○○フラグ
「と、いう訳でトウメイさんをしばらく泊めて貰っても良いか、シアン?」
ソルフェリノ義兄さんがシキに来ると聞いた次の日の朝。俺はヴァイオレットさんと共に教会へと来ていた。来た理由はソルフェリノ義兄さん達が来ている期間、トウメイさんを教会に住まわせて欲しいという内容である。
なんだかんだシキに馴染んだトウメイさんであるので、シキの空き家(大工集団が勝手に建ててる)で一人暮らしさせてもいいのだが、一応まだ監視の名目があるので一人暮らしはまださせられないでいる。
あとそれとは別件だが、
『私は戦いに身を投じ続けた女だ。……ようは生活力があると思うな』
などと堂々と情けない事を言っているので、色々踏まえて一人暮らしは時期尚早という結論に至っている。そんな訳で、神父様や年頃のヴァイス君が居る事は申し訳ないと思いつつも、教会を頼りにした訳である。
そしていつもの調子で「良いよ!」と快諾してくれると思ったのだが……
「あのお――彼女かぁ。彼女が教会に……」
「他に頼むあてもあるから、無理しなくても良いぞ?」
「ううん、大丈夫だよイオちゃん。彼女を泊める事自体は喜んでする内容なんだ。けどちょっと彼女と過ごすには気合がいるというかなんというか……」
『?』
……よく分からないが、シアン達はトウメイさんに対しての態度が変なんだよな。
初めは格好が格好なので接し辛いかとも思ったのだが、それとは違う感じがある。この態度はシアンだけでなく、神父様やヴァイス君もそうだ。後者二人に関しては目のやり場に困ったり、男性陣特有の羞恥の類かとも思ったのだが……明らかに違う。というかそういう目で見る事が出来ない、みたいな態度のような気がする。
あと、教会組でマゼンタさんだけは警戒という意味での態度をとるので不思議である。あの博愛主義のマゼンタさんが警戒する、という点があまりにも違和感があるのである。
「……うん、良いよ。他の皆には私から説明しておくから」
「本当に大丈夫だろうか?」
「大丈夫だって」
「……そうか」
……気にはなるが、本気で嫌がっているのを隠していたり、脅されている訳でもなさそうだから今はその厚意に甘えるとしよう。シアンは嫌なら嫌というし、脅されてただ従うような性格でも無いからな。……念のため後でシュバルツさんに依頼だけはしておくか。
「私達の事より、イオちゃん達はお兄さんの事を考えとけば良いから。なんだっけ、ソル君とラッキーちゃんだっけ」
「……そのあだ名はやめてくれ。兄様の反応が怖い」
「イオちゃんのお兄さんだし、勢いで誤魔化しきれない?」
「私の時は勢いで通したのか。ではなく、私があの時手軽に扱えたからどうにかなっただけで、兄様は無理だ」
ヴァイオレットさん、自分で手軽って言うのか。確かにあの時は心が折れた状態だっただろうからさもありなんだが。
「へぇ、ソル――フェリノさんって、どんな感じのヒトなの?」
「身長はクロ殿より十センチほど高く、クロ殿よりはつり目で鋭く、クロ殿より髪が長くて軽めのウェーブがかかっている。クロ殿よりは細身で、クロ殿より肌が白く、クロ殿より厳格な雰囲気を漂わせている」
「うん、分かった気がするけれど、よく分からない」
俺を基準にしてくれるのは嬉しいが、それだと伝わりませんよ、ヴァイオレットさん。
ようは背が高くて細くて白い肌。髪の長さを肩までにして……ヴァイオレットさんと同じ遺伝子なら美形だな、うん、間違いない。
「じゃなくって、性格は?」
「ク――」
「クロ基準無しで」
「……支配するタイプの貴族。ヒトをヒトとも思わず区別するような性格だな」
「へぇ、区別、か」
差別ではなく、区別。何処となくその言葉を選ぶ事に、ソルフェリノ義兄さんの性格が分かって来るような気がする。それにヴァイオレットさんもある程度はお兄さん達の背を見て育った所があるから……うん、これから来るのは悪役令息と思う勢いで、迎撃……じゃない、歓待の準備をしないとな。
「そんな性格だから、シアン達にも迷惑をかけるかもしれない」
「りょうかーい。まぁ私がなにを言われても私は平気だから、イオちゃんは気にしなくて良いよ」
「助かる。……が、どちらかというと迷惑をかけた相手の婚約者の方が心配なんだ」
確かに、俺と同じでシアンと神父様は自分より自分が好きな相手を馬鹿にされる方が怒るだろう。その辺りは俺と一緒である。
「ああ……うん、神父様馬鹿にされてもキレないように頑張る、うん。出来る限りね」
「大丈夫だ。シアンが我慢できずに殴ったら、私も抑えずに殴るからな」
「そうですね、ヴァイオレットさん。俺も便乗して殴ると思います」
「やめい、折角寝ているバレンタイン家の尾を踏む必要は無いでしょ」
「その尾を踏ませるために来るのかもしれない」
「だからもういっそ、思いっきり踏んで、踏ませた事実を言わせないようにすれば良いんじゃないかと……」
「やめんか! 踏まれた方が言わなければ事実ではないとか、聖職者として見過ごせないから!」
流石にそれは半分冗談だが、気をつけないと駄目なのは事実だ。
王族と繋がりを持ち始めたから、大きな権力を有する前に、いちゃもんをつけて力を削ごうとしている可能性だってある訳だしな。そういった対策も考えないと駄目である。
「ま、私達が力になれる事があれば言って。いざとなったら“貴方は呪われてる! 解除して欲しくば大人しくシキを去る事だ!”的なかんじふっかけるから」
「おい聖職者」
「じゃあいざとなれば権力を頼れば良いんじゃない? ほら、王妃様召喚! 的な」
「別に俺と王妃様は気軽に呼べる間柄になった訳じゃないからな?」
「そうだぞ。コーラル王妃は“将来の我が子候補が住むシキや君達が脅かされれば国家権力を私的利用する”とは仰ってはいたが、半分冗談だろうからな」
なにそれ初耳。あの人なんか違う方向に暴走していないか。
「そっかー、残念」
残念、じゃないよ。なに「見たかった!」的な反応を示しているんだ。
……シアンの冗談はさておき、もしも事がシキ全体に及ぶ話になったらありがたくお言葉に甘えるとしよう。あくまでも必要になったら、だが。
――ま、必要にならないように頑張るとするか!
あくまでも家庭の事情なので出来る限りシアン達を巻き込みたくない。そのためにも頑張って義兄の歓待準備を――あれ、これってフラグっぽいのは気のせいだろうか。




