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自分が思っていたより(:濃紫)


View.ソルフェリノ



 教育とは洗脳を道徳的に言い換えたものだ。

 当然洗脳ではない教育も存在するだろうが、俺が受けた教育は洗脳といっても差し支えは無い。

 公爵号を持つウィスタリアお父様が居るバレンタイン家に代々伝わり、継がれるごとに時代に即した変化を伴う教育を俺達は受けた。

 その教育に体罰は無い。

 その教育に暴力も無い。

 ただ、あるのは支配だった。

 そして支配だと気付く頃には、俺はもう支配から逃げられずにいた。

 日々脳と身体を侵食していく毒が、致死量を超える頃には“私”は毒に依存しきっていた。


「ソルフェリノ。お前は■■■■■■■■■■■■■■■」


 お父様がなにかを私に言う。それは的確で、だが私の現在の能力よりも少し超えた命令である。

 けれど私はそれに応える。応える事が出来てしまう。

 断る事は出来ない。断れない。断ってはいけない。

 怖い。恐ろしい。我が身が可愛い。

 ……けれどそれで良い。良い思いが出来る。良い思いを与える事が出来る。

 逆らうなど考えてはいけない。

 ……いや、考える事は出来る。出来るのだが、私の持つ力では如何なる方法をとってもお父様に逆らえないし、勝とうと思っても勝つビジョンが見つからない。つまりは考えても自分の無力さを知るだけなのだ。

 なら考えずに、自分が出来るお父様に命じられた自分の行動を自分ですれば良い。

 ……バレンタイン家の洗脳を受けた私は、その程度しか出来ない、出来ない男なんだ。


――ああ、だけれども。


 妹はあの教育を受けながらも第三王子に恋をし、並び立とうという意志を持っていた。

  私はそれを馬鹿にした。


 妹は暴走し、見捨てられて辺境に嫁いだ。

  私はやはりそうなったかとだけ思った。


 妹が使用人の暴走で殺されかけたそうだ。

  それがどうした? 成功した方が幸せだったんじゃないか?


 妹が学園の学園祭に招待されたそうだ。

  酔狂な事をする者もいるものだ。


 妹が、第三王子と和解したそうだ。

  ……それは珍しい。


 妹の、笑顔を見た。

  王都で偶然見た妹は、今まで見た事の無い幸せそうな笑顔だった。


 妹は、夫と共に領主をこなし、友を作り楽しんだ生活を送っていると聞いた。

  …………。


 俺と同じなはずのヴァイオレットは、俺と同じでは無かった。

 俺と同じで誰かに心を許し、周囲を愛する事が出来ないという事は無かった。

 たった一年足らずでヴァイオレットは変わる事が出来、俺よりも遥かに強い人間になっていた。

 ……俺が出来ないと思っていた事を、幸せそうにやっている。


――ならば、もしかして。


 ……今からでも俺は、変わる事が出来るのではないのだろうか。







「とはいえ、そう簡単にはいかなかったがな」


 自分の奥底に溜め込んでいた感情を表に出そうとしたが、出し方が分からない。

 今までは、“分かってしまう道筋”を辿ればどうにか出来ていたのだが、それに頼らず自分の意志を見せるとなるとどうすれば良いかと悩んでしまう。

 シロガネには少しは見せられてはいたのだが……結局はムラサキとは喧嘩をする事になった。今まで機会は何度もあったのにも関わらず、それを行わずに、急に望みだけを叶えようとしたのだ。当然と言えば当然である。

 とはいえ、喧嘩をしたとはいえ今までのように道筋を辿れば望みは叶える事が出来る。いくらでもムラサキを丸め込んで、俺のようにならないバレンタイン家の教育を施す事が出来たであろう。


