会議2
「それでリュウは何で魔法が効かなかったと思うの」
「何やろ。別段そいつが強いってわけでもないみたいやし、うちの魔法が効かん何かしらのもんでも持ってたかやな」
「しょこの隅の方で倒れてる人らろ〜?起こして聞いた方が早いんじゃライの?」
マナリックはどこから取り出したのか酒瓶をあけホウに千鳥足で近づいていった。
こいつぶっかける気じゃ…と誰しもが思い、止めようとヴァンが口を開いた。
「やめんか。床が汚れるじゃろうが」
そう言われたマナリックはキョトンとした顔をして、不思議そうに答えた。
「そんなもったいらいことするわけらいだろ〜。こうやって、口を開けて…。飲ませる〜」
「飲ませんのかい!そんなんで起きんのかいな」
マナリックはホウに近づき、しゃがみ込むとホウの口に手を突っ込み強引に開いた。
そして酒瓶を口に押し込んだ。
「あ、久しぶりだね!今日は頭グワングワンしないの?」
「いやあ、いつもそんな感じだったら疲れてしまうよ。君は元気かい?」
「元気だよ!だからこうして遊んでいるんだよ」
「それはよかった。ところでお母さんは来ていないのかい」
「来てるけど…あれ、いないや」
「あらら、君をひとりにするなんて無用心だね」
「ブヨウジン?」
「まあ気にすることはないよ、ほら遊んでおいで」
不思議な人はそう言って少年を押した。
「うん!またお話ししようね」
「ゔぇっ、ごほっ、ゔぉぇ」
横から溢れ出ているのにまだ酒瓶は押し込まれたままで、それを見かねたサリアンが急いで酒瓶をマナリックから強引に引き離した。
「もう!やりすぎよ。死んじゃったらどうするの?」
サリアンは急いでホウを横に向け気道を確保した。
「これくらいで死ぬわけないら〜」
引き離された衝撃で壁まで飛んでいったマナリックは頭を押さえながら酒瓶に向かっていった。
「大丈夫?ホウさん、聞こえます?」
ホウの頬をペチペチと叩きながら繰り返し優しく問いかけている。
5回目ぐらいでホウは気がついた。
「あれ、ここは…さっきのは夢」
「あぁ、よかった。やっと目を覚ましましたね。心配しましたよ」
「それは一体どういう事ですか」
ホウは今自分が置かれている状況がいまいちわからず、周りを見渡した。
部屋全体はかなり広く、一般的な体育館ぐらいの広さがある。その真ん中に楕円形のテーブルが置かれており、椅子が人数分(もちろんホウの分はないが)ある。テーブルには控えめな装飾があり、至ってシンプルなものになっている。椅子は逆に色鮮やかになっており、各々が座る席が決まっているかのように全て色が違っていた。今方ホウがいる位置は部屋の入り口付近の右壁辺り。近くにはサリアン。右奥の壁には亀裂が走っておりその下にマナリックがちょうど酒瓶を持つところであった。
「普通に床、汚れてるじゃろう。何が大丈夫じゃ、全く」
一番歳をとっていそうなお爺さんが口を開いて、頭をかきながら言って、立ち上がりホウの近くへと来た。ホウの目の前でしゃがみ込んで頭を掴んだ。
「ちょいと失礼するぞ、我慢じゃ」
ヴァンの手の周りに電気がバチバチと出たかと思うと、ホウが急に叫び始めた。
「っっっっっむっ!あっ、、あぁっあ!!」
謎のお爺さんが頭に手を乗せた途端、頭が割れそうな痛みが走った。
「っっっっっむっ!あっ、、あぁっあ!!」
このじじい!お爺さんから降格だ!一体何してくれてるんだぁぁ頭が!頭がぁ!ぐちゃぐちゃ、乱れる!乱れる!ミキサー、かき混ぜ、あたま、のう、はく、し ぬ
「うむ。おかしいのお」
ヴァンはホウの頭から手をのけて不思議そうな顔をした。
「あれ、もしかせんでも通じんかったんちゃうん?」
リュウはすこし上擦った声で、笑顔を絶やさずヴァンに嬉しそうに聞いた。
どうやら自分にだけ魔法が効かなかったわけじゃ無いとわかり、嬉しく思ったのだろう。
これでもかと嬉しそうである。
ヴァンはそんなリュウを見ながらため息をつき、なにも言わずに座っていた席へと戻っていった。
「一体、うぉぇっ。おれが何をしたって言うんだ」
