目覚めの前 2
「なんだかんだ言って連れて行ってくれる鵬さん素敵」
「お前が大人しくしないからだ」
負けてしまいました
だって道の真ん中で土下座しだして、あげくの果てに、これが誠意ですとかいってさ
逆立ちして腕立て伏せし始めたんだよ
どうしろっていうんだ?連れて行くしかないだろう。
「もうすぐ着くぞ」
こいつと一緒に歩き出してから5分ほどたった。
苦痛でしかなかったんだが、ずっとしゃべりかけられていたので
話題には困らなかった。
おもにおれのどこがかっこいいやら、仕草がやばいやら、変態チックなのは黙っておくが。
「鵬さんの家~、楽しみだなあ」
「何が楽しみなんだか」
はぁ、とため息をついていた下を向いていたので前に人がいるのに気付かなかった。
「あ、すみません」
「いえいえ、お気になさらず」
「ぼーっとしてる鵬さんも素敵」
「何言ってんだこいつ」
急に前の人が立ち止まってこちらを向いて言った。
「もしかして、あなたは美月さんのとこのお子さん?」
こいつはやばい。
見る限り怪しい、怪しすぎる。
なんたって、身長が180近くもあり、全身黒尽くしのコートを着て
なおかつ、フードまでかっぶってやがる。
ここは何とかごまかして乗り切るか。
「いえ、違いますがどちら様ですか?」
「…まあいいよ。
そこの御嬢さん、横の彼氏の名前、なんていうんだい?」
「やだ、もう、彼氏だなんて、美月鵬に決まってるじゃないですか~」
即答かよ、もうやだこいつ。
ていうか、こいつの声がなんか変だ。
変声期みたいな変な声ではないんだが、男か女か見当がつきにくい声をしている。
しかも顔が見えない。
170㎝ちょっとのおれが、180近くあるやつを見上げているというのに
はっきりと顔が見えない。
「同姓同名でしょう、よくあることです」
「え!そんな頻繁にあるの!!」
もう黙って。
「その子の言う通り、そうそうあるものじゃないよね」
くそ、どうする、どうするおれ!
ライフカードも続きそうにないぞ。
「まあ仮にあなたが探している本人だったとしましょう、それで何の用ですか?」
「ああ、そうだね。それを先に話しておくべきだったね」
「そんなに警戒しないで落ち着いて話を聞いてほしい。
一度君の家に行ったんだが、想像以上に手強くてね」
「全然関係ない話をしないでください」
「いや、なに、謝ろうと思ってね」
一度家に...まさか
いや、でも連絡が来ているそれはない
「連絡が来ているから大丈夫とか思ってる?
まあ連絡したのは私だからねぇ」
そう言ってスマホをおれの前にチラつかせた
「えっ、それ母さん...の?」
「大当たりだよ、だから謝るって
ごめんね、君のお母さん
殺しちゃった」
こいつは一体何を言ってるんだ?
母さんを殺した?
なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
「なんで殺した!!」
おれは胸ぐらをつかんで叫んだ。
「抵抗してきたからだよ、普段は眠らすだけ」
「黙れ!」
おれは思いっきりそいつの顔面を殴った。
グシャリ
「は?え?」
殴ったほうの手が砕けた。
正確にはすべての指が曲がってはいけない方向へと曲がっていた。
「ああ、すごいことになってるねぇ」
表情は見えないが、ひどく楽しそうな声でにやけているように感じた。
ああ、もう目がかすんでいく。
最悪だ。
母さんを殺したやつを殴れもできないなんて。
くそっ、もう無理...
だ
急に視界が歪んだ
なんだ死ぬのかおれ
「...こうで.....から....きて...ってる」
誰だよ。
そこで意識が途切れた。