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追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活   作者: ヒーター
25章:ちょっと違うメンバーのシキでの小話
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綺麗な観察_6(:透明)


View.クリア



「さぁ、これから花火を始めるよ! テンションを――落ち着かせて安全性に配慮した上で打ち上げよう」

「楽しむ事も大切だけど、人命が関わる以上は落ち着いてやろうね」

「はい、全力でやり、楽しかったと言うのは終わった後にしましょう」

「上手くいった暁には、特製のケーキがあるからそれを楽しみにしてくれ」

『神父()手製のケーキ! ……テンションを上げてさせて楽しいですか、神父()?』

「え、あ、ごめん……?」

「冗談ですよ、真に受けないでくださいね?」


 という、微笑ましい(?)会話を聞きつつ、私は安全圏で彼女らを眺めていた。

 マゼンタ君への警戒はともかく、彼女らの観察を私は止めない。なにせクロ君達にとってはもう当たり前のシキの領民かもしれないけど、私にとっては信じられない子達の集まりなのだから。


「あ、マゼンタちゃん。重い物が有ったら言ってね」

「あははは、ありがとうヴァイス先輩。けど私結構力あるから大丈夫! それに先輩は私達の中で一番細いんだから、先輩こそ無理をしないでね」

「う。……シュネーに代われば重い物も運べるし、花火を遠投で打ち上げるくらいは出来るよ!」


 例えばヴァイス君。ヴァンパイアと人間の血を引く男の子。

 この時代においてはサキュバスはほぼ絶滅して種族としての伝承が残っていないようだが、ヴァンパイアは私が知っている存在とほぼ同じものであった。

 血を糧とし、吸った相手を操り眷属とするか、兵隊とするか、死ぬまで血を吸う。死なずとも回復には数か月を要し、下手をすれば一生後遺症に悩まされる。また物理法則、魔術法則を無視して周囲に害を為し、汚染させる人間とは文字通りの相容れない存在。

 強大な力を持つ分弱点も多いが、私も昔は大いに苦戦したものだ。なにせ、


『フハハハハハ、お前、戦いばかりで相手がいない寂しい生活をしているな! 好いぞ良いぞ善いぞ! ならば私はお前を苦しみ続けさせよう、そうすればお前は相手を作らず私好みの交わらない血を持ったままだからな! そして最終的にはお前に求婚してやるぞクリアァァァアア!』


 などと偏執した愛をぶつけて来たのである。本当に苦戦した。偏執してるくせにめっちゃ強いんだもんな、アイツ。しかもサキュバスとタッグを組んで嫌がらせしてきたからなぁ……と、そんな事はどうでも良い。

 ともかく、ヴァンパイアはこの時代においても人類に対する敵であり、教会にとっては常に追い続ける浄化対象である。……そんな対象が眷属とせずに子供を産ませた、というのも私からしたら驚愕モノではあるが……


「なるほど、シュネー君になる、そのために私の血を吸いたいってアピールかな? 先輩、エッチだね!」

「違うよ!?」

「けど良いよ、ウェルカム! 好きな所吸って!」

「吸わない――って何処露出しようとしているの!?」

「何処、ではない。全部だよ!」

「なんで!?」

「好きな所って言ったから、選択肢を増やしてあげ―ーぐぺっ」

「はいはーい。スイ君もマーちゃんも始める前に変に暴れなーい。大丈夫、スイ君?」

「あ、ありがとうシアンお姉ちゃん」

「マゼンタ。あまり俺の可愛い後輩を困らせないでやってくれ」

「はーい。ごめんね、ヴァイス先輩っ」

「う、ううん、大丈夫だよ」

「純潔ではない私より、まだ純潔のシアン先輩と神父君の血の方が良いよね!」

「違うよ!!」


 ……ううん、やっぱりただの純情な少年、という感じだよね、この子。とてもではないが邪悪さは感じない。

 昔のヴァンパイアは居るだけで周囲を汚染させ、眷属を増やしたヴァンパイアは一体だけで練度の高い数個師団を相手する程強く、人類を食糧としか思っていない人類にとっての悪そのものだったんだけど……うん、やっぱり時代が変われば色々変わるようだ。


――まぁ、汚染も見られないし大丈夫か。


 もう一つの魂の子……ようはヴァンパイアとしての側面が強いシュネー君という子だが、彼もヴァンパイアの力は感じるが、やはり邪悪は感じない。今こうしてじっくりと観察しているが、邪悪も汚染も無い。本当に綺麗なヴァンパイアの力を持った魂である。……というか、躾が行き届いて自然とそうなった、ならざるをえなくなった、みたいな感じがするが、気のせいだろうか。……気のせいだよね?


「はいはい、クリア(しん)様に祈りを捧げて教会関係者の時点で私達は純潔だよ純潔。そして純潔な私達が花火をあげる事によって、初々しい将来のカップルが良い雰囲気になるかもしれないんだから、これ以上余計な事をせずに始めるよー」

『はーい』


 それにしても、あのシアンって子は凄いな。

 昼間話した時は“浄化魔法の一部が私の魔力を介しての事と分かる”程には敬虔であり、真っ直ぐな良い子と言うのは分かったのだが、こうして見ると改めてあの子がこのシキの教会関係者の要と言えよう。

 多分あの子が居なかったら教会は回っていなかったんじゃないかな? と思うレベルである。多分相手の心に敏感であり、その敏感さを苦ともせずに付き合える性格があるから成し遂げられている事なのだろう。

 そして彼女は――


――スノーホワイト君と婚約関係、か。


 スノーホワイト・ナイト。

 彼はシキの教会の神父であり、領民の皆から愛される根っからのお人好し。シアン君と同じで私の存在に気付くほどに敬虔ではあるが、彼の場合の場合は信仰と言うよりは縋りに近い感情なのだろう。

 彼の本質は本来剛法と堅法の身体強化、いわゆるクロ君と同じタイプなのだが、とある事情によって物を作り出す創法能力に()()()()()()()()()()

 本来ならそのような本質の変化はあまり見られない。だが、彼は――


「よーし、じゃあ最初の一発行くぞー!」

「行ってください、神父様!」

「じゃあ3、2、1――発射! …………おお、良い感じだな」

「次々行きましょう!」

「そうだな。これを見ている皆のために、ドンドン行くぞ!」

『おー!』


 ……彼は、昔住んでいる所がモンスターに襲われたそうだ。

 そして彼以外が殺され、彼だけが生き残った。それ以降は自分だけ生き残ってしまった事に対する負い目から、人を救う事に執心していると聞く。生き残ってしまった自分にはその義務があるのだと。

 だが正確には彼はモンスターから運良く生き残ったのではなく――


――私が封じ込めていた存在と同じモノを、身に宿して生き永らえてしまった。


 と、言う事である。


備考 シアンが居なかった場合の教会組

スノーホワイト→クロと和解後しばらく経って救いの旅に出る

ヴァイス→修道士を辞めクロの下で働く。初恋はクロ

マゼンタ→ヴァイスとクロ狙いで屋敷に入り浸る。ヴァイオレットは気が気ではない


結論:シキの教会は滅び、ヴァイオレットは夫の貞操の危機をより身近に感じる。


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― 新着の感想 ―
[一言] え?前も後ろも狙われるクロを守り通さないといけないの……?
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