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思い返すと気になる事(:菫)


View.ヴァイオレット



「じゃ、シキ案内して来ますね、クロ様!」

「はーい、いってらっしゃい」

「じゃあ行こう、シロガネ君!」

「く、君……あ、ちょ、カナリア様お待ちを――!?」

「様なんていりませんよ。なんかよく分かりませんけど困らせれば良いようですし、待たずに行きましょう!」

「困らせないでください、意味お分かりじゃないですよね!」

「エルフだから分かるよ!」

「エルフ関係無いですよね! あ、手、え、そ、ソルフェリノ様!」

「こんな時に主人を頼るのは従者として良くないぞ。頑張れ従者!」

「友という話は何処行ったんですかソルフェリノ様ああぁぁぁー……!」


 そしてシロガネは無情にもソルフェリノ兄様の裏切りにカナリアに連れ去られた(?)。

 手を握られた事に喜びよりも驚愕が勝っているような、なにをして良いか分からないと言った様子で、なんともまぁ初々しい反応を見せつつ引っ張られていくのであった。


――……しかし、カナリアは随分とシロガネにあっさりと近づく事が出来たな。


 カナリアは私達などシキの領民には親しく接してはくれるし、学園生のように一度会ってそれなりに相手の事を理解して「優しい相手だ」と判断したら元気よく接する。

 しかし始めて会う相手、特に男性に対しては距離を置く。これは単純に怖いからである。

 かつてクロ殿の一番近い所に居たカナリアだが、クロ殿の兄君によって引き裂かれる事になる(結果第二王子の一件が起きた)。そして引き裂かれた後のカナリアは奴隷商へと戻され、あまり良くない待遇を受けた。一応はあらゆる種族の混血が進んでいる現代において、珍しい純・森妖精族という事であまり()()()()な扱いではなかったようではあるが、シキに来た当初はクロ殿以外の男性には会話も成り立たないほどには恐怖心を抱いていた。

 それも今は緩和したものの、男性に対しては恐怖心がまだあるのだが……シロガネに対してはあっさりと接している。昨夜会った時の会話が良かったのだろうか。


「義弟はあのお嬢さんに随分と信用されているんだな」

「そう見えますか?」

「義弟が案内して欲しいと紹介したという事は大丈夫な相手、と判断したように見える。言葉だけで信用されるのだから大したものだ」


 ……なるほど。昨日既に出会って助けられた、というのもあるが、過去を知っているクロ殿が任せる相手だから問題無い、と判断した訳か。

 実際クロ殿はシロガネを信用しきった訳では無く、別の監視もつけてはいるのだが、カナリアにとってはクロ殿の言葉はそれほどの言葉であったという事か。考えてみれば当然とも言える事ではあるが……事情を知っている私ならともかく、ソルフェリノ兄様がそれをあっさりと見抜く辺り、流石と言うべきか。あるいは事情を知っているが故に今の状況だけで判断できずにいたのかもしれないが。


「しかして、義弟よ。彼女に関して聞きたい事がある」


 そしてソルフェリノ兄様のその言葉に、空気が少々張り詰めた。

 兄様の雰囲気は変わらない。だが、その言葉にはこの場の空気を張り詰めさせるような圧を感じた。


「なんでしょうか、ソルフェリノ御義兄様」

「昨日言ったように、シロガネは私にとっての大切な友である。血を分け、乳兄弟であり、ずっとともに過ごしてきた、な」

「そのような大切な友が、何処の馬の骨かも分からない女に惑わされる訳にはいかない、と」


 クロ殿の言葉に対し、ソルフェリノ兄様はなにも言わなかった。

 しかしただ言わないだけで、否定もせずこちらの続く言葉を待っている。ただ相手に言わせようという空気を作りだしているのである。


「彼女は信用出来る女性です。それこそ私にとっては最も近しい所で育った大切な存在ですよ。性格は明るくて人を騙す様な事は出来ないような子です。技量は……ドジをするので、あまり高いとは言い難いですが」


 確かにカナリアは長年の経験で従者としての能力はあるのだが、あのなにが起きたらそうなるのか、と言うようなドジをする事がある。ある意味ではフューシャ殿下のような感じである。


