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思い返すとムカついて来た(:菫)


View.ヴァイオレット



「オークの身体……? なんの事かは知らんが、ともかく久しいなヴァイオレット。お前がそのような格好をしているとは驚きだ。いつもの不遜かつ無恥厚顔な態度はどうした」

「……失礼致しました、殿下。唐突故に被り物をしたままの挨拶を謝罪いたします」


 一瞬呆けた殿下であったが、すぐに私に対して攻撃的な表情に戻る。

 まるで私以外には誰も視界に入っていないかのようだ。

 クロ殿達は相手が殿下の為かすぐに割って入ることは無く、周囲の者達はどうも私が誰なのか分かっていないようであり、声が聞こえるかどうかの距離を保ち何事かというように私達を見ていた。


「構わん。お前の顔を少しでも見なくて良いというのなら、外さなくていい」

「――そう、ですか」


 私が帽子と眼鏡を外そうとすると、殿下は忌々しそうに吐き捨てた。

 ……これは思った以上に心を抉られる。

 相手に悪意を向けられるのは慣れてきたつもりだが、相手が殿下であると想像よりも来るものがある。


「ヴァーミリオン殿下、その言い方は――」

「黙れ。今は俺とコイツが話している」


 言葉に詰まっている私の背にクロ殿が手を当て、無言で大丈夫かと私を支える中、私よりも先にクリームヒルトが殿下に喰ってかかった。


「黙りません。友達を罵られて黙っているなどできません」

「…………ネフライト。お前の真っ直ぐな所(それ)はアイツと同じで美点だが、擁護すべき相手を考えろ。コイツがお前を友と思うはずが無いだろう」


 直接言葉を投げられていないグレイやアンバー達も怯むほどの威圧を向けられながら、クリームヒルトは毅然として殿下に向かって言葉を続ける。殿下はそこで初めて会話を遮ろうとしたのが誰かという事に気付いたようで、クリームヒルトを諫める。


「だからどうしたと言うんですか。例えそれが事実だとしても、貴方の言葉が認められる理由にはならないです」


 しかしクリームヒルトは怯む事は無かった。

 平民が臆することなく王族に楯突いているという異様な光景に、周囲の者は内容の詳細は詳しく聞こえずとも騒然としている。


「認められるかどうかはお前が決めることではない。そして認否を遮っているのはお前自身だ。こうして俺の会話を遮る事は徒に時間を浪費するものだけと知れ。こちらとしてはヴァイオレットとの会話など……いや、この女が学園に足を踏み入れているという事実が許されざるものだというのに」

「っ、貴方は本当に……!」


 殿下は表情を崩すことなく、淡々と私に対する拒絶とクリームヒルトに対する否定を述べる。

 クリームヒルトは今にも飛び掛かりそうだが、飛び掛かれば今以上に状況を悪くすると理解しているのか只悔しそうに唇を噛み締める。


 ――殿下は今なお私を恨んでいるのですね。


 落ち着け、私。殿下が私を嫌っている事など既に知っているし、敵意を向けられることもやって来たではないか。別にこの態度は理不尽でもなんでもない当然の態度の範疇だ。

 そうだ、思い出せ。殿下だ。相手はあのヴァーミリオン殿下なんだ。

 紅い髪に紫の瞳の第三王子で幼少期は自由奔放で可愛らしかったが、段々と王族としての責任感に目覚め、性格も冷静になってきて周囲の期待に応えようとして来た誇り高きお方。外見も年を重ねるにつれ王族に相応しい美丈夫になっていき、私も相応しい女になれるようにと色々と磨いた。

 だけど学園に入ってからはメアリー・スーと多く接するようになり、仮にも婚約者(わたし)がいるにも関わらず彼女の手を取ったり、錬金魔法の材料を取りに二人で採取をしていたり、授業中に彼女と一緒に湖に落ちた時はエクルのように陰でお姫様抱っこをして部屋まで運んでいた殿下だ。

