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追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活   作者: ヒーター
25章:ちょっと違うメンバーのシキでの小話
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お見合い後の戦闘_2


 ヴァイオレットさんに格好良い姿を見せたいとは思うし、スマルト君の“好きな相手に技術を教わり、それを応援されながら実践する”という想いには応えたい。となると基本は攻撃を捌きつつ分からない範囲で一太刀受ける、というのが理想の対応かもしれない。

 実際スマルト君の動きは以前より格段に良くなっているので、このまま行けば本気を出しても一、二度攻撃は当たるだろう。


「ストップ」


 そんな、以前首都で戦った、半分近くが鍛錬を怠っていた騎士団の連中と比べればはるかに筋が良いスマルト君ではある。けれど攻撃を受けてこのままで終わらせるのはどうしても納得がいかない。例えそうする事で気持ち良く終わる事が出来、次会う時に再戦を夢見る、なんて良好な関係が築けたとしても、このままでは嫌だ。

 これでもスマルト君とは一度本気で戦い合った仲だ。彼にこのままで居られるというのは個人的に納得いかない。


「え? あ、あれ……剣がなんでクロ様の手に……?」


 なので一旦模擬戦を止めるために攻撃のタイミングで剣を手で挟み、スマルト君の手から奪った。なにが起きたか分からないスマルト君は自分の手と俺の持つ剣を交互に見ている。


「スマルト卿、貴方の戦闘の筋は間違いなく素晴らしい。スカイ卿の指導が素晴らしいのもあるのでしょうが、前回と比べると見違えています」

「剣を取られた事はスルーなんですね。ですが、ありがとうございます。剣を取られた僕に言っても嫌味に聞こえますが。ですが、ありがとうございます」


 めっちゃジトーっと見て来るなスマルト君。そんな姿は年齢より幼く見える。


「コツを覚えればスマルト卿もイケますよ。ちょっと相手の隙をついて力の作用点を壊せばすぐに出来ます」

「本当ですか?」

「シュっといってサッとやってフワッとするだけです」

「えぇ……本当ですか……?」


 本当だとも。こうシュッ、と来るからサッといって力を分散させて脱力するだけである。相手をよく見れば意外とイケるものである。

 いや、それは後で教えるとして、今は別の事だ


「しかしやはりこのやり方は貴方の戦闘スタイルには向いていないと思うのです」

「確かに僕は剣技より魔法の方が得意ですけど、今はそういう模擬戦ではありませんし……」

「ああ、そういう事ではなく、魔法以外の戦闘スタイルの話です」

「と、仰ると?」


 スマルト君はスカイさんのような騎士の剣、ヴァイオレットさんが使うレイピアのような武器は合わない。体格が小柄という事や、筋力が足りていないので威力が足りないと言う事ではなく(それも少しあるが)、指の話である。


「指、ですか」

「はい。恐らくですが、スマルト卿は指先が器用かと思われます」

「確かにそれなりに器用ですが……」


 指というのは意識しなければ意外と単純作業しか出来ないモノであり、繊細でありながら融通が利きにくい。一つの指を動かそうにもどうしても無意識に連動して動いてしまったりする。例えば手の指と指の間にペンを一つずつ挟み、一つずつ狙って投擲する、なんて事は難しい。分かりやすく一般的に言えばピアノの演奏とかだろうか。

 そしてスマルト君は恐らく指を一つ一つ意志を以って動かせる。言葉にすると意味が不明かもしれないが、指が仕事をする事が出来るのである。


「ええと、つまり……僕には短刀とか飛び道具を使用した戦闘方法が向いている、という事でしょうか」

「そうなりますね」


 短刀でも飛び道具でもなんでも良いが、手数が多い戦い方がスマルト君には向いていると思われる。相手を翻弄するヒット&アウェイ、である。その戦い方だとスマルト君は大分強くなると思う。


「ですが、それではあまり貴族男子らしくないと言いますか、姑息と言いますか……アッシュ兄様のように魔法を主武器として使うのならともかく……」


 しかしこの戦い方はスマルト君の言った通り、貴族や騎士のような華々しい戦い方とは少し違う。俺の戦い方も力で捻じ伏せるので野蛮と評価される事もあるが、相手に向かって己が身体で接近し戦いに挑む、つまり逃げたりせず堂々とぶつかる訳なので、まだ騎士らしいとは言われる。優雅さは足りないが、在り方としては良く思われるようである。

 だが武器を多く使用し、翻弄する戦い方だと姑息と評する者も出て来るだろう。そこがスマルト君は気になるようだ。


「あと、僕は大好きなスカイさんと同じ戦い方で隣に立ちたいんです!」

「ゴホッ!」


 ああ、うん、君はそういう子だったね。とても真っ直ぐで眩しい。

 そして真っ直ぐに好意を示すからスカイさんが咽てしまっているが、まぁそちらのフォローはヴァイオレットさんに任せよう。


「良かったな、スカイ。婚約者候補はスカイを大好きだそうだぞ?」

「……ヴァイオレット。貴女、愛し合う夫婦として余裕をもって私を揶揄うのは楽しいですか?」

「とても」

「くっ、分かっていた反応なのに、その表情が恨めしい……!」


 ……アレは友人同士で親しく話している、という事で良いんだろうか。うん、良いな。良いに違いない。

 ともかく、スマルト君的にはスカイさんのように騎士として戦うやり方を好むようだ。あるいは兄であるアッシュのように魔法を使いこなすならばまだ良いようであるが……やはり複雑という事か。


「うーん、ですがそのやり方であればスマルト卿は今より強くなられると思います」

「お気遣いありがとうございますクロ様。ですが僕はこの騎士らしい方向で強くなりたいのです。それにほら、この方向性でも指先が器用、というのはなにか役に立つかもしれませんし」


 別に手数で攻めても貴族、騎士らしくない、という事は無いとは思うのだが……俺個人としては少し納得いかなくても、本人が望まないのなら無理強いはしない方が良いか。

 それにあくまでも“こうすれば強くなると思う”という俺の直感だし、ここは俺が引いて――


「そうですね、では続きを――」

「ふふふ、騎士らしさが剣の道だけ思っているのは未熟な証拠……そうは思いませんか神父様」

「ふふふ、そうだなシアン。俺は手数で攻める男だが、それが恥ずべき事とは思っていないからな。それが最も強く、誇らしいからやっているんだ。マゼンタもそうだろう?」

「ふふふ、そうだね。私は常に最適解で強者を目指す女……可能な事を迷わずやる事が最も相手に誠意があるとは思わないかな、ヴァイス先輩」

「ふ、ふふふ。そ、そうだね。可能を増やして最適行動を多くするのは重要だよね。シスター・シアンもそうでしょう?」

「ふふふふふ、その通りだとも!」


 ……コイツら、急に何処から湧いてきやがった。そしてその笑い方はなんだ。






おまけ ヴァイオレットのとある感想



「シュっといってサッとやってフワッとするだけです」


 クロ殿のその言葉を聞き、ある言葉を思い出す。


『ピカーって光る液体をグルッと混ぜて、ムニムニと捏ねて、後はパッ、とやってシュッ、とやって完成です』


 という、錬金魔法の説明をするクリームヒルトの言葉を、私は思い出していた。

 つまりなんというか。


――やはり兄妹なのだな……


 そう、思うのである。


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