綺麗な観察_1(:透明)
View.クリア
私の名はクリア。
なんか二十年くらい戦いに明け暮れた後、数千年敵を封じ込め続けていたら私の名は神になっていた。多分世の中は広いとは言えこんな経験をしているのは私くらいのものだろう。
とはいえ、私はそんな特別な女という訳でも無い。ちょっと尖った能力を持っているだけである。
攻撃を司る剛法。防御を司る堅法。早さを司る迅法。射撃を司る射法。創成を司る創法。そして打ち消しを司る解法。この内の解法に私の能力が突出しているのである。
相手の攻撃をすり抜ける【透過】。
魔法陣を共振させて喰う【打ち消し】。
魔を打ち払い心に平穏をもたらす【浄化】。
身に掛かる重力を丁度良い具合に消す事による【浮遊】。
対象の耐性を目の中で排除する事で相手の特徴を見る事が出来る【走査】。
そんな事が出来たから、他人より生き残る事に長けたから戦いに身を投じただけのただの女だ。神と崇め奉られるような女ではない。
――いや、違うな。
あ、ちょっとだけ違うな。ただの女ではなく、顔と身体が整っている美しい女だ。そこは間違ってはいけないな、うん。
元々美しい顔と身体な私ではあるが、なにせ解法に優れているお陰で汚れとか穢れとか打ち払う。他の皆が太陽の下に居ると焼けてダメージ負ったりするが、私はそれが無い。つまりこの年齢にして赤子のように白く美しい大人の身体を持つ美女という事だ。であるから私を美しさで信仰するのも無理は無いな! なにせ数千年前も戦いへの感謝とか別に美しさで拝まれたりしたもんな!
――……解法に優れ過ぎてなんか服を着れなくなったけど。
美しい赤子の如きアダルティックな私であるが、ダメージを解法により無くしている力は基本無自覚で行っている。これは私の意志でどうにかなるモノではない。
そのせいで「む、身体になにか触れようとしているな。ダメージを負わぬように打ち消すぜ!」的な感じで服を見事に布切れに戻す。
……もう少しどうにかならないのだろうか、私の能力よ。お陰でうら若き乙女なのに常時全裸を晒すという事になってしまっているんだぞ。これではまるで痴女ではないか。
――まぁ昔はそんな事気にならない程ではあったけど……
とはいえ、昔はそんな事を気にしている暇はなかった。
戦いに身を投じれば己が命は常に危険に晒される。いくら解法に優れているとはいえ同等の【階級】である【魔法】を受ければダメージを負うのである。私は防具を身に纏えない以上は攻撃を喰らったらいつ死んでもおかしくないので、常に死と隣り合わせだった。
それに人々を救うのに己が恥など気にする余裕は無い。というか命と私の恥なんぞ釣合いにすらならないのだから、そのような恥など昔は気にせずに戦ったものだ。
――今はそうで無い分立派に恥ずかしいけど。
しかし、戦いに明け暮れたのは昔の話だ。
今では私の戦いと封印が功を奏したのか、世界が常にモンスターとの戦いの真っ只中であった私の生きた時代とは違い、とても平和な世界へと変貌を遂げた。モンスターの脅威は無くなってはいないが、充分に私の戦いの日々は報われたと言って良いだろう。
――なんか私が神とかになっていたのは予想外だけど……
話は戻すが、私はクリア神という名の神として崇められているそうだ。
それが戦いに明け暮れなくてもよくなった私を悩ませている一つである。
私が美しき女神として信仰?
――うん、されているのは良い。見る目があると言えよう。
この国の王族が加護を受けている?
――知らない、ランドルフってなんやねん。確かに私の魔力の一旦は見えるけど、勝手に加護を得ないで欲しい。
信者は身に纏う衣服は少なめに?
――なんて贅沢な! 私は着れないと言うのに、なんでわざわざ厳しくしてるんだ!
信者は下着禁止?
