探し物
夕方になっても戻ってこないホウを心配して私は短剣を持って家を出た。
家を出て数分歩くとホウが行ったであろう出店が並んでるようなところへと着いた。
「おお!!ルイリさんじゃないですか!」
「そ、そのサインを、、くれまてんか!」
「ルイリ腕相撲で勝負だ。今度こそ負けんぞ!」
次々にいろんな人から声をかけられついにはルイリを中心に人が集まりだした。
流石にこれには困ったので少し大きい声を出すことにした。
「ちょ、ちょっと!この辺りにホウっていう髪が黒い男の子がこなかった?」
静まり返る人たち、ボソボソ声が聞こえるぐらいで誰も知らないみたい。
「ごめんね、今その黒い髪の男の子を探している最中なの。だからまた後でね」
変なことに巻き込まれてなければいいけど…
まあそれはないかな!時間を忘れてぶらぶらしてるだけでしょ!うん。
自分に言い聞かせ少し強化魔法を発動させ上へと飛んだ。
そう、飛んだのだ。脚力を強化し、上へジャンプしただけ。
それだけのことのはずなのにルイリは一瞬にして人々の前から姿を消した。
「んんー。一体ホウはどこにいるのよ」
上空1300m付近でルイリは浮いていた。
いや浮いているのではなく、放物線を描きながらゆっくりと落ちて行こうと、今まさにしている状態である。
「少し目が疲れるけど仕方ないか…」
ルイリの目が青色から赤紫のような禍々しい色に変わった。
説明しなくてもわかるだろうが、目を強化したのである。
一般的に目を強化すると数キロ先まで見えることが可能と言われている。
だがそれはあくまでも一般的であって、強化属性を持つ者の話ではない。
「ああー、そろそろ落ちて行っちゃうのに。もう、どこにいるの」
ルイリの跳躍をもってしても精々数十秒ぐらいしか上空にいることができない。
「まだ意外と近くにいるのかな」
ボソっと呟きながら徐々に落下して行った。
もちろん落下しているのでかなりの速度で加速している。
一番高い木に当たろうとした瞬間ルイリはてっぺんを手で掴み、さながらテナガザルのように手を交互に動かし一つも体を汚すことなく地面に降りた。
「でも魔法も何も使えないはずなのに、一体どこに行ったのかしら」
「おっ!ルイリさんじゃないか!」
「あら、グルちゃんじゃない!」
「いや、ちゃん付けはもうやめてくれよ。もういい年したおっさんだぜ」
「ふふふ、あの時私に負けちゃったからじゃないの?」
「もう掘り返さないでくれ、黒歴史なんだぜ、それ」
「また話は今度にしましょ。今人を探してるんだけど知ってる?」
「おお、ルイリさんが人を!これか?」
小指を立ててニヤけて、まるで中学生のようなからかい方をしているグル・バーンを見て腹が立ったのか、ルイリは無視をして続けた。
「その人、なんか色々黒い人なんだけど見てない?」
「色々黒い人…。ああ!思い出した。ピュンチュラの一物を渡したぜ!」
「なんでそんな物渡してるのよ…。でもよかったわ。これで見つけられる」
ルイリは今度は鼻を強化した。
だが、強化した瞬間顔を歪めた。
「ちょっと、グルちゃん。あなたすごく臭いんだけど。」
そう、鼻を強化するとまあ色々、周囲の匂いを色々。
嗅ぎたくなくても自然と鼻の奥に入ってきてしまうのである。
「ああ、すまんな。ピュンチュラを狩ってきたからな。色々浴びちまったのさ」
最悪、と心底嫌そうな顔をして吐き捨てるように言葉を残してグル・バーンの視界からルイリは消えた。
「なんでグルちゃんはホウにピュンチュラなんか渡してるのよ。あんなグロテスクな見たくも出会いたくもない物」
説明しておこう。
ピュンチュラとは、蛇のような体をしていて顔は金魚のような魚類の顔をしている。
基本的に塒を巻いて静かに寝ているのだが、餌を見つけると蛇のように這ってくるのではなく手足がぬめりと生えてきて全速力でダッシュで追いかけてくるのである。手はどうなっているのかというと、生えてきた時、なぜか手だけが骨まで形成されないため、軟体生物さながらのだらりとした手になっているため、めちゃくちゃ気持ち悪いのである。
だが調理次第ではかなり美味でとてもいい香りとなり、一部の人にはかなり人気である。
だからルイリは匂いで追うことにしたのである。
まだまだ謎の行動があるらしいがここでわざわざ説明する必要はないだろう。
ルイリは道無き道をいわゆる獣道のようなところをかなりの早さで走っていく。
所々で危険生物の匂いを嗅ぎ取り、遭遇しないように迂回したり木の上を通り、それでも最短ルートを選択しながら匂いを辿っていく。
約2キロほど進んだ頃、ルイリは複数の匂いを捉えた。
一つはホウらしき匂い、あと二つは匂いと呼べるのかわからないが無臭に近いが何かしらの匂いを発していた。
ここまできて微かな匂いしか嗅ぎ取れなかったルイリは焦った。
もうホウは何者かに連れて行かれた可能性が高い。
それもかなりのスピードで。
「一体何をしでかしたのよ」
悪態をつきながらもスピードを上げていった。