「……ですが、ソルフェリノ様はそれを拒んだ。何故でしょうか」

「そのままでは変われないと思ったからだ」


 それでは意味はない。

 俺の望みはそれでは叶ったとはいえない。俺の中に潜む感情が、それだけはあってはならぬと拒んだのだ。


「その感情とはなんでしょうか」

「お前と……ムラサキと分かり合いたいという感情だ」

「私と?」

「そうだ」


 初めは利用しやすく、自己主張が少ないから良いと思った。

 特にコンプレックスを抱く者は良い。それを受け入れれば依存する。

 けれど美しき髪、上品な所作。気配り上手な性格。それはふとした時に目で追ってしまうほどには惹かれ、最後の選択は「彼女が良い」と思って選んだものだった。

 ……けれどそれ以上の感情をムラサキに向ければ、“私”ではなくなる。“俺”に戻ると苦しむのは自分だからと、抑えていた。

 その抑える行為は自分を想ってくれると自覚しながらやるような、最低の行為だ。子供が居ながら自分のために相手に感情を向けない自己保身の塊だ。俺は最低だったと言えよう。

 ……だけど、もし許されるのなら。俺はムラサキとどうしても分かり合いたかった。


「……それは何故です?」


 “それ”は気付いてしまえばとても簡単だった。

 とはいえ気付いたのは屋敷を出てシキに向かう馬車の中であり、気付くのに時間はかかってしまったが。

 単純に俺は――


「ムラサキの事が、とても好きだという話だ」

「――――」


 今のままでは駄目だと。ヴァイオレットのようになりたいと思って行動をし始めようとする際には、まずは自分の気持ちを理解しようと思った。

 すると不思議な事に、ムラサキと話し合いたいと思った。その時は何故そう思ったかが理解できずに言い争いになってしまったが、途中の馬車でもしやと気付いた。

 そして一晩考え、ムラサキと再会し。シロガネが一目惚れをしたと言う相手とデートをしに行ったのを見て、俺もそうしたいと思った。

 “したい”の理由の具体性の言語化は難しいが、ただ本当に「したい」と思い、ムラサキと自然とデートをしたいと思ったのである。


「……だから急にでぇとをしたいと仰った、と」

「そうだ。温泉に入ろうとしたのも、お前と一緒に入りたいとふと思ったからだ」

「……理由は分かりますでしょうか」

「少し待て、言語化するには時間がかかる」


 なにせ言えない事が多くある。ムラサキは妻であり異性。男の欲望の話をそのまま言語化したら引かれるのは必定。なので嘘を吐かずに自分の意志を引かれない範囲で言語化するとなると――


「お前がエロいからだ」

「にゃひゅぃ」


 俺の「なにをどう言い繕っても、結局はそういう事だな」という発言に対し、可愛らしい声をあげたムラサキ。……流石にストレート過ぎたか。

 だが仕様が無いのだ。自分に素直になろうと思えば思う程に沸き上がる感情は、そう表現するのが一番ピッタリ当てはまる。


「で、では、先程の修道女三人よりも私の方が魅力的だと……」

「世界一と比べると彼女らが可哀想だぞ」

「っ……! で、では心は奪われない、と?」

「俺の素直になった心の恋と愛の部分にムラサキ以外に居座る事は無い」

「ぅっ……!!!」


 先程の太腿を露出した健康的なシスター。

 どう見てもマゼンタ様であるが何故か若く蠱惑的なシスター。

 あとなんかクリア様っぽい裸マントの痴女。

 誰もが美しく、魅力的だとは分かるのだが……性欲が湧く事は無い。

 あと、不思議と言うか当然の事に気付いたのだが、俺の妻は世界一魅力的過ぎやしないだろうか。これは困る。

 それとヴァイオレットが義弟とイチャつくたびに俺は毎回「俺もこういう風にしたい!」と思うのだが、ヴァイオレット達のようにしようと思い、ムラサキと会ったらあら不思議。俺に沸き上がる感情は「ムラサキとしたいことが多すぎる!」なのである。これは困った。


「という訳でだ、ムラサキ」

「は、はい? なんでしょう」


 そしてそんな世界一の女を妻にした俺はなにをしてやれるのだろうか。

 したい事は多くとも、するべき事も多くある。自らの欲望だけを晒すのは愚の骨頂だ。

 だからまずは。


「――俺を抱け」

「ちょっと待ってください」


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― 新着の感想 ―
[一言] おーソルフェリーノくん。君は髪フェチで巨乳好きなんだね…?所作フェチは義弟と同じ性癖だから語り合えるかもね……。
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