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風紀の悪魔(仮)  作者:
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北校舎2階空き教室

委員会が行われる教室は、各委員会によって違う。我らが風紀委員会はこの廊下の突き当たりで行われるようだ。まだ教室が解錠されていないのか、十人程度がその教室前に集まっている。なぜか女生徒しかいないが、彼らも風紀委員に推薦された、いや、押し付けられたのだろうか。男が居ないことに、小学生レベルの少々の高揚と、今後を考えて、どうせろくな事が無いだろうという杞憂を覚えた。遅刻を免れたことに安堵して、自分もその集団に少し離れて紛れようと右足を踏み出しかけたが、集団の中から金髪が見えたと同時に、踏み込もうとする右足の膝が伸びるのを拒み、前進しようとする体にブレーキをかけた。上半身の推進力を殺すために、勢いよく廊下を踏み付けた靴裏から出たその音は、恐らく金髪までの距離約20メートル先に届いただろう。金髪が振り返って目が合い、慌てて目を逸らしてこちらは気づいていない風を装う。こちらが先に気付いていたのが知られるのは、どうも気に食わないという青臭い理由でなく、単純明快に、己が生命の危機を感じたからである。きっと、小動物が森の中で虎とかに鉢合わせしたら、同じように目を逸らすくらいしか出来ないだろう。しかし虎は小動物でも構わず狩るようで、肩を叩かれる感覚が、全身を電撃のように走った。恐らく脊髄で反射したであろう速度で首を振り返り、右手で拳を作ると、頬に正に刺されるような痛みが走った。思わずひるんで、拳をほどいて頬を抑える。


「っつぅ……!」という、舌打ちが混じったような苦痛の声が漏れた。


「え!? あぁ、ごめん! そんなに勢いよくこっち向くなんて思わなかったんだ……大丈夫か?」


数少ない聞き覚えのある声の中でも、すぐに判断できるこの声は、惹鶴だ。どうやら頬を指したのは彼女の人差し指のようで、落ち着いて冷静になると頬の痛みも大した事が無く、強がるように「大丈夫、大丈夫」と答えた。無理やり作った、引きつった笑顔になっているのが自分でも分かった。相手と気まずくなる前に、会釈をしてしまうのと同類の悪い癖である。そんなことは気にもとめないように、惹鶴は「良かったぁ」と、俺よりかなり上手な笑顔で返した。


「それより……なんで先についてるんだ? 気付いたらいないし迷子になってると思って探したんだぞ!」


「あぁ、悪い。」いや、悪くない。とっさに謝ってしまったが、走って置いていったのは間違いなくコイツの方だ。そう思ったが、訂正するのも面倒だし、心配もかけたようなので、流してしまった。ふと、渡り廊下で、上から惹鶴が何者かに追われていたのを見た事を思い出した。


「そういえばお前、誰かに追いかけられてたよな?」惹鶴の瞳孔が大きく開く。


「そう、そうなんだ!かずとだと思ってたら知らない奴で……


途中で惹鶴は口を閉じてしまった。さっきまでこちらを見て話していたのに、視線がズレて自分の背後を見ているように思えた。背中に注意なんて、現代では滅多に使わない言葉だろうが、今日ほどありがたく感じる日は無いだろう。半ば抵抗を諦めて振り返ると、金髪が仁王立ちでこちらを睨んでいた。


「数分前に言ったことを覚えていますか?」


「……刺さないで貰えますか。」


「刺すってなんだ!? 何をだ!?」惹鶴が取り乱している。会話の内容が突飛なので無理もないだろう。しかし金髪は、説明するわけでもなく話を切り出した。


「ルカには手を出すなと言ったはずです。頭より下心の方が強いんですか?」


「別に彼女を追ってここに来たんじゃないです。」


「じゃあなんで!」と食い気味で問われる。


「委員会なんです。」


「保健委員なら向こうの校舎よ。」なぜ保健委員にした、別に保健委員は下心ないだろ! と思わず心中でツッコんだ。


「風紀委員です。ちょうどそこの教室で……」と言いながら金髪の表情が変わっていくのが分かった。


「そう……あなたが……」俺を知っているのか? この俺を? この学校で接点を持つ人間は惹鶴と担任くらいなはずだが。


「かずと、知り合いなのか?」惹鶴がようやく会話に入れるようになったのを察したのか、金髪を見ながら袖を握って尋ねてきた。単に不安なのだろうが、止めろ、離せ、見られてるだろう。金髪の表情が再び曇ってきた。見られるのは恥ずかしい、頼ってくれているのが嬉しい、応えられないのがもどかしい、今の自分が気持ち悪い。一度に複数の感情が胸中で混ざり合い、我が表情筋もどんな顔をすればいいかも分からないようで、惹鶴を見れる訳もなく、金髪を見るでもなく、委員会の教室に目をやった。すると黒い何かが、視界に飛び込んできて、駆けて惹鶴の方へ近づいてきた。


「あぁ、かずと! あいつだ! あいつがさっきから追いかけてくるんだよ!」と惹鶴は俺の背に隠れた。言っていることを理解してから、どうすればいいかも分からずに、とにかく止めなければいけないと思った時にはすでに、黒髪ロングは惹鶴の袖を握っていない方の手を両手で握って、微笑みながらこう言っていた。


「委員会は北校舎2階の空き教室です。」その俊敏さや、とって食おうとするような行動からは想像出来ないほどの、内容と細々とした小さな声だった。俺はこの声と内容を全く同じように聞いた事がある。俺がここの廊下までたどりつけたのはこの人に案内されたからだ。惹鶴を追いかけ回していた黒髪ロングの正体が、この人だったのは今知ったが。


「委員長! もう皆揃ってますよ!」と金髪が突き当たりの教室を指さした。


「え?」惹鶴と声が被った。黒髪ロングは、委員長へと変身を遂げた。

書く度に、以前の文を編集してたりするので、内容に辻褄が合わないなと思われるところがございましたら、一度1話目に戻って見直して頂けると、話が通ると思います。

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