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集われる男


「すみません、ちょっと弱気になっていましたが、よく考えればいつも通りなので気にする事でもありませんでしたね」

「その考えも良くは無いのだが……まぁ良いとするか」


 少々弱気になったが、どうせ混乱は向こうからやって来るのだから気にしても仕様がない、という思考に至るという、もう何度目か分からない思考をしながら気持ちを切り替えた。


「兄さん、あの会話は注意するべき事だと思う? 御主人様の精神のためにも」

「……あれがこのシキでの処世術なのだろうから、下手な注意は俺達の精神が乱されるぞ?」

「私達が、なんだね」

「俺達が、だ」


 なんだかバーントさんとアンバーさんが俺達を心配した表情をして相談しているが、気にしない様にしよう、そうしよう。むしろあのように心配してくれる事は彼らが毒されていない証拠だ。シキに居ても毒されず有能に業務をこなしてくれる二人が働いてくれるのは本当にありがたいものである。

 ……まぁ思い返せば来た時点でシキの領民(へんたい)といっても過言ではない性格の二人だったから、馴染んでも元と変わらないだけなのかもしれないが。


「なんだか不当な扱いを受けている音がする……」

「なにやら妙な評価を受けている香りがする……」


 ……うん、どっちなのかという答えを出すのは止めよう。下手をしたら俺がやられかねん。ヴァイオレットさんは未だにこの二人の変態性を知らないで居るし、触れぬが吉だ。


「ともかく、ソルフェリノ義兄さんが来るのですね。では色々と準備を――って、結局なにしに来られるんでしたっけ」


 身近な俺達夫婦を興奮の対象としているのに恋愛感情は一切ない兄妹は置いておくとして、歓待準備をせねば……と思ったが、よく考えれば来る理由を聞いていない。先程はあくまでも結婚祝いにわざわざ来ないだろう、と言っただけだった。先程の手紙にも日にちだけで来る詳細は書かれていなかった。


「それはこちらに書かれているが、表向きはともかく、具体的な事までは書かれていない。見てくれ」

「拝見します」


 渡された別の手紙を読むと、やたら達筆な字で今回シキに来る理由が書かれていた。

 ……一応名目上は“家族への婚姻の祝辞と遅れた事によるお詫びに直接出向きたい”と言った感じだ。その他にもソルフェリノ公爵補佐(正式に公爵ではないが権限的にはほぼ公爵)個人として会いに行きたいとの事だが……


「……ウィスタリア義父上(ちちうえ)やライラック義兄さんを出し抜くために俺達を味方に引き込みたい、とかでしょうか」

「可能性はある」


 バレンタイン家が今まで俺達に手を出さなかったのはいくつか理由がある。


 一つ。過去の配下のやらかしをこちらが追及しない代わりに、こちらにこれ以上手を出さない。

 二つ。俺の実家はあまり評判がよろしく無いので、関わりを持ちたくない。田舎でなにかやっている内は手を出さないという構え。

 三つ。俺とシッコク兄様を子爵にしたように、シッコク兄様辺りが上手い事利用している。ようはバレンタイン家に俺達を手を出させない方が利益が出るとシッコク兄様が判断し、そのように仕向けているのだろう。


 まぁそんな感じに、不手際、不可侵、利用、と、色んな感じに混ざり合って俺達の一家には手を出してこなかった。「恐らくそれが一番負債を無くす方法と父が判断したのだろう」というのはヴァイオレットさんの話である。どうやらウィスタリア義父上にとって俺達は負債扱いのようである。


「ですが最近色んな権力者と繋がりがありますし、それを利用しない手はない、と思ったのかもしれませんね」

「うむ」


 俺達は義父にとっては負債かもしれないが、最近は色々と繋がりも増えた。なにせうわさを聞き付けた商人とかもやってきて交渉をしに来るくらいである。……大体の商人はシキの数日の滞在で利益より心の平穏を求めて去っていくが。あるいは馴染んでテンション高めに「この程度の商品では駄目だ!」などと言い商品を売らずに帰って行ってしまうが……

 ともかく、もし俺達を味方に引き込めば自分にとっての益になると判断してもおかしくない。それで父や長兄を出し抜くために俺達に会いに来る可能性はある。なにせここ一年で権力者と懇意になったし、王とか王妃とか枢機卿とも直接対峙したからな。


「ルーシュ殿下はシキ在住のロボ相手に愛を語っていますし」

「スカーレット殿下はエメラルドと仲が良いな」

「ヴァーミリオン殿下はシキに自ら出向いてまでヴァイオレットさんと和解しましたし」

「バーガンティー殿下はシキを出会いと告白の地で思い出深いと語っているそうだ」

「フューシャ殿下もシキに来てから人前に出て明るくなって来たと評判なようですね」

「ローズ殿下もお忍びで何度か来ていると噂になっているようだ」

「コーラル王妃様も来て将来の子供候補に会いに行ってましたねー」

「レッド国王の妹君もシスターをやっているぞー」

「オール様も現在進行形で屋敷に居ますねー」

「そして彼らが何度も足を運んでいる、という事実があるなー」

「あと、現在の殿下大集合もして、色々巻き込んだ大捕り物もありましたねー」

「あったなー」


 いくつかはシキという名前は知らず、“とある辺境の地”や“ある領地にわざわざ出向くほどの愛する相手がいる”と話題なだけのようだが……


「……なんなんでしょうね、このシキって地は」

「……なんなのだろうな。しかしどちらかと言うと、シキというよりはクロ殿が惹き寄せている気もするぞ」

「……出来れば無いと信じたいですね」


 現在進行形で活躍している現役の王族達がまるで懇意にしているようにシキに来ている、という状況。そりゃ情報を仕入れたら利用したくなるよ。もし俺に野心が有ったら近付けないかと模索するよ、うん。


「あ、やっほーただいまー。今日の夕飯は――バーント君、アンバー君。なにがあったのか、あの二人」

「おかえりなさいませトウメイ様。どうやらシキに最高権力者の方々が気軽に遊びに来ている事に悩んでおられるようです」

「それらについて、このシキという地はなんなのだろう、と思っておられるようで」

「うーむ、多分それはシキという地より、クロ君が変わった子に集われやすいというだけなじゃないのか?」


 ……トウメイさん、アンタもか。

 確かに前世からなんか他の人より集まって来ているような、とは思っていたが、そう言われると複雑である。というか気が滅入るな。……いかんいかん、すぐに切り替えないと――


「安心してくれ、クロ殿。その理屈だと私も変わった女にはなる。だが、変わった女の中で、集うだけでなく、クロ殿を好いて、一番愛しているのは私だぞ」


 よし、めっちゃ元気出た。切り替えるまでも無かったな!


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