会議2
そして現在ホウは隅っこで2人を見ている。
「いったいどうやってここまで入ってきたのかしら。教えてもらっていいかしら」
「普通に門から入ってきたに決まってるじゃない」
サリアンは深いため息をついた。
「あの門兵2人はクビかしら…」
「いやいや、それはやめてあげて。可哀想すぎるわ」
ルイリがあたふたしながら兵士2人を庇った。
私のせいでクビって気分が悪いからほんとにやめてほしいわ。
「っていうか、あなた私を見て特に驚かないのね」
「そうだ!おれなんて見た瞬間何がなんだかわからないぐらいの筋肉で、もうどう例えてもゴリラにしかならないだろうって言ったら」
ホウが壁にめり込んだ。
ルイリが横からホウを押しただけなのだが、めり込んだ。
「なんでホウが答えてんのよ。殴るわよ」
「もうっ、なぐ っ てる」
「殴ってないわよ、押したのよ」
「たし…か…に」
ホウはめり込んだまま意識を失った。
「えっと、なんで驚かないかって聞いてるのよね。理由は簡単よ。あなたがどんな魔法を使って、いまから何をしようとしてるか知ってるからよ」
サリアンはさも当たり前かのように淡々と話し始めた。
「え、ほんと」
まさか知ってるって言うの。
知っていたら確実にやばいじゃない!
「えぇ、本当よ。そんな綺麗な顔立ちで体が…そうね…えっと…そう!非常に鍛えられた状態にあればなんとなくわかるわよ。ほら昔話に出てくる『南の男』。あれも顔と体が不釣り合いだったって言う話もあるのよ」
「不釣り合いだからって私が『南の男』と同じと断定するのは軽率すぎない?」
「もちろんそんな昔話だけで判断するわけないわ」
ルイリの体を舐め回すように見て続けた。
「私は見抜けるのよ、色々とね。伊達にここに座り続けてないわよ。だからあなたのその身体にどれだけの蓄えがあるかも大体わかっている」
サリアンが急に殺気を放ち始めたので、ルイリは身構えた。
「優しくいってる風に感じるのにすごい殺気を込めてくるのね」
「殺気、ねぇ。」
サリアンが喋りながら、一歩。
「そんなつもり」
また一歩と詰めていく。
ルイリは戦闘態勢に入った。
私の間合いに入ったら速攻でかたをつける。
「ないわよ」
さらに一歩。
もう、あと一歩で私の間合いだ。
ルイリが握った拳に力を入れた瞬間、パンっと、サリアンが手を叩いた。
「そう、そんなつもりないのよ」
サリアンがくるっと逆を向いて扉に向かって歩き始めた。流石に訳がわからなかったのか。
「何がしたいのよ!」
ルイリはそう言った。
「そのまんまよ。現状あの人は自分のことさえもわからず、こちらのことに関する知識もない。だけど魔法が効かない何かがある。要するに分からないことだらけすぎてどうしよもないのよ。それに」
「それに、なに?」
「私、多分あなたと戦っても負けると思うわ」
ルイリは唖然とした。
あれだけ殺気を放てる物がなぜそんな弱気な発言をしているか一切わからない。
あのまま戦っていれば負けていたのは私の方だとしか思えない。
「という訳だからひとまずあの人を連れて帰ってね」
「あなたは私を、私たちを見逃すっていうの?」
「んー、それは少し…」
サリアンは顎に手を置き、少し考え
「違うわね」
ルイリの背後でそう言った。
私は断じて瞬きはしていなかった。
気付いたら後ろに回られていた。
ルイリは前を見ながら、後ろにいるサリアンに向かって聞いた。
「違うってどういうこと」
「見逃す訳じゃないわ。さっきも言ったでしょ?ひとまずよ、ひとまず。ここからは何の問題もなく出られるようにしてあげる。ここで起こったことも一切なし。ただし、定期的にあの人の事を報告してくれればいい」
「それだとあなたにとって何の得もないように思うんだけど」
サリアンは笑った。
ルイリの言ってる事がおかしいのかしばらくクスクスと笑っていた。
「そうね、私に得なんてないわ。でもいいのよ。基本的に私、損得感情で動いたことないもの」
「じゃあ一体何で動いてるの」
「今回は私の第六感のみで決めたわ。いわゆる女の勘ね」
ルイリはそれを聞いて力が抜けた。
「わかったわ。また適当に連絡するようにする。これでいい?」
「ええ、もちろん」
ルイリの横を歩いて扉に向かっていく。
「これからもよろしくね」
そのまま部屋を出てサリアンが顔だけ扉の間から出して去り際にそう言った。
ルイリは深いため息をついた。
何とかやりきれてよかった。あのまま戦うことになっていたら、いやもう考えるのはやめましょう。すぎたことだし。あの人はこのまま何事もなくここを出れるようにすると言っていた。それが何時まで効力を持つかわからない。はやくホウを連れてここから出なくちゃ。
「ホウ、帰るわよ」
めり込んだまま動かない。
「ああそういえば突き飛ばしたんだったかしら。私がやったことだし私が悪いんだけど」
言わなくていいことを言ったのはホウだし少し雑に連れて行こうとルイリは思った。