「ただ、血筋の方は見込めません。もし彼女と婚約するのならば、そこはキチンと――」

「血筋は良い。それはシロガネが考えるべきであり、血筋(それ)で受ける迫害から彼女を守れないような男ならば、私はアイツを友とは思わん」

「……そう、ですか」


 ……これは意外というべきか。

 仮にもシロガネには血が繋がっている事実があり、ソルフェリノ兄様の右腕となる存在である以上は、相手にも周囲にも納得させるような格を求めると思ったのだが。……貴族がほとんど居ないシキに婚約者を探しに来ていた辺り、そこはあまり気にしないという事なのだろうか。


「血筋はともかく、彼女の年齢はどうなんだ?」

「年齢ですか?」

「そうだ。女性の年齢を聞くのは失礼だが、彼女はエルフであろう。そこのバーントがそうであるように、人族の見た目年齢基準は当てはなるまい」


 確かにバーントは私より十近くは上だが、そこまで年齢は変わらない様に見える。……私が年齢の割に老けて見られるというのもあるのだが。


「その上、義弟と幼少期から従者として共に過ごしたとあれば……彼女はどうなんだ。恋愛に年の差は関係は無いかもしれないが、一応は把握しておきたい」

「年齢……年齢……?」

「……義弟?」


 そして聞かれたクロ殿は、なにかに思い悩むような表情を取った。

 それは女性の年齢を勝手に話すべきかという葛藤ではなく、もっと別の葛藤であった。


「俺の最初の記憶である三歳くらいから従者としているんですが、既にほぼあの姿であって……仮にその時成人していたとしても、今は三十二歳……あれ、でもハートフィールド家に仕える前にもいくつかクビになったって言ってたし、そこで数年あったとして三十七、八……ええと……もしかして俺より合わせて……」


 そう、単純にクロ殿はカナリアの年齢を知らないのである。そして年齢と聞いて思い返すと、カナリアが前世も含めてのクロ殿の年齢よりも長く生きているのではないか、と思い始めているのだろう。


「……ヴァイオレット」

「なんでしょう、兄様」

「お前は彼女の年齢を知らないのか?」

「同性であれば聞いている可能性がある、とお思いかもしれません。ですが彼女は聞きはしたのですが“……あれ、私何歳だっけ”と言うような可愛らしい子なんです」

「可愛らしいのか、それは」

「ええ、とても」


 下手をしたら私達の親くらいの年齢かもしれないカナリアであるが、見た目は二十歳前後だし、性格も気にさせないような子なので可愛く思うのである。


「……ソルフェリノ兄様はあまりそういったいい加減な女性は好まないかもしれませんが、可愛らしいのです」

「それは構わない。シロガネが好いた女性なのだからな。構わないのだが……」

「だが、なんでしょう」

「……急にシロガネが母性に飢えた故に他人の母に母性を求める男に思えてきてしまって……」

「……流石にそれは大丈夫かと」


 あの様子だと似た年齢の異性相手に恋をしている、という感じであったからな。

 それにまだ外見だけで、実年齢や中身を知ればどうなるかは分からないし……いや、これはなにか違うな。


「シロガネさんはバブ味を感じてオギャる……いや、アレは外見年齢が成人のカナリアには当てはまらないな……んん? 俺は今まで似た年齢の姉という印象から脱却出来てなかったけど、本当は母性に飢えていた故にカナリアに甘えていた……?」


 そしてクロ殿が言っている事もなにか違う気がする。


「時にヴァイオレット。義弟はなにを呟いているんだ」

「私の夫は偶にこうなるというだけです」

「よく分からないという事だな」

「そうですね」


備考 皆様が覚えていないだろうこの世界の設定

この国ではあらゆる種族の混血が進んでおり、大抵の種族は成人(15歳)までは似たような成長をする。

その後エルフなどの元が長命種の種族は人族などと比べると、年齢の割に外見年齢が若くなる。だが混血の影響で長命、短命が交じり合っているため私達の世界と比べると寿命が長くなっており、私達の世界の外見年齢よりは全体的に若く見られがち。


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