鬼が出るか蛇が出るか(:菫)
「そういえばさーアッシュ君」
「どうしました、クリームヒルト?」
「スカイちゃんとお見合いするスマルト君って、どんな子なの?」
「カサスとやらでは出て来ないのですか?」
「カサスでも情報ほとんどないんだよね。アッシュ君に妹や弟が居るー的なだけで」
「そうなのですね。ええと、スマルトは兄の贔屓目になるかもしれませんが、性格は素直で優しく、そして勉学魔法共に優秀ですよ。将来が楽しみです」
「ほうほう」
「後は……私に憧れていますね」
「お、自慢かな!」
「いえ、私や妹……スマルトにとっての姉ですね。私や姉に憧れているせいなのか、身の丈に合わない武器とか魔法とかを行使しようとするんです」
「あー、なんとなく言いたい事は分かるな。私もよく黒兄のマネしてたし」
「スマルト的には短刀など飛び道具を駆使した方が強いのですが、大きな剣を使ったりするのです」
「ほうほう。数で押し通す所を一撃に憧れる感じか……外見は? アッシュ君に似て背が高くてシュっとした感じ?」
「シュ、というのは分かりませんが……まだ小柄で、貴女より小さいです」
「あはは、成長期がまだな感じかな」
「ええ、後外見的特徴というと……。…………」
「どしたの?」
「……いえ、なんでもないすよ」
「私思うんだけど、なんでもないってわざわざ言うのって、なにかある時だよね」
「確かにそうですね。まぁ隠す事でも無いですが、実はスマルトは――」
◆
View.ヴァイオレット
グレイ達がシキに帰郷して二日経ったこの日。今日はスカイのお見合い当日である。
スカイの御両親であるシニストラ子爵夫妻は昨日シキに到着し、挨拶も交わした。初めは様々な噂が飛び交うクロ殿と、あまり良い噂は聞かないだろう私に何処か警戒心を抱いていた両名であった。が、クロ殿がかつてスカイの話していた“憧れの兄のような存在”である事を知った後は何処か警戒心も弱まり、私達が心から出迎えると私達に対する警戒心……というよりは、不安は大分無くなったようだ。
――とはいえ、今回のお見合いの件に関しては色々とあるようだがな、スカイの御両親は。
スカイの御両親であるシニストラ夫妻は私は過去にも会った事が有る。
その時の印象は「変わった貴族」であり、今思い返すならば「貴族に向いていない」というモノだ。
いわゆる貴族の政治に向いていない性格、というやつなのだろう。腹芸などが出来ない、利よりも情や義を取る騎士。それ故に慕われはするが裕福ではなく、没落間近になっている。
ここ数年はどうにかしようと躍起になっているようではあるのだが、政治的手腕はてんで駄目(スカイ談)なので、家の存続と家族や領民の板挟み。最近では身体を悪くもしたそうだ。そしてその結果が回り回って今日のお見合いに繋がっているとの事。
「……お父さん。無理ならば休んでいてください。私が居れば今日のお見合いは大丈夫ですので」
「そうはいかない。大体私はこのお見合いには反対――ゴホッゴホッ!」
「ああ、アナタ! 無理をされないでください!」
「大丈夫だ。昨日も言ったが、俺はやはり無理に婚姻をさせるくらいなら、いっそ――」
「私の夢は騎士として国を守る楯になる事。今回のお見合いがその数少ないチャンスなんです。……身体を悪くしたので問題が起き、此度のお見合いを結んだ原因でもあるお父さんは、責任を感じるなら大人しく見守ってください。良いですね?」
「……分かった」
スカイはいつもの手甲などを身に纏った騎士のような凛々しい格好ではなく、お見合いに相応しいドレスを身に纏いながら父親に冷たく言い放つ。
シニストラ子爵はこのお見合いに反対であるそうで、どうにか止めようとする父に対し、諫める娘、という形が昨日から続いている。今のように「娘の幸せを願うのなら、お見合いが良い形で終わる事」と何度もスカイは言っているのだが、父は精神的面では納得いっていないようだ。
――……恐らく何処かで、スカイが婚姻を意地でも結ぼうとしている事に気付いているのだろうな。
スカイは周囲には「どうにか上手く流せるように頑張りますよ。大丈夫です、相手も本気では無いですから」とは言っているが、スカイは可能ならばこの婚姻を結ぼうと考えている。だろう、ではなく、断定できる形で言える。……そういった覚悟が、スカイから伝わって来るからだ。その覚悟をシニストラ子爵は感じ取り、葛藤しているのだろう。
――だから一昨日はあんな風に掃除ではしゃいで……いや、アレは素か。
……婚姻を果たそうと己を殺すために、最後に少しでも楽しく行こうとしたのではなく、アレはスカイの素だろうな。これも断定出来る形で言える。
――さて、これがスマルトにとって良い結果に繋がれば良いのだが。
クロ殿から一昨日、スマルトの事情は聞いた。
昔会ったパーティーにて一緒に遊んだお姉さんがスカイであり、それ以降も何度か見かけて恋焦がれていた事。だが年齢差や身分差から機会はないと思い、恋心は封印していた。
