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幕間的なモノ:萌黄色の報告書を書く心情


幕間的なモノ:萌黄色の報告書を書く心情



 最近疲れる事が多い。


 私の立場的に忙しくない時期は無いのは充分に理解しているのだが、それでも愚痴が零れるくらいはここ一年疲れる事が多い。

 人族としては若くはない年齢にはなっているのでそのせいだと言われればそれまでではあるのだが、これは別の事が起因していると言えるだろう。


 この世界は別の世界における物語の世界と似た世界であり、それが戯言とは言えない状況になっている。

 シキという地に封印が有り、適切に処理しないと地域一帯が混乱壊滅をもたらす。

 王城の地下空間に謎の扉があって、シキの封印以上に危険性が高い。

 師匠の予言が日本(NIHON)語で書かれているせいで、言語を覚える必要がある(しかもかなり難しい)。

 あと息子と我が子爵家で繋がりの強い第三王子の婚約破棄云々でなんか私にも話が色々来る(めんどい)。


 そんな情報を処理したりしていれば疲れもする。

 最愛の夫の身体に癒されることで回復はするけれど、夫も忙しい身なので常時癒される事は出来ない。最近はもう一人クロ君という素晴らしい癒しの相手は見つけたけれど、下手をしたら夫以上に癒されるのは難しい。だから疲れる。

 くそぅ、何処かに癒される良い身体はいないか。

 ここ一年で良い身体、もとい良い筋肉のヒトはクロ君以外にも見つけられてはいるのだけど、皆女の子なのである。別に女の子だから駄目だという訳では無いのだけど、同性だと癒しと言うか芸術品を見ている感じになるのである。

 メアリー君とかクリームヒルト君とかシュバルツ君とかを男性化出来ないものか。彼女らも素晴らしい肉体だから、男性であればもっと興奮して癒されるというのに。あの扉の向こうにそういった魔力は無いかな。あったら彼女らを呼んで事故で男性にするという手もあるのに。良いねそれ今度の調査の時は探そう!


 ……いけない、危ない思考に至っている。余程疲れているようだ。

 あるいはつい先日若返った事が原因かもしれない。

 ……そう、若返り。これがつい最近の疲れている要素だ。

 とある事情で私は息子と同じくらいの年齢に若返った。普段から細胞の強化などをしているため他者と比べると老化は遅い私ではあるが、それとは別で明確に昔に戻ったのである。

 若返った原因は、あの王城の地下空間に合った扉から溢れる魔力が、特定の条件を持って若返りと言う名の時間遡行を私達にもたらしたのである。

 時間遡行にしろ若返ったのならば肉体的に疲れないのでは? という事はない。結果的に一日ほどで戻ったし、戻った際に解除した相手がとても問題なのだ。


 まず服を着ない。というか着れないので基本全裸。

 姿を消す事が出来るので気が付くと何処かに行く(研究所内からは勝手には出ない)。

 魔力探知で私はなんとか見えるようになったのだが、研究所内では私だけに見える事を利用し、所員と話し中にイタズラしてくる。

 ……あと、トウメイとは名乗っているが、本名はクリアだそうだ。


 最後はメアリー君とクリームヒルト君、そして国王陛下夫婦とローズ殿下くらいにしか知られていないのだが、この最後が物凄く頭を痛める。

 だってクリア神だよ?

 私だって産まれてから信仰しているクリア教の女神様であるんだよ?

 聖書にもある神話の類は子供ながらに心を躍らせて、いつかは立派な魔法使いになりたいと夢見て叶えたというのに、その女神が全裸で浮きながらうろつくんだよ?

 良い身体だから癒されると言えば癒されるけど、三十数年憧れと信仰を持って生きて来たのにあんな残念そうな相手が「イエイ!」という感じでうろつくんだよ?

 ……ああ、もう、癒されたいなぁ、本当に。切実に。

 でも最愛の夫は今次元の狭間に居るという空間(ゾーン)捕食者(イーター)が出現したらしいから、亜空間を斬る事が出来る夫が出張しちゃったんだよね……


「と、いう訳で報告と癒されがてらシキにかっとんで来た訳なんだよクロ君」

「なにがという訳で、ですか」


 という訳で必要な報告書を書き終わり、癒しを求めて私はシキに来ていた。

 ああ、相変わらず服越しでも分かる素晴らしい肉体! 見るだけでも癒される!


