128 魔王軍、侵攻開始
王都から帰り、更に1ヵ月。天翔はかなり良くなった。というのも、調べ物の後にモヤモヤした状態で相手をしていて、うっかり腕を切り落としてしまった。治療はしたのだが、痛みにビビッて消極的になったのでそれを利用して、脅しをかけて無理やり修行を続けた結果、見違える程に良くなった。
「何?ドMなの?ビビり過ぎって言ってるでしょ」
「隙あらば腕を切り落としてくる相手にビビりもするだろ…」
「あんたより弱かっただけで、普通の敵は殺しにかかってるって。これからはそうもいかないんだよ?たかだか腕1本、しかも治療付きだよ」
今後の戦闘では、腕1本程度では済まない。最悪死ぬし、魔王の趣味によっては四肢を切り落としてくるかも知れない。
そんな中で何を甘い事を言っているのか?まぁお陰で回避は恐ろしくレベルが上がったけど。
「そういえば魔王はどうしてるんだ?ここに来て随分経つが…」
「話を逸らしたね。まぁ連絡は無いよ。一応、通信用魔導具は渡してあるけど」
携帯を参考に作った通信用魔導具。いったいいくつの魔法を付与して完成した事か…。冷蔵庫みたいに『冷やす』という1つの要素なら楽だが、電話ともなると、魔導具のリンク、着信音設定、リンクしてある魔導具の選択、声の送信、受信。必要ないかも知れないが盗聴防止も付けてある。
「使い方が分からない可能性は?」
「特別仕様でボタン1つだよ?押せば繋がるんだから間違えないでしょ?城の人が興味持ってバラしたら多分、直せないけど」
魔法陣が互いに干渉しあわない微妙なバランスで組み込んである。構造を理解していなければ、組み直しは難しいだろう。
「全くどこからそんな発想が来るのか…」
「前の世界じゃ誰でも持ってたで…ん?」
「ちょっとまて、前のって…」
「黙って」
丁度話題にしていた魔導具に通信が入った。
『…本当にこれで繋がっているのか?』
「繋がってるよ」
『お、おお。今どこにおる?』
「マルセアだけどなんかあった?」
『ああ。フェリレアス聖国から使者が来た。魔王軍に動きがあったらしい』
「そう。正直微妙な気もするけど、何とかなるかな」
『何を言う。オリバー相手に危なげなく勝利出来る程に鍛えられていたでは無いか』
「そのレベルで何とかなるなら、勇者居なくても総力戦で何とかなるでしょ?それでどの辺なの?」
国王から場所を聞き、出発の準備を整える。とは言え、いつも通り馬車をスレイプニルに引かせるだけなんだけど。あとは勇者を戦場に放り込むだけだ。弟子同様たまに外に連れ出して、レベル上げもしてるし何とかなるだろう。




