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愛されし才能(:菫)


View.ヴァイオレット



「――(シッ)!」


「行きます!」


「カーバンクル!」


「――ハァッ!」


 シャトルーズ、シルバ、アッシュといった、この闘技場の四ヶ月ほど前の決闘において明確に敵となっていた元同級生も順調に混合戦を勝ち抜いた。トーナメントになる際に組み合わせが盛り上がるような配置になっている気がするが、ともかく私だけではなくクロ殿達も知っている面子が順調に勝っていった。あとついでに殿下も勝っている。

 しかし中でも驚きなのが……


「アッシュのやつ、風の精霊であるカーバンクルと契約したと聞いていたが本当のようだな」


 アッシュが精霊と契約をしていた。

 それも風の精霊の中でも上位とされ、契約した者はここ十数年居ないとされているカーバンクル。噂で契約したとは聞いていたが、本当にしていたとは。 

 それに今見た限りでは充分に心を通わせているように見える。只でさえ優秀なアッシュの風魔法がさらに強くなり、学園内でもトップクラスになっているだろう。


「そういえばアプリコット様は精霊と契約はなさらないのですか? 高位な魔法使いは契約をして居る方が多いと聞きます」

「魔法の底上げには良いだろうが、無理に契約しても反感をかうだけだからな。然るべき時が来れば来るだろう。無ければ縁が無かっただけだ」

「そういうものなのですか」

「そういうものだ」


 ふむ、意外だ。アプリコットの事だから「我にはもっと強大な精霊でなければ見合わない!」などと言うかと思ったが、あまり興味が無いようだ。確かに縁が無ければとことん縁が無いからな、精霊との契約は。


「…………」

「どうした、クロ殿?」


 どちらかと言うと、カーバンクルを見てから妙に注視しているクロ殿の方が興味があるように見える。あるいはクロ殿は魔法関連に関しては疎いため、ただ憧れて羨ましがっているだけかもしれないが。


「……いえ、精霊と心を通わせているようで、少し羨ましいと思っただけですよ。それにもしアッシュ卿が俺と対戦することになったら、大変そうだな、と思っただけです。流石にあの風よりは早く動けませんし」


 羨ましがっている……のだろうか?

 どうもアッシュがカーバンクルと契約している、という事に反応しているような気がするのは気のせいだろうか。

 しかしクロ殿はアッシュの風魔法より早く動けないとは言うが、動けそうな気がしないでもないが。


「――第七試合開始!」


 続いて次の試合が始まっていた。

 参加者を見るが、彼女の姿は見えない。出場するらしいとは聞いているので、そろそろ彼女の姿が見えても良さそうなものだが。見た限りでは注目するべき参加者は見受けられないが、私の居ない間に能力をあげた者が居る可能性もある。一応は見ておかなくては。


「土の気持ち、土の気持ち……」

「おい、あの選手急に地面に埋まり始めたぞ! なにがしたいんだ!」

「くくく……さぁ眷属達よ、力を開放せよ!」

「あの選手見た目が怪しいけどやってることはただの闇魔法だ!」

「行くぞ、封印された力を開放する!」

「む、彼は以前の……あの腕に巻いた包帯はやはり彼も我と同じこちら側の者だったか」

「私は勝って――可愛い子供(ショタ)達に尊敬される存在となりたいんだ!」

「なんだあの気迫は、余程成し遂げたい事があるという気概が見える!」


 ……なんと言うか、その。


「……クロ殿」

「……はい、なんでしょう」

「……彼らは調査でシキに来た者達のような気がするのは気のせいか」

「……気のせいだと思いたいですね」


 クロ殿は彼らを見て、額に手をやり頭を痛めていた。

 一応は当事者が楽しそうで、私の記憶では以前より魔力などが高まっているので良しとしよう。……うん、良しとしよう。


「では、続いての参加者は集まってください」


 試合も無事(?)終わり、続いての試合に出場する選手達が集まってくる。

 こうしてはいられない。妙に頭を痛める選手達ばかりだったが、今は切り替えなくては――


「……あ」


 出場する選手たちを見ると、彼女が居た。

 一昨日と昨日に主演した劇が話題となり、今回の試合においても注目を集めている彼女。

 場に現れた瞬間に、満員に近い観客達が騒めき出す。外見だけに興味を抱く偶像(アイドル)のように見る者や、錬金魔法という希少魔法を扱う者として有名な彼女が先程のクリームヒルトを見てどういう風な戦い方をするのか注目する者。様々な者達が注目する中、


「――――」

「……っ」


 彼女は私達を見つけ出し、微笑みながら手を振った。

 なにを考えているのか分からない。未だに謝罪が出来ていない中、私に好意的に接そうとしている理由も。微笑みを向ける理由も。彼女は本当に……分からない。


「……――では、一年の部、第八試合開始!」


 定型となる決闘の誓いの言葉と開始の言葉と共に、彼女を除く全員が一斉に彼女に向かって魔法なり物理なりで攻撃を仕掛けた。

 知らぬ者からすれば多で一を襲うという異様かつ顰蹙を買うような行動。だが、知っている者からすれば勝つための行動として納得できる行為。

 そして恐らく今回の参加者の全員が理解しているのだろう。彼女は美しく守りたいような聖女のようであれども、同時に――


「――【光と闇の(サン)混合上位魔法(サーラ)】」


 ――同時に、神に愛されたかのような魔法適性を持つことも。理解しているのだろう。

 聞いたことの無い魔法名。

 見た事のない視覚効果。

 知りえない威力。

 ただ、分かる事は、彼女はまた新たな視点と発想で、魔法を編み出したという事だけだろう。


「――審判さん、終わりましたよ?」

「……えっ、あ、し、試合終了! 勝者メアリー・スー!」


 気が付くと試合が終了していた。

 先程の魔法だけでは終わりはしなかったが、その後も複数の魔法を唱え、素晴らしいとしか言いようがない戦闘技術を発揮し、傷がつくことなく試合は終了した。

 観客席も見惚れるものと、喝采を送る者が多い。


「……成程、シャトルーズが我にあそこまで彼女を称える理由が分かった気がする」

「……アプリコット様」

「案ずるな、弟子よ。理由は分かっただけで、彼女の味方をするという訳では無い。だが、彼女の魔法が素晴らしいと言うのも事実だ」


 現にアプリコットもその魔法と戦闘に関して、純粋に賞賛の言葉を送っていた。

 ……彼女の魔法は、本当に素晴らしい。認めたくない気持ちも何処かにはあるが、認めなければならないだろう。


「サンサーラ、ねぇ。……ワザとなのかね」


 ただ、クロ殿がその魔法を見て、驚きもせず観察するかのように見ていたのだけが気になった。


ヴァイオレットのアッシュ呼び

・対面した際には意識して家名で呼んでいますが、ふとした時には学園に居た頃のように名前で呼んでしまっています。

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[一言] なるほど愛の女神か
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