――え、なにこの服。ブラ? ショーツ? 私が封印している間にこんな可愛く美しい服が出来たの? ……なんでわざわざ禁止にした! 全裸で戦った私に少しでも倣うため? ありがとう、余計なお世話だ!
という、私の意志とは関係無い方向に私の信仰形態が出来ているんだ。正直困る。
神という事で否定をしても良いが、間違いなくそれをすると私は偽神として攻撃されるし、例え成功してもこの国は混乱するだろう。困った。
――困ったので、無視して生を楽しもう!
どうしようもない事はどうしようもない。
なら私はせっかく平和な世界を生きる事が出来るようになったので、生を謳歌する事にした。今は自由は少ないが、いずれ自由に動けるようになって、服を着れるようになって、オシャレをして、平和な世界を謳歌してやる!
――それにしても、あんまり常識とか言葉が変わって無くて安心したな。
数年でも常識は変わるのだから、数千年も経てば多くの事が変化する。
常識の差で困る事も多いとは思ったのだが、懸念した以上の差は無くて安心した。価値観の差とかもそこまでない。風習とか情勢を学べば充分に今を謳歌出来る範囲である。
――気になるのが【魔術】の種類くらいだけど。
私は【魔法使い】ではなく【魔術師】だ。解法は【魔法】の域に達しているのもあるが、基本私が使うのは【魔術】なので、【魔術師】なのである。
【魔法】とは【魔術】を極めた先に到達できる極致。
【魔法使い】とは極致を究めた【魔術師】の頂点。
【魔法】とはそんな特別な存在であり、滅多に口に出来るものでは無い。基本自分で言う時は頂点に位置する者か馬鹿でもない限り【魔術】と口にするだろう。
……だが、この今のこの世界において皆はどんなに規模が小さくても魔法と呼び、魔法を行使し主体として扱えば魔法使いと名乗るそうだ。
ちなみにその事をクロと言う名の、不可思議な魂の形(未だによく分からない)少年に聞いた所、
『現代でも俺達が使っている【魔力を介した神秘】は【術】、【魔術】、【魔法】の三段階に分かれてますよ。規模とか扱い的にはトウメイさんの仰ったものとそう変わらないかと。【魔法】はもう少し敷居が低いですがね』
『そうなのか? だが皆は小さなものも魔法と言っているようだが……』
『ええ、一々段階を分けて言うのが面倒なんで、皆ひっくるめて【魔法】って言ってます。俺だって魔法は強化魔法以外碌に扱えないですけど、一応扱い的には魔法使いですし』
『えー……』
と、説明された。
……この辺りは私の中で戸惑いを隠せずにいる。
多くの常識が変わらず、人々が穏やかになった以外はあまり変わらず営みを続けていても、この扱いだけにはなれないものである。
――いや、まぁ……なんかシキに住まう皆は私の常識ではよく分からないけど……
……うん、これがあったなぁ。
私は現代に目覚めてからあまり人とは接していないが、彼らについては今一つよく分からない。下手をしたら階級云々よりも訳が分からないかもしれない。
――……よし、彼らを観察しよう。
とはいえ、理解出来ないからと言って放置しておくのは良くない。少しでも相手を理解する事が大切だろう。
という訳で。
「クロ君、ちょっくら今夜の花火の時に出かけたいんだけど、良いかな、良いよね!」
善は急げという事で、私は観察のための外出の許可をクロ君に得る事にした。こっそりと姿を解法で消しての懇願である。まぁクロ君には何故か見えるんだけどね。
「……構いませんが、お願いですから話す時に上から話しかけるのやめてください。その……マントを羽織っていても見えるので」
「見せてるんだよ、許可を取る誘惑としてね!」
「それをすると許可したくなくなるので、やめてください」
「えー、周囲には見えていないから、思う存分見ても文句言われないぞ!」
「見ません。痴女ですか」
「誰が痴女だ!」
「アンタの今の行動は充分に痴女だ!」




