もやもやチクリ(:淡黄)
View.クリームヒルト
「ほーら、君達以外には見えないだろう? 少しは私を信じても良いはずだ」
「あはは、確かにそうだけど、私達には相変わらず見えているから複雑だよ」
「大事な所は髪とか光で見えないから大丈夫なはずだ」
「あはは、そういう事じゃないんだよモザイク神」
「モザイクの意味は分からないが、その呼び方はやめてくれ」
地下空間からクリア神と共に王城に出て、若返った皆が居る研究室へと向かっていた。
私達には浮いてうっすらと見える状態であるので本当に見えていないのか不安だったのだけど、本当に見えていない、認識できていないようであった。
初めは「見えていても関わりたくないからスルーしているだけなのでは?」とも思ったけど、流石にこんな美女が全裸で宙に浮いていたら少なからず反応はする。けれど視線も一切やらないし、クリア神が顔を近付けても反応が無いので本当に見えないのだろう。
「いやーしかし、時が経つとあらゆる物が新鮮に感じるな! おお、アレはなんだね!?」
「あはは、気になるのは分かるけど、まずは大人しくしててねー」
そして連れて行く最中、あらゆるものに興味を示しては、ふわふわと浮いて楽しそうにしている。
彼女曰く今まで多少なりとも外の現代に関わりを持つ事は出来ていたそうなのだが、夢のように曖昧であり、ずっとあの扉の中にいたから実際に目にするのは新鮮で楽しいようだ。
未知の物に対してや、自分が居た頃の面影が無い事。さらには実際の自分が知る相手がこの世にもういないという事に恐怖や寂しさは覚える事無く、今ある物を受け入れて楽しむ姿勢は素直に見習いたいと思う。
あとちなみにだけど、声も私達以外の相手側には届いていないようだ。なので傍から見たら誰も居ない相手に騒いでいる、と思われかねないので気をつけないと。
「着きました。こちらから入りましょう」
そして相変わらず早く解決したいと言わんばかりのメアリーちゃんが先導し、例の裏口から研究機関の中に入る私達。
裏口からの入り方に興味を示しつつもクリア神は研究機関の中に入った途端、先程までとは違う表情を見せた。
「……ほう。先程の城内も何処となく私に似た力を感じたが……ここはまた興味深い相手がいそうだ」
「興味深い相手?」
「ああ。もしかしたら、先程私の加護があると言っていたのもあながち間違いで無いかもしれないな」
加護……ランドルフ家の加護か。そうなると例の若返った皆が居る部屋のティー君とフューシャちゃん、そしてヴァーミリオン殿下に反応したのだろうか。まぁ実際に会えば分かるかもしれないけど……けど、気になる事がある。
「…………」
「おや、どうしたのかな。私の美しさに見惚れているのも分かるが、今は――」
「そうじゃなくって、今の状態って互いに触れたり出来ないから見えていない状態なんだよね?」
「そうだな。流石に今の私の力ではこの状態での他魔術の行使は出来ん」
今のクリア神は仕組みはよく分からないけど、相手に認識されない代わりに互いに干渉が出来ない、という状況だ。
つまりは若返りを解決するためにはこの透過状態を解除する必要がある。見て観察する事自体は出来るとは思うけど、「なんだか知らない内に治った!」みたいな事は力を失った今では出来ないようだ。
だから治す際には姿を現す必要がある訳なのだけど……
――彼女が、皆の前にかぁ……
クリア神は現代においても美女と言っても差し支えのない美しさを持っている。世の男性はその美しさに見惚れるか、裸体による興奮を得る事が出来るだろう。
この、無垢な少女のような身体でありながら妖艶な美しさを有している彼女を見れば、心に決めた人が居ても心が奪われるのではないかと思う彼女が全裸で皆の前に出る。
……もちろんそれはティー君の前にも出る訳で。
私とは違って背が高くて出る所は出ている彼女がティー君の前に出る。
男の子である以上は興味を持つのも仕様が無くて、場合によっては見惚れてしまって私を魅力的に感じなくなってしまうのではと思う訳で。
――……なんか、嫌だな。
正式には付き合ってはいない。綺麗な女性に興味を持つのは健康的な男の子なら仕様がない事だろう。
私だってイケメンを見ては「イエイ!」とか言う時もあるが、ティー君が彼女に見惚れるのは……なんか嫌だ。
仕様が無いと納得しないと駄目なのかもしれないけど、なんだか想像するだけでも胸がチクリとする。……こんなの、初めての感覚だ。
「む。なんだか恋力の気配がする……!」
しかもこんな女神に見惚れられるとか特にヤダ。恋力ってなんだ恋力って。
「まぁ安心するが良いクリームヒルトとやら。私が姿を現す際には、私に欲情しないように男性陣には外に出て貰えば良い。私とて異性に裸体を晒すのは恥ずかしいのだからな!」
「あはは、昔は晒し続けたのに、今更だね」
「昔はもう開き直れたと言うか、服を着れなくなってからは戦いとかに明け暮れていたからな。そんな事を気にする余裕は無かったというのもあるが」
あ、昔は着る事が出来てたんだ。
でも確かにクリア神の物語が何処まで事実かは分からないけど、事実だとすればそんな余裕は無さそうなほど波乱万丈だったろうからね。
それはそれとして、見えないのならば出て行ってもらった方が良いかもしれない。
「でもそうですね。男性陣は外に出て貰って、中を見ないようにした方が……いえ、でもどう説明すれば良いのでしょうね……?」
しかしメアリーちゃんの言うように説明も難しい。
仮に出て行って貰ったとしても、気が付けば治っていたでは男の子達も納得はいかないだろう。
「流石に解決した後に“メアリーちゃんがなんかやってくれたよ!”じゃ皆は納得は……納得……うん、それだけで納得は出来そうだね」
「しますかね?」
「うん、する。だからそれで行こう」
「行くのか」
メアリーちゃんなら巨大化しようが世界の皆に魔法をかけようが、「メアリーちゃんだからなぁ」で済みそうだ。
「……まぁ、ひとまずはそれでいきますが、そもそも今から会う皆さんは魔法に優れた方ばかりです。探知にも優れていますから、貴女が見えるという可能性も……」
「ふ、私を舐めるのではないよメアリー。私の力はそう安々と見破られるものでは無い!」
あ、なんだろう。この後の展開が読めたような気が。
「ところで件の子達が居るのはどの部屋だろうか?」
「あ、はい、あの部屋です。ちょうどあちらに居る男性が居る所ですよ」
「あ。エクル兄さんだ」
「ほう、あのイケメンの彼は君の兄なのか。……似て無いね」
「複雑な家庭事情なんだよ」
「クリームヒルト。あまり今はかき乱さないように。――エクルさん!」
「あ、メアリー様。それにクリームヒルト。良かった、来ないし急に居なくなるしで心配を――」
エクル兄さんは私達が来た事に心底安堵したような表情になると、こちらに近付いて来た。
そう言えばなにも言わずに来ていたのだった。その件に関して謝らないとなと思いつつ。
「…………そちらの浮いた美しき女性は、シキの住民だろうか」
「え」
エクル兄さんは安堵した表情から、クリア神を見ながら引きつった表情へと顔を変えるのであった。
しかしいきなりその言葉はどうかと思うよ、エクル兄さん。黒兄が聞いたらなんか頭を痛めそうである。




