなんです。それはもう物が地面に向かって落ちるくらいの自然の摂理です」

「それを私に言ってどうするつもりなんですか」

「開放的になれと言っているのです! 今、この屋敷の中は私達以外に誰も居ないのです! ――さぁ、開放的になりましょう!」

「なりませんよ!」


「シロガネ。確か物というのは大きな物に引き寄せられる性質があるという学説があったな」

「はい、そうですね。ですが何故急に?」

「つまり女性の胸は大きい方が視線が引き寄せられるという事だな?」

「その学説を唱えた方はそう言った意味では言ってはいないと思いますが、多くの男性は引き寄せられるかと」

「なるほど。……よし、胸板を厚くするために鍛えた方が良いな」

「あ、そちらに行くのですね」

「という訳で、シロガネ、脱げ」

「はい?」

「俺とお前、どっちの胸板が引き寄せられるかムラサキとルオ嬢に確認してもらうぞ!」

「落ち着かれてください!」


 なにやってるんだろう、彼らは。大の大人が四名も揃って胸が露出がどうだのなんだのと語り合っている。

 まぁ、それだけならまだ良いのだけど、ちょっとスイ君には聞かせられない内容の話と夫婦の営み的な話もしている。咄嗟であったのでスイ君を後ろから腕を回して頭を絞めるような形になったが、見せない・聞かせないようにしたとっさの判断は間違っていなかったとは思う。


「“……あの、シアンお姉ちゃん。急にどうしたの?”」

「“まぁ、なんというか……スイ君にはお見せ出来ない光景があったんだよ”」

「“? 血とか肉、臓器とかは大丈夫だよ。衝動も抑えられるし、慣れてるから見ても平気”」

「“慣れてる?”」

「“うん、お姉ちゃんと一緒に昔、孤児院に騙されて貧民街(スラム)に捨てられて過ごした時に大分慣れたよ”」

「“あー……分かったけど、そういうのじゃないから”」


 なんだか勘違いしてはいるようだが、とりあえずその孤児院をぶっ飛ばしに行きたいとは思った。


「“そういうのじゃない……もしかして、空き家を利用して何処かのカップルが侵入した感じの類?”」

「“……まぁ、そうかな。オルちゃんが楽しそうに開放的になってる感じ”」

「“あー……なるほどね”」


 スイクンは遠回しに言い、そして私の補足に大体の事は察したようである。


「“……まぁ、そっちも大丈夫なんだけど……自分に慣れたと言い聞かせないと駄目だから……”」

「“どういう意味?”」

「“あ、念話で話しちゃった。……なんでもないよ。うん、なんでも無いから気にしないで”」

「“そうなの?”」

「“うん。……単に僕は普段から鋼の理性を持たないと日常を過ごせないという事なだけだから”」


 よく分からないけど、普段から鋼の理性を持つ事でシュネ君との切り替わりや衝動をどうにか出来ている、という事だろうか。

 流石はスイ君だ。教会唯一の未成年だけど、時には行き過ぎた私達を諫めるために誰よりも大人びた説教を繰り広げる事があるだけはある。


「“じゃ、大丈夫そうだし去る? それとも許可を得ているか聞いておく?”」

「“んー……居るのはクロの屋敷に居るヒト達ばかりだし、大丈夫でしょ”」

「“了解。……あと、そろそろ放してくれる?”」

「“あ、ごめん”」


 そういえばずっとホールドしっぱなしだった。このままという訳にもいかないし、ゆっくりとこの場を去り、彼らの会話が聞こえなくなったら離すとしよう。

 さて、そうと決まればゆっくりと去って――


「ムラサキ様、良いですか。男は大抵、どんなに怒っていても女性の胸の谷間に頭を埋めさせれば怒りが緩和される生き物です。そして安堵か興奮を得ます」

「そのような事は無いと思います」

「そのような事があるんです。ねぇ、ソルフェリノ様、シロガネ様?」

「彼らはまず無いですよ。女性に対して鉄壁の理性を――」

「否定はしませんよ」

「シロガネ!?」

「私の父とかそんな感じだったんで」

「そ、そうですか。ですがソルフェリノ様は――」

「それをされる対象がムラサキ相手なら理性など塵芥になるぞ」

「ソルフェリノ様!?」

「ほら、男はそういった事で喜ぶんです……さぁ、その大きなお胸を開放させれば、貴女の旦那様は貴女により惹かれるのですよ……!」

「う、うぐ……わ、私は決してそんな誘惑に負けたりなんかしません!」


 ……本当に、まぁ、なんというか、妙な世界が繰り広げられているなぁ。あと何故かは知らないけど、ラッキーちゃんの発言が誘惑に負けるヒトの発言に聞こえるのは気のせいだろうか。

 というか男性は谷間に頭を埋めさせれば良いと言い、その場にいる男性陣も同調をしているが、本当にそうなのだろうか。

 過去に神父様に対してそんな事があった気もするので、完全に間違いという訳でも無いだろうけど……私にはよく分からない所である。イオちゃんみたいな感じだったらもっと喜んだりするモノなのかな。


――ん、あれ。そういえば今の体勢って……


 これ以上聞くまいと去ろうとした所で、ふと私の体勢を意識する。

 私は今、スイ君の後ろから周って腕で目を覆うようにしている訳ではあるのだが……そうなると埋める、というほどではないが自然とある部分があたったりもする訳だが。

 …………。

 ……うん。


「“あの、まだ解かれないのでしょうか”」

「“もうちょっと待ってね。……ねぇ、スイ君”」

「“なんです?”」

「“今の体勢を神父様にしてあげたら、男の子として喜ぶと思う?”」

「“ここでそれを喜ぶって答えたら、僕が変態になりません?”」

「“……そうだね”」


 そんな、よく分からない会話をしながら、私達はこの場を去るのであった。

 ……でも、その回答になるって事は……うん、スイ君のためにも答えを出すのはよそう。


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[一言] シアンに自覚が芽生えたようで何より……。?
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