「空間歪曲石を権限で即時使用し、箒で速攻移動のシキ旅行さ」

「職権乱用ですね」

「君の肉体に癒されたいんだよ」

「誤解を招く発言を――いや、そこまで誤解でも無くなるので、発言を辞めてください。というか報告ってなんです?」


 あ、そうだった。権限を使って癒されにシキへと訪れたのは確かだけど、ただ遊びに来た訳では無い。私だって仕事はキチンとするんだ。


「ああ、はい。これシキでやるお見合いと重要人物の引き渡しとかその辺りの報告書。頑張ってねクロ君」

「はい? ……はい?」


 とはいえ、内容と言っても今度あるアッシュ君とスカイ君の家の同士のお見合いの仲介役としてクロ君を誘いに来た事や、クリア……もとい、トウメイという名の女性をシキに預けたいという連絡だ。


「ええ……お見合いの仲介役に、場所の提供。そして女性の引き取り……?」


 ……まぁ、要するにクロ君にとってはどちらも頭を痛める内容の報告である事は理解している。私が来たのもシニストラ家とは仲が良いから、すぐに動けてクロ君とも面識がある私が来た訳だからね。……本当に私欲だけで来た訳じゃないんだ。


「……分かりました。引き受けます」

「すまないね」


 私がいくつか説明をすると、クロ君は了承をしてくれた。どちらも下手に断った方が面倒なのだと理解できてしまったのだろう。


「報告などはこれだけでしょうか?」

「そうだね。あと、シキの扉を見に行く必要はあるから、今日はシキに泊まる予定だよ」

「ならば宿屋か我が屋敷を提供しますよ。疲れているようですし、今日はゆっくりなさってください」

「ありがとう、お言葉に甘えてクロ君の屋敷でも良いかな?」

「はい、分かりました」

「そして癒してくれるというのなら、身体を――」

「宿屋が良いのですね?」

「……分かった、見るだけにしよう。それだけでも疲れが癒されるからねぇ……」

「そんなに疲れていらっしゃるんですか?」

「ああ、若返った後年を取って色々と昔との差異を自覚してしまったと言うか……ね」

「若返った?」


 と、いけない。つい口走ってしまった。

 いや、しかし、王城の地下空間と似た扉がシキにもある。同じ症状が出ないとは限らないし、クロ君にも話しておくとしよう。


「なるほど、マゼンタさんの疑似症状が出た感じなんですね」

「そういう事」

「ですが……元に戻られたんですよね? そのままにせずに」

「ん、そうだけど……なにか気になる様子だね?」

「あ、いえ。失礼な話なのですが、若返った肉体のままで居られるのなら、そのままにしなかったのかな、と思いまして」


 ……そうえいば彼女にも「若返ったままにしておくことは出来るよ?」と聞かれたっけ。他の皆は記憶も失っていたし、あのままだと不便であるから治すけれど、私は記憶もあるし、そのままにしておけば再び十五歳程度の肉体から成長できる、と。


「あんまり興味はないかな。魔法の理論としては惹かれるけど、若返りはあまり、ね」

「そうなのですか?」


 けれどトウメイに迷わずしなくて良いと答えたら、今のクロ君のように不思議そうな表情をされた気がする。


「失礼かもしれませんが、理由をお聞かせても?」

「え、だってクレールと一緒に年取れないじゃないか。私だけ若返ってもねぇ」


 私みたいに若返ったのは特例だったらしく、彼女は本来若返らせる事は出来ないみたいだ。

 老化を極端に遅らせる事は可能らしいけど、若返りは本当に特例事象。

 ならば私は一緒に年を重ねて愛する夫と一生を共に過ごしたいのに、私だけ若返った姿になろうとも意味はない。共に老いて夫婦としての時間を過ごしたいのだから。


「……なるほど、分かります」

「だろう? 多分クロ君が私の立場でも同じ事をしていたと思うよ」

「はい、そうかもしれませんね。俺もヴァイオレットさんと歩んでいきたいですから」

「良い返事だ。……そういう意味では、今度のお見合いも歩んでいきたいと思えて、結ばれる、という事になれば良いんだけどね」

「……はい。仲介役として、無理な婚姻にならぬよう努めます」

「ありがとう。スカイ君を昔から知っている者としては、彼女の祖父に無理矢理に結ばされない事を祈るばかりだよ」

「そうですね」

「いざとなったら我が息子に“幼馴染は俺のものだ!”と攫わせる案もあるんだけど、どうかな?」

「息子さんがそれを望むなら止めませんが」

「……ないか」

「……ないと思います」


 うん、ないだろうな。

 シャトルーズとスカイ君、互いに異性としては認識しているけれど、恋愛感情は無いからねぇ……


「ところで、息子さんにはヴェールさんが婚約者を見つけたり、貴族としてお見合い的な物を用意したりはしないのですか?」

「婚約者くらい自分の力で捕まえろがカルヴィン家のモットーだよ。そんな所まで親に甘えるのなら私がぶっ飛ばす」

「……さよですか」

「はぁ、報告書に我が息子がこの度婚約者を連れて来まして、という報告が出来るのはいつになるのかな。あれば報告書を書く心情も明るくなるというのに」

「いつになるのでしょうねぇ」


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