強烈な吐き気と頭痛の中、声を絞り出して全員に問いただした。
「何をしたって言うたら、怪しいから。ただそれだけやで」
淡々と答えるハンジュは虫を見るような目で見た。
「あと、ハンジュのことカスや!って言うたからちゃうん」
「それは関係ないやろが、あほか」
間髪入れず反論を挟み、カスといったリュウを睨みつける。上を向きながら口笛を吹いている顔が余計腹を立てるよう仕向けているようだ。ハンジュは深いため息をつき、再びホウの方へと目線を戻した。
「目も覚めたんやし、聞きたいこと聞いてくで。まずおれからや」
話を始め出したハンジュが切り出したがそれをサリアンがハンジュの前に手を出して制した。
「話を止めて悪いのだけど、私からでいいかしら?ハンジュさん、あなたは一番最後に聞いてくれる」
一瞬怒りの形相になったが、頭をボリボリとかき、お好きにどうぞと言わんばかりに手をひらひらと振った。
「ありがとう、じゃあ私からね。あなたはどこ出身なの」
ホウは答えられなかった。どこからどう来たか一切わからなかったからだ。
「いや、えっと、それがわからないんです」
「あら、そうなの。ヴァンさんあなた見たんでしょう?」
わからないと聞くとすぐにヴァンに話を聞いたが、ヴァンは何もわからんかったよと呟いただけだった。
「不思議ね、そんなこともあるのね。じゃあ次の人どうぞ」
どうやら一人ひとつの質問をするみたいだ。
「じゃあ」「こんどは」「ぼく」「たちで」
キコ、ニコが元気よく手をあげて喋り出した。
「ヴァンさんの」「魔法が」「効かなかった」「みたいだけど」「一体何を」「つかったの」
交互に喋るため、聞き取りにくそうだが途中から慣れてきたのかすんなり入ってくるようになった。
「それは、そもそも何がなんだかわからなくて。ここはどこ、私は誰って感じでして」
「ヴァンさん」「そう」「なの」
またしてもヴァンに話が振られたが、ヴァンは知らんと一言言うだけだった。
「わしは別に何も言うことはないわい」
「じ〜さんに同意、、、、れる!」
すぐにマナリックが割り込んできた。
はなからお酒ばかりでこの会議、対談自体どうでもいいといった雰囲気である。
「では、私が」
スルフが座席を立ちホウに近づいていった。
その足取りがとても力強く、とても、力強くきたため、ホウは後退り、壁まで下がってしまった。
「あなたに聞きたいことは、これといってありませんが。これだけは言わせてもらいます。消え失せろ、クズ」
途中まで真顔で話していた、いやそれでも十分怖い顔だったのだが、最後の二言はこれでもかと感情を込めて言われたかのようだ。
「え」
これにはホウも何もいえずただ呆然としていた。
「はいはーい、あたしのばんや。なんであたしの魔法見破れたん?それがずっと気になってな。おしえてーや」
身を乗り出して聞くリュウは子どものようだった。
「さっきも言ったように何もわからないんですって」
困惑しながらそう答えたら、またしてもヴァンの方を見て、そうなんと聞く。
知らん言うとるじゃろと少し怒り気味に返した。もう知らんと座席を反対に向けて皆んなに背を向けた。
「やっとおれの番か、待ちくたびれたわ。おれが聞きたいんはなんで避けれたか、や」
「避けれた、とはなんのことでしょう」
「とぼけんなや」
言い終えると同時にハンジュはホウに向かって殴りかかった。ホウは咄嗟のことに何も出来ず硬直していた。
ホウに当たる直前で横から手が伸びてきてハンジュの拳を止めた。
「ハンジュさん、少し前にも言ったわよね。暴力はダメって」
ハンジュの手から骨が軋む音が聞こえてきた。
「…ちっ、しらけた。帰るわ」
サリアンの手をほどきハンジュは部屋を後にした。
サリアンは不思議に思った。
ハンジュヶがさっきいった通りだと、ホウはハンジュの攻撃を避けれたことになる。
でも今のは、私が止めなければ確実に当たっていた。
ハンジュが手加減していたから避けれたのか、手加減するような人ではないと思うし。
本当にホウ本人は何も知らないようですし少し様子を見る必要がありそうね。