前途多難(:菫)
View.ヴァイオレット
スマルトがスカイと結ばれるための作戦の多くはクロ殿から聞いていた。
それを聞いて私は「出来る限り協力はするが、判断次第では結ばれぬよう行動するかもしれない」と告げていた。いくらスマルトがスカイを好きだろうと、望まぬ形で推し進める事で、スカイの気持ちを無視するのは出来ないと判断したからである。
その件についてはクロ殿は納得してくれた、というよりはクロ殿自身も同じ考えだったようなので問題はない。
故に状況と共に今のスマルトがどういう男なのかを判断しつつ、お見合いを進めていこうと思っていたのだが。
――いきなりプロポーズ……!?
だが、流石にこれは予想外である。クロ殿から聞いていた作戦が全て吹っ飛んでいる。
クロ殿からはスマルトや神父様と相談し合い、此度のお見合いの作戦や進め方の案を出し合ったと聞く。場を盛り上げたり、庭を散歩して花を愛でたりして会話をしたり、いざという時のために邪魔が入らないように他の者達を追い出すように私達が仕向けたり。そういった事から会話を始め、徐々に互いを知って婚約に結び付けていく……と。
しかしそんな作戦など知った事ではないかというように、スマルトはスカイにプロポーズをした。
出会って……というよりは、スマルトにとって二、三年振りほどに見る再会を果たしてから数秒。
ただでさえ小柄なスマルトが片膝をついているので、スカイを大分見上げる形になってプロポーズをしたのである。
――皆、固まっているな……
そしてスマルトの突然の行動を受け、その場に居たお見合いの両家。そしてハートフィールド家。
従者を含む全員が固まっていた。
驚愕、動揺。とにかく理解が追い付いていないかのような表情である。普段はなにかと冷静を保っているアッシュ(最近はそうでもない)も、弟の突然の行動になにをして良いか分からないように固まっている。
「あ、あの……?」
そして当のプロポーズを受けたスカイも動揺していた。
ある意味では望む形なのかもしれないが、望んだ形になる過程、段階が全て吹っ飛んでいるのだ。動揺もするだろう。
「スカイさん」
対して唯一動揺をしていないスマルト……いや、ある意味一番動揺しているのはスマルトかもしれない。
先程の挨拶を見る限りでは、作戦通りに進めようという意志と、好きな相手とお見合いをする緊張が見られた。しかし再会した好きな女性のドレス姿を見た瞬間に衝撃が走ったように固まり、そして衝撃を受けた動揺を抑えきれずに、感情のままに行動した。それが今のスマルトのように思える。
「どうか――お返事を聞かせて頂けませんか、スカイさん」
◆
「これ、ヴァイオレットが仕組んだ事じゃ無いですよね」
「何故そうなる」
スマルトの再開直後のプロポーズ後から数十分。
現在客間にて私はスカイと共に紅茶を飲みながら談笑(?)をしていた。
「いえ、クロを諦めきれていない私に対し、別の男性をあてがう事で牽制とする、的な……」
「しない。私をなんだと思っている」
「夫が大好きな、結婚しているのに恋愛脳な夫婦の内の妻の方」
「分かっているじゃないか。ならそれをしたら間違いなくクロ殿に嫌われる、という事も分かっているだろう」
「分かっていますよ。ただ動揺で言っているだけなんです、ごめんなさい」
「謝る必要は無い。分かっているからな」
動揺するのも無理はなく、そして動揺の元となったスマルトも居ないので、スカイが落ち着くまで多少口が荒くなろうと気にはしない。
先程の突然のプロポーズの後、スマルトは混乱から回復した兄であるアッシュに、
『申し訳ございません弟はお見合いで動揺しているようで少々落ち着かせたいのでクロ子爵部屋を貸していただけますかハハハハハ』
と、スカイが返事をするよりも早く、早口で捲し立てられクロ殿やグレイ達と共に、オースティン家用に用意していた部屋に連れていかれた。
スカイはその様子をポカンと見ており、去ったともしばらく動揺で動けずにいたので、私やアプリコットが落ち着かせるために部屋へと移動したのである。
ちなみにスカイの御両親や数少ない従者も同じ部屋に居り、私達の会話を何処かハラハラしながら見ている。恐らく彼らにとって私の印象が一昨年くらいのものであるので、このように気軽にスカイと話しているのが信じられないのだろう。
「まさかティー殿下がされたような告白を、私がされるとは……しかもほとんど初対面の子に……」
そしてこちらは先程のプロポーズを信じられないスカイ。
スマルトにとっては何度か見たりして恋慕の気持ちがあり、今回の再会で抑えがきかない程に美しいと感じた故のプロポーズだ。しかしスカイは無自覚の初恋をした事によりスマルトの印象が薄く、更に小柄という事もあって、“男性”というよりは“男の子”という印象が強いのだろう。
「お見合いで舞い上がったのでしょうか……」
故にスカイは本気と捉え切れていない。
しかし当然と言えば当然かもしれない。突然現れてのプロポーズなど、なにか裏があるのではないかと思うか、子供故の好きを履き違えての暴走のようなものに思うだろう。
「私に一目惚れ……いや、それはないですね」
さらに言うならば、スカイは自身の外見を特に優れているとは思っていない。
殿下の護衛である以上は見苦しくない様に整えてはいる。しかしメアリーやクリームヒルトと比べると可愛らしさはないと思っているし、ドレスを着ていても何処か出てしまう身体のがっしりさに“女の子としての可憐さは自分には無い”と考えているのである。
……私個人としてはスカイは充分魅力的であると思うし、騎士らしい格好良さと美しさは、充分に虜にすると思うのだが……やはり、無いモノが欲しくなる、という感じなのかもしれないな。
「だが、良かったじゃないか。あの様子ならお見合いは成功する、と言えるじゃないか」
「そうでしょうが、あのような可愛らしい少年を私の私欲のために利用するのも……どうすれば良いのでしょうか……」
少年……年下は恋愛対象にならないような庇護対象だからこそ、それを利用するのは忍びないと、スマルトを見て改めて思っているようだ。……この様子を見ると、コン子爵と同様に、スカイも性格的に貴族の政治には向いてなさそうだな。
――そしてスマルトは大変そうだな。
スカイは恐らく、クロ殿が好きだという以前に、クロ殿のような年上の男性が好みなのだろう。
そんなスカイに想いを伝えるのは大変であるなと、今頃クロ殿にフォローされつつアッシュに色々言われているだろうスマルトを心の中で応援するのであった。




