第六話
「松島基地の面々がそろっとるんはええけど、実際のところ、ここはどのへんなんやろな」
飛びながら下を見る。普段と飛行高度の違いはあるが、見渡す限り草原だ。川や小さめの池っぽい存在は認められたが海はない。この地形からすると、松島基地がある東松島市ではなさそうだ。
「海は見えませんから内陸部なんですかね」
「隊長が見てた映画てなんやったっけ? 冒険モノやっけ?」
「ファンタジー系の冒険モノですね。ロケは自然の多い広い海外でやったという話でしたけど」
「てことは日本でもないわけやな。田んぼ、大丈夫なんやろか。米、ここで育つやろか?」
ワンチャン北海道の可能性も考えたがどうも違うらしい。
「大丈夫じゃなかったら、隊長にお願いして巨大ドームを作ってもらうとか?」
「オール君、なんや班長と思考が似てきたんちゃう?」
「あー……それ、耕運機の写真を送った時、隊長にも言われました」
「せやろ~~」
そして俺達は飛行訓練に入ったわけだが、今回は前回と違って色々と発見があった。ドラゴンたちはそこまで早く飛べない。逆さまになって飛ぶのは得意でない。あと、あまり無理をさせると文句を言い出し鼻から火を噴くヤツが出る、などなど。やはりそこは生き物だってことらしい。
飛行訓練を一通りして地上に降りる。ブルーのアクロが全てできるわけではないことが判明して、隊長は少しばかりご機嫌ななめだ。
「フェニックスループができるんやし、合格点なんちゃいますのん。それ以上ハードにすると鼻から火を出すんはしゃーないですやん。あ、この場合、フェニックスループやのうてドラゴンループて言わなあかんのかな」
ちなみに五番機君と六番機君はデュアルソロ課目をすべてクリアーした。ドラゴンによって飛行能力には個体差があるようで、そのへんも生き物ならではの現象だ。
「可能なら五番機君と一番機君を交代させてもええんやけど」
俺がそう言ったとたん、五番機君が鼻から火をチョロチョロと出しながら不満げな声をあげた。
「イヤやゆーてるんでしゃーないですわ」
「おーい」
そんなことを話していると青井が手を振りながらやってきた。
「影山、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
「なんや?」
「ここに植える米なんだけど、どこの品種が良いと思う? 炊く時は同じ場所の米と水が良いんだよな?」
青井の質問に首をかしげてしまった。炊く場合はそうだが育てる場合はどうなんだ?
「わいは食べるのが専門やからなあ。そもそもここって隊長の夢の中やん? あまり品種は関係ない思うけど?」
「言われてみればそうだな。じゃあ沖田、質問なんだけど」
「俺は地元のブランド米なんて知らないからな」
質問の内容を察した隊長が先に答える。
「えー、知らないのかよ。だったらそこは宿題だな。目が覚めたら調べておいいてくれ」
「宿題……」
「隊長の地元の農協サイトで調べたら出てくるんちゃいます?」
「それぐらいなら青井でもできるじゃないか」
「俺はこっちでもあっちでも忙しいんだよ。それぐらいって言うならお前が調べろよ、ここはお前の夢なんだから」
隊長は大きなため息をつくと「調べておく」とだけ言った。どうやっても班長には口では勝てない。それは現実世界でも夢の世界でも同じのようだ。
「班長はこっちでもあっちでも変わらないですね」
葛城が感心したように言った。
「変わらなすぎてこっちが調子狂うわ。つか、こっちでのほうが生き生きしてへん?」
「それは確かに。まあ楽しいですけどね、ここ。さてと。俺も次の飛行訓練まで田んぼの手伝いしてきます」
葛城は六番機君をキーパー達に任せると、楽しそうな足取りで青井の後ろをついていく。
「班長もやけど、オール君もすっかりなじんでるやん」
ある意味その高い順応性はうらやましい。こっちはおっかなびっくりでドラゴンに乗っているというのに、葛城ときたらもうすっかりベテランのドルフィンならぬドラゴンライダーだ。田んぼづくりや米づくりにも積極的だし、もうちょっと手先が器用だったら、班長2号になれるのでは?と思わないでもない。
「やっぱり年も関係あるんやろか。班長は別格やとして」
葛城を見送ってから、五番機君の鞍をはずしている坂崎たちのところに戻った。
「五番機君の様子はどないや? 次も機嫌よう飛んでくれそうか?」
「大丈夫だと思いますよ。こいつ、誰かさんと違って飛ぶのが大好きみたいなんで」
坂崎がニヤニヤしながらこっちを見る。
「せやったら隊長付きのドラゴンになったほうがええんちゃうん? 隊長やったら休憩なしで一日中飛んでくれるで?」
だがその提案は気に食わないようで、鼻からチョロチョロと火を出しながらガウガウと声をあげた。
「五番機君はデュアルソロが飛びたいそうですよ」
「まったく。わいの周りは飛びたがりで困ったもんやで」
ま、ここは隊長の夢の中やし、しかたないのかもしれんけどな。




