第三話
「たっか!」
鞍にまたがって下を見て思わず声が出る。
「なに言ってるんすか。普段もそのぐらいの高さでしょ」
坂崎が笑いながらこぶしで俺の足を叩いた。
「さすがにこんなむき出しの状態でこの高さは怖いで。しかもベルトは無しなん? こんなん、宙返りしたら落ちてまうやん?」
「ご安心ください。ちゃんと固定用ベルト装備の鞍です」
脚立で上ってきた坂崎が、鞍についていたベルトを引っ張り上げる。見た感じT-4についているようなものではなく革製のようだ。
「さすが隊長の夢!と言いたいところやけど、それ大丈夫なんか? 途中でプチッてならへん?」
「まあ隊長の夢なんで大丈夫だと思いますけど、なった時はなった時ですよ。その時は五番機君の出番です」
「は?」
五番機君がこっちを向いてガウガウと言った。
「鞍から落ちても、地面に落ちる前にキャッチするから心配するな、だそうです」
「ほんまかいなぁ……」
「ま、大丈夫だと思いますよ。なにせ隊長の夢ですし、最終手段として地面に落ちる直前に目が覚める安全装置つきかも」
そんなことを言われても、あえて落ちる気にはなれない。ここは隊長がベルトの頑丈さを考えてくれていると祈るしかなさそうだ。
「あ、これゴーグルです。これがないと風圧で目があけられないので。ではご安全に!」
ベルトの装着具合を確認した坂崎はゴーグルを俺に押しつけると脚立からおり、それを担いで離れていく。
「ドラゴンがいて脚立がある夢てどないやねん。しかも滑走路やのうて野っぱらやし」
そんな俺のぼやきをよそに、ドラゴンたちは普段通りという具合に軽く羽ばたきながら縦一列に並んだ。どうやらここでは一頭ずつ離陸するらしい。
「は~~、夢の中でまでなんで飛ばなあかんねんしかもドラゴンやて。ほんま飛びたないで」
ため息をつきながらゴーグルを装着すると、五番機君が俺の言葉に反応してガウガウと声をあげた。
「なにゆーてるか分からへんけど、わいは黙らへんからな。せやから我慢しておとなしゅう飛びや。火ぃはなし! 焼きおにぎりは堪忍やで!」
首をポンポンと叩くと鼻からチョロッと火を吐いて前を向く。そうこうしている間に一番機君が軽く助走をつけて飛び立った。滑走距離はほぼゼロに近い。
「なるほど、短距離で離陸するんはライトニング君なみやな」
一番機君に続いて次々とドラゴンが飛び立ち、五番機君も空にあがった。
「おおおお、これはなかなか~~」
あっという間に地面が遠くなる。羽ばたいているのでそれなりの揺れはあるが、飛んでいるという実感が普段以上に感じられた。
「これはなかなかおもろいかもしれんな。飛びたないけど」
「めちゃくちゃ楽しいですね、影山さん!」
横に並んだ葛城がニコニコしながら声をかけてくる。
「ちょっとお互いの声が聴こえにくいのが玉にキズやけどな! 隊長のタイミングの声が聴こえへんと、アクロするの難しいんちゃうん?」
「それは確かに! しかも俺達は初めてですし!」
それは夢の配信元の隊長も同様だったようで、一回目のフライト(?)では編隊飛行のみの飛行となった。さすがに夢だったとしても、いきなりドラゴンで普段のアクロはできそうにない。編隊飛行ができただけでもほめてほしいぐらいだ。
「隊長、俺、ワンタイムアクロを自分にリクエストします!」
だが怖いもの知らずな葛城は違ったようで、最後の最後に自分でワンタイムアクロを宣言すると、隊長の了解を待たずにドラゴン版スローロールをしてみせた。
「ちょいオール君や! 無茶しすぎちゃうん?!」
「どうしてもやってみたくて! 意外とちゃんとできてますよね! 偉いぞ、六番機君!」
楽しそうに笑いながら六番機君をほめている。その誉め言葉に六番機君も嬉しそうに吠えた。
「あー……これは次のフライトからはヤバいんちゃうん?」
なにせ今のブルーは隊長を筆頭に負けず嫌いが多い。一番若いオール君のこんな姿を見せられたら、負けず嫌い精神に火がつくのは間違いなかった。次のフライトからは大変なことになりそうだ。
「わいには火ぃつかへんけどな……て、五番機君! 鼻息あらすぎや! 火が出とるで!!」
五番機の場合は俺よりもドラゴンのほうに火がつきそうだ。イヤな予感しかしない。
「鼻から火はあかんゆーてるやん! 他の子みてみい? ちゃんとや行儀ようしてるやろ?」
だが五番機君は不満げに首を振るばかりだ。この様子だと大人しく着陸してくれそうにない。さてはてどうしたものか。
「まったくもーどないせえっちゅうねん! 隊長~~! なんや知らんけど五番機君ワンタイムアクロせなあかんみたいなんで~~!」
隊長の了解の手が上がった。
「ほな五番機君、何をしたいんや?」
五番機君は元気よく吠えるといきなり急上昇を始める。こ、これは~~!!
「バーティカル・クライム・ロールをいきなしすなぁぁぁぁぁ!!」
なんちゅードラゴンやねん!!




