許容範囲の開放化
「時にヴァイオレット。一つ聞きたい事があるのだが」
「なんでしょう、兄様?」
恨みがましい声が聞こえたのだが、周囲に居る者達……俺とヴァイオレットさんとシロガネさんとアンバーさんは目で謝りつつ無視をしていると、相変わらず紅茶を優雅に飲むソルフェリノ義兄さん(ムラサキ義姉さんの抗議の眼差しも優雅に受けている)が尋ねて来た。
「お前達のように人目をはばからずイチャイチャしても、恥ずかしくなくなる方法はあるのだろうか」
「まず私達を人目をはばからずイチャイチャしている者達という前提で話さないでください」
「違うのか?」
「人目はそれなりに気にしますので」
「それなりか」
そうだね、それなりだね。人の前でわざわざやろうという事はあまり無いのだが、気が付くとはばからずにしているというだけである。自然の摂理、というやつだ。……違うか。
「ムラサキお義姉ちゃんは御実家の風習的にもあまり人前で、というよりは、二人きりの時に愛を紡ぎたい御方なのでしょう。人目を慣れさせるよりは、二人きりの時に愛を紡ぐ方を深めればよろしいのでは?」
おお、ムラサキ義姉さんがものすごい勢いで頷いている。やはり嬉しくはあっても、このような場所でのイチャイチャは遠慮願いたいようである。
「ヴァイオレット。私とお前は血の繋がった兄妹だ」
「え? あ、はい、そうですね?」
「お前は義弟に対し、ふとした時に触れあいたいと思うこの気持ちを抑えられるか?」
「なるほど、無理ですからムラサキお義姉ちゃんを慣れさせる方にした方が良いかもしれませんね」
おおっと、ムラサキ義姉さんが「!?」という表情をしている。まさに途中ではしごを外されたかのようだ。
というかヴァイオレットさんはそれで納得して良いのか。兄妹だからこそ分かるなにかを感じ取ったのだろうか。
「ですが、無理をすれば許容範囲が越え、そっぽを向かれるというものですよ」
「そういうものか」
「そういうものなのです。やりすぎは禁物ですよ」
これは受け入れた上で違うと諭す感じか。ムラサキ義姉さんも感じ取ったのか、そのまま言って欲しいかのように目で訴えている。
「ですから兄様。相手許容範囲を見極めていくのが重要なのです。ギリギリを狙うのです」
「なるほど、つまり一気にいってはもったいない」
「ええ、常に相手の反応を楽しめるような策略を練り、言葉で攻めると楽しいのです」
「なるほど、イタズラの範囲で済ませられる行為をしてイチャつけという事か!」
「その通りです兄様!」
『お二人はいい性格の兄妹ですねぇ!』
流石に俺もムラサキ義姉さんと一緒に突っ込んだ。どう考えても俺の事も言っていたからな!
「ふふ、冗談だよクロ殿」
「その通り。妹と共同して愛する妻や夫の反応を楽しんだだけだ」
ええい、こんな所で兄妹感を出さないで欲しい。以前から思っていたけど、割と本質似ているよな、この兄妹は。
「で、であればこの後ろからの抱きしめも……?」
「いや、これは私が愛おしく感じてしたくなっただけだが?」
「だけだが、じゃないですよ……!」
……うん、やっぱり似ているな。俺もムラサキ義姉さんみたいな反応をする事が少々――多々あるな。
「しかし、この程度で照れられていては困る」
「こ、この程度、ですか」
「私はこれからもっとイチャイチャしたい訳だ。少し許容範囲を――ああ、そうだ。一つ空きの屋敷があるんだったな。よし、早速行くかムラサキ。二人で」
「その言い方で行きたいと思う程私は恋で盲目にはなっていないのです」
「そうか、ムラサキは私に恋をしているのか……ふふ、夫婦で恋をしているとは良い感じだな」
「ああもう、この人はなんなんですか……!」
なんか強いなソルフェリノ義兄さん。ムラサキ義姉さんも惚れた弱みかのように強く出れていないし……うん、二人を見るとこっちも負けずとヴァイオレットさんとイチャイチャしたくなってくる。けど今は我慢だ。
「ともかく、ヴァイオレット。やはりこういった事の許容範囲をあげるには、やはり慣れで――」
「話は聞かせて頂きました!」
『!?』
だ、誰だ。言いたいけどまず使う事は無い言葉を言いながら登場する、正体がバレても「変装しての従者の方がエ、もとい秘密感があって良い!」とか言って興奮しているド直球に変態な第二王子の妻は!
「貴女は……ルオさん、だったか。なにか御用だろうか」
そしてあくまでも従者として接しているが、正体を普通に一目見破っているので複雑な感じで接するソルフェリノ義兄さんである。なお、それでも抱きしめはやめていない。
「御用とは簡単です。妻を調教したいと願うソルフェリノ様の要望を叶えるためのアイデアを持ってきたのです」
「ほう、調教手段。貴女は調教経験がおありで?」
「ふふふ、私は様々な調教方法を知っているのですよ……!」
なんだろう、二人の間に大きな意味合いの違いがある気がする。多分ソルフェリノ義兄さんは指導・訓練するという意味で聞いているのだろうが、オールさんは……うん、エスでエム的な意味で使っている気がする。
止めた方が良い気もするが、今止めると俺が変な風に捕えてしまったかのようで止め辛い。
「しかしここはシキ。私がシキで開放的になった方法を伝授いたします」
「おお、お聞かせ願いたい」
いや、アンタシキに来る前からそんな感じだった気もするんだけどな。始めて会った時もそれっぽい事言っていたし。……というか、シキでオールさんがやった事と言えば……
「では、まずムラサキ様。私と共に教会に行きましょう」
「教会ですか? ろしゅ……あの、ええと、健康的な彼女らが居る教会になにをしに?」
「はい。トウメイ様の力を借りて空に浮き、彼女と同じ格好をすると自然に返ったように心がおおらかになるのです!」
「そのおおらかさは必要ないです」
うん、それはおおらかさではなくただの露出への目覚めだ。自然の中で開放的になる、というのは良い経験になり……おおらかになるかもしれないが、別の方法が良いだろう。
「そうですか……ではソルフェリノ様はどうでしょう」
「女性の前で彼女と同じ格好になるのはな。異性に身体を見せるのは妻だけにしておきたい」
「それよりも外で裸になる事に疑問をお持ち下さいソルフェリノ様」
「だが、やった事が無い経験をするのも一つの余暇の楽しみ方で――そうだ、ムラサキ。空き屋敷にいこうではないか」
「ですからその文脈で私が頷くと思いますか!?」
「頷きましょうよ、愛する夫に求められている夫婦の時間ですよ!」
「ルオさんは私の敵なのですか!?」
「私はがっつりとしたエロではない、爽やかなエロの味方なだけです!」
「意味が分かりません!」
「ええと、自然体の中に混ざり込むエロスが素晴らしいと思っていて――」
「そこの解説は不要です!」
…………。
うん、とりあえずバーントさんが淹れてくれた紅茶を一口飲み、息を吐く。
「仲が良いですねぇ、彼ら」
「そうだな、クロ殿」
「御主人様、御令室様。放置はどうかと思われます」




