第五話
「なんやめっちゃ人、増えとるやん」
再び草原の前に立つ。昨日より人が多い。見たところ全員が基地に所属する隊員だ。そしてその横にはトラクターが何台も並んでいる。
「田んぼを作るには人手が必要だからな。昨日のうちに声をかけておいたんだ」
青井がさも当然のように答えた。
「こうも都合よく夢の中にやってこれるて、隊長の夢どないなっとるんや」
「今夜は眉間にシワをよせて寝てるんじゃないかな、こいつ」
愉快そうに笑ってる青井の横で隊長がイヤそうな顔をする。
「ご苦労さんですわ隊長」
「まったくだ」
まさか隊長のことを不憫がる日がこようとは。
「ちゃんと耕運機も用意できたし、これはオール君のお手柄だな」
「良かったです、隊長がちゃんと記憶してくれて」
「どういうことなん?」
「スマホに何を送ってきたのかと思ったら、耕運機の写真だからな」
隊長がうんざりした口調でぼやく。
「オール君、やりすぎや……」
「班長命令だったので。田んぼを作るのって大変なんですよ。土づくりから始めるんだそうです」
「えらい詳しいやん」
「耕運機のメーカーさんのサイトに載ってました。スマホがつながるかどうか分からないので、とりあえずはメモにして班長に送ったんですけど」
「おかげでちゃんと持ってこれた! お前達が飛んでる間は、こっちはこっちで田んぼづくりだ」
いつものウエストポーチから折りたたまれたメモ書きを取り出す。
「なんや大変なことになってるやん。これ、安眠妨害ちゃうん?」
「そんなことないだろ。沖田、昨日は寝不足を感じたか?」
「いや、それはなかったが……」
「班長~~、水が引けそうな川、ありました~~」
「おう、ご苦労さん!」
坂崎が大型のオフロードタイプの四駆に乗って走ってきた。なんでそんなもんがあんねん!とツッコミを入れるのも馬鹿らしくなってくる。
「まったく好き放題やな、坂崎も」
「まあここは無駄に広いので、移動の足確保は重要ですよ。隊長、許可ありがとうございます」
「俺は許可した覚えはないんだがな。というか、話をされた覚えもないぞ」
つまりは総括班長の独断ということらしい。
「草刈りとかこの手の作業を得意とする隊員は多いから安心だ」
「どう安心なのかさっぱりやで。あ、それでドラゴンの航空灯はどないなん?」
「あれはまだ試作中。だからしばらくはナイトはお預けだ」
「ほな、おにぎりは昼間分だけでええんやな」
そう言ってからふと思い出した。
「あ、そや。昨日の夢の話したら、嫁ちゃんが夢に招待してほしいゆーてたわ。招待できるか知らんけど」
「うちもです」
葛城がうなづく。
「落ち着いたらな」
「どう落ち着いたらなんだ……」
青井の返答に隊長が空をあおいだ。
「そのうち、ドラゴンでのアクロを披露できるようになるだろ? そうなったら見物客がいたほうが楽しいじゃないか。その時には声をかけて招待すれば良いだろ? ああ航空祭を開催しても良いな」
「航空祭っておい青井、航空祭の来場人数わかって言ってるのか?」
「もちろんに決まってる。俺をなんだと思ってるんだ沖田」
最近の航空祭の来場数は十数万人、多い時は何十万人。それだけの人間が同じ夢を見ることなんて可能なんだろうか。さすがに隊長の頭がパンクするのでは?
「やってくる人間の夢スペース分も積まれてるから問題ないだろ」
「班長、アバウトすぎやで。隊長が熱出して寝込んでも知らんで」
「まあガンバレ、沖田!!」
俺の頭はパソコンのハードディスクじゃないんだがと隊長が呟いたが、そこは聞かなかったことにされたようだ。
「しかし田んぼの土づくりからて。こんなんやったら、隊長に無限おにぎり出現マシーンでも考えてもろうたほうが簡単やったんちゃうん」
「作れないことはないだろうけど、そんな便利な機械をつくっても面白くないだろ?」
「いやあ……どうなんやろ……」
「いつも世話になってるんだ。作る苦労を体験するのも良い機械じゃないか」
「そういう問題なん……?」
ぼやく俺達をよそに、田んぼ予定の場所を測量しはじめる隊員、耕運機に乗って運転を始める隊員、それぞれが青井の指示で作業を開始した。どうやらここでは青井が一番偉いようだ。
「じゃあ俺は田んぼ作業のほうを見るから、そっちはちゃんと飛行訓練を始めろよ?」
青井の言葉が合図だったのか、ドラゴンたちがどこからともなく飛んできた。こうなるともう突っ込む気にさえならない。
「班長はこっちの人間やろ?」
「あっちの責任者がまだ決まってないからな。それまでは忙しいんだよ。じゃあ任せたから、飛びたくないとか言ってないでちゃんと飛べよ?」
青井はそう言い残すと、田んぼ作業を開始した隊員達のもとへと足早に向かった。
「飛行訓練をしなければ青井達と一緒に田んぼの作業をすることになるんだ。どうせなら飛ぶほうが良いだろ。訓練を始めるぞ」
「隊長、切り替えはやっ」
とりあえず俺達は田んぼではなくドラゴンたちと飛ぶことになった。