 挙句のはてにはアッシュ、シャトルーズ、エクル、シルバなど学園でも有名な者達と仲良く……というよりは、彼らが彼女に好きだと殆ど公言しているにも関わらず、それでも彼女と一緒に居たいと言った挙句、決闘を承諾し「お前の事を好きになったことは無い」と私に吐き捨てた殿下だ。

 別に魅力的な女性に対して多くの男性が惹かれるのは無理は無いが、決闘の際にアッシュやエクル、シルバには悉く罵倒され、シャトルーズには過剰に抑えつけられ、それを見て「今のお前にはお似合いだな」と言った挙句、メアリー・スーに諫められると「メアリーは優し過ぎる」と公衆の面前(+私の前)でイチャついていたではないか。


 ――よし、この男にどう思われても良い気がして来た。


 改めて直接出会い拒絶の言葉を言われ、劇の主演という情報に思いの外動揺することはあったけれども。こうして顔を合わせて直接出会い、改めて自分の意志を確かめた所で吹っ切れた。

 当時は十年間想い続けた結果の拒絶の言葉であったので、全てが嫌になり自棄になっていたが、クロ殿達に救われたため今は大分落ち着いた。そもそも今の私にとってはあの十年間よりも、この四ヶ月の方が大切だと思える。自分勝手だが、自分勝手に幸せになると決めたのだから、改めて前を向こう。

 私は外さなくて良いと言われた眼鏡を外し、帽子を外し、髪型は――アンバーに折角セットしてもらい似合っていると言って貰えたのでそのままにした状態で改めて殿下の方へと向き直る。

 クロ殿やクリームヒルトは心配そうにしたが、大丈夫だと表情で伝えると私が一歩前に出る事を譲ってくれた。


「やはり失礼ですので外させていただきます。そして改めまして御機嫌好う、殿下。ご壮健そうで安心致しました」

「ああ、お陰様でな。お前という過負荷が居なくなったことで十分に学園生活を謳歌できている」

「それは大変よろしい事ですね。学園生活の記憶は宝と仰る方も多くおられます。殿下がそのような学園生活を送られるようお祈り申し上げます」

「そうしたい所だが、今まさに宝に傷をつける嫉妬に狂う付きまとい女が居るようなのでな。俺としてはメアリーと会う前に排除したいところだ」

「排除に関しては申し訳ありません、私も夫のいる身ですので勝手は出来ません。そして殿下と彼女に対する謝罪に関してはいずれ致しましょう。ですが御身は劇の主演とされる身。時間が無い状態では謝罪も満足にできません」


 私が礼をすると、周囲は小さくだが騒つき殿下は忌々しそうに目つきをさらに鋭くする。

 周囲は私が謝罪にした事に対し、殿下は私が平然と謝罪すると言ったことに驚いている感じだろうか。

 殿下は私の周囲に居る者達を見渡し、グレイは年が幼く、バーントは顔を知っているためクロ殿が夫ではないかと判断し、ジッと見る。


「お前がヴァイオレットの夫か? 結婚したと話だけは聞いていたが……」

「はい、申し訳ありません、挨拶が遅れました」


 クロ殿は一歩前に出ると、殿下に対して礼をする。

 ……? 一瞬クロ殿が殿下を見て憎々しげな表情になった気がする。私を罵倒された事による表情ではなく、殿下の顔を見ての表情でまるで別のなにかを見たかのような……


「ハートフィールド男爵家が三男、クロ・ハートフィールドと申します。現在はシキという地にて領主を務めております。このような場での挨拶になり申し訳ありません」

「ふむ、クロ男爵か。このような女と――待て、ハートフィールドの三男、と言ったか?」

「……ええ、ハートフィールド男爵家の三男にして、この学園の卒業生ですよ、ヴァーミリオン殿下」

「……成程な」


 しかし次は殿下がクロ殿に対して、なにかに驚いたかのような表情を取る。しかしすぐ持ち直すと呆れたかのような表情になった。

 殿下は先程の様子からしてクロ殿の事を知っている訳ではなさそうだが、なにに反応して……?


「――お似合いな事だな、ヴァイオレット。カーマイン兄さんの殺害未遂者が夫とはな」

「……え?」


 殿下はクロ殿を見て、そう吐き捨てた。


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