しかし今回オースティン侯爵家にシニストラ子爵家とのお見合いの話が上がった時、自ら勧み出たそうだ。御両親はこのお見合いを初めどう断ろうかと悩んでいたそうだが、スマルトの熱い思いを聞き、むしろ応援すると言ってくれたそうだ。
――両者婚姻を望んでいる、という点では良いのかもしれないが……
しかし決定的に望む根本が異なっている。
スマルトは立場や身分を関係無しに自分を好いて貰おうとし、クロ殿に決闘まで申し込んだ。やり方は正しいとは言い難いが、想いは充分に伝わってくる。そんな彼が義務感で婚姻を結ぼうとして来る彼女をどう思うのか。……気付かない、あるいは気付いても「これから好きになって貰う!」というような性格ならば良いのだが、如何せん、相手を何処か冷めた感情で見ている事が多いあのアッシュの弟だからな……難しい所だ。
――あと、ナニカが混ざっている、か。
……その件に関しては置いておくとしよう。
一昨日からトウメイは屋敷から出ていないため“その件”については不明のままであり、今日も姿を現さないと言っている。
クロ殿にトウメイがそのように評価していた事と、「今の所問題はないと思う」とトウメイが言っていた事は伝えてはある。今はお見合いに集中しよう。
「時にクロ殿」
「どうしました、小声で」
「確認になるが、スマルト達はスマルト含めあくまでも今日到着した、という体で振舞えば良いんだな?」
「そうですね。凄く怒られたみたいですし」
オースティン侯爵家のメンバーはスマルト自身と従者達が来るという事になっている。両親は今回出席は出来ず、代わりに侯爵代理という事でアッシュが来る事になっている。場合によっては妹も来るらしいのだが……それらの予定を無視してスマルトは一昨日シキに到着している。その件で昨日はこっぴどく叱られたらしいとの事。
幸いと言うかスカイ達、シニストラ家のメンバーにはスマルトが一昨日来た事などは伝わっていないので、あくまでも今日シキに来てこの屋敷に到着し、私達がそれを出迎える、という体を装うそうだ。
「それと先程聞いたんですが、その際にスマルト君は意地でも“スカイが好きだから早く来た”のではなく“クロという強い男と戦いたかった!”という事にしているそうなので、そのつもりで」
「わ、分かった」
スマルトが正直に言わなかったのは、好きというのを恥ずかしかったからなのだろうか。あるいは事情を知らないというアッシュといった周囲に頼らず、自分の意志で婚姻を結びたいからだろうか。
……後者であれば、私が知っているという事も言わない方が良いだろう。
――となると、一昨日の決闘後の作戦に関しても……だな。
クロ殿から聞いたお見合いを成功させるための作戦。……とはいっても大した事ではなく、多くのシミュレーションの中からそれに即した対応をする、というものだ。
あまり多く作戦を練ってもグレイの一つ下であるスマルトが行動できるとは思えないし、逆に混乱を与えかねない。
「皆様、オースティン侯爵家の馬車がお見えになりました」
だから私に出来る事といえば、様々な思惑が入り混じる今こうして始まろうとするお見合いをどうにか成り立たせる事くらいだろう。
私達はアンバーの言葉を聞いて静かになり、玄関先へと素早く移動する。
――このお見合いが、スカイにとって良いモノとなる様に祈ろう。
スカイが相応しい相手と結ばれるように祈りつつ、友として全力を尽くすとしよう。
……そして、良いモノにならない場合は、スカイの御両親の意志を汲み取るという事も視野に入れつつ。
――さて、鬼が出るか蛇が出るか。
今日という一日が、良いモノとなる様に。
なにが出て来ても領主として最善を尽くすとしよう。
「おうよクロ坊、鍬とか包丁とかを新品を馬車にまとめて持ってきたぜ! なぁに心配はいらない、普段世話になっている礼だ! これを使って存分にグレイ君や新しい少年にも――」
「ロボ、馬車ごとゴーだ!」
「了解デス、クロクン!」
「なっ、お前はロボ!? は、離せ、何故お前が此処に居る!?」
「場合によっては新たに来た、護衛に守られて見えない少年を遠くから眺めるためになにか理由をつけて来ると思ってあらかじめ待機して貰っていたんだ! ロボ、すまないがよろしく頼む!」
「ブースト、ゴー!」
「く、くそおおおぉぉぉぉ……!」
……なにが出ても対応出来るようにと思ったが、いきなりこのような相手が出ても困るな。
備考 トウメイの気になる相手の評価
ヴァイス
変わった形で暴走すれば大変そうだが、落ち着いているようだしそこまで脅威は感じない。
スマルト
遠かったから今一つ分からないが、なにか奇妙なオーラが漂っていた。
マゼンタ
私が見ているのも気付いていたし、メアリーやクリームヒルトと同じで、危険以外の何者でもないとしか思えない。




