第二話
「……なあ、これ、どう見ても鞍やんな」
いつもの飛行前点検をするためにドラゴンに近づくと、背中に馬がよく背負っている鞍のようなものが乗っている。違いは馬の鞍よりも、ずっと頑丈そうだということぐらいだ。
「まあ乗るのがドラゴンですから、そうなりますよね」
「わい、自慢やないけど馬のったことないねん」
五番機ドラゴンがなにやら鼻息荒く俺のほうに顔を向けた。慌てて指をドラゴンの前で立てる。
「ちょい待ち! 火はあかんで? わいらが近くにおる時は、鼻から火は禁止!」
だがドラゴンは、そんな俺の言葉を無視してガウガウと小さく吠え続けた。
「なんや、なにが言いたいねん。日本語で話してもらわんと分からへんで?」
「馬と一緒にするなって怒ってるんだよ、そいつ」
青井が笑いながらやってくる。
「ちょっと班長。なんでこいつの言葉が分かるんや」
「え、分かるだろ? なあ?」
そう言ってキーパー達に声をかけた。
「まあ班長ほどではないかもしれませんが、言いたいことは分かりますね」
「たしかに馬と一緒にされるのは不本意みたいです。それははっきり分かりました」
「だろ? ほら影山、謝っておけよ? ヘソを曲げたままで飛ばれたら、お前、大変なことになるから」
「えぇぇぇ……」
もしかしてキーパー陣はこちらで特殊能力でも開花したんか?
「ほら、あっちはお前と違って、人の言葉が理解できるみたいだし」
「なんやその言い方やと、わいがアホな子みたいやん」
「少なくともドラゴンのほうが理解できる言語が影山より一つ多い。その分は間違いなく賢いんじゃないのか?」
「なんや納得でけへんわ。隊長~~? ドラゴンの言語が理解したいんですが~~?」
夢の配信元に何とかしてもらえないかと声をかける。
「無理だ」
あっさりと拒否された。どうやらキーパー限定のスキルらしい。
「夢なのになかなか不便やな。まあなんや、すまんかった。まだこっちに慣れてへんねん。かんべんしたってな?」
ドラゴンの首あたりをポンポンと叩きながら話しかける。するとドラゴンは大きな鼻息を一つはいて静かになった。どうやら通じたらしい。
「さてと。プリタクだけど、ライダーもキーパー達と一緒に前で確認だから。いつもと手順が違うから、そこは間違えないようにな!」
「班長なじみすぎやで」
普段と変わらない口調で指示を出す青井に関心すると言うかなんというか。いくら夢でも順応しすぎちゃう?
「おかげで俺達は助かってますけど」
「まあそうなんやけどな」
ドラゴンの前に立つと坂崎が横に立つ。
「どないすんの、これ」
「基本は同じみたいです。こっちが指示を出すと勝手にやってくれる分、ライダーは楽なんじゃないっすかね」
「ほーん……」
「ま、そのへんは隊長の夢なんで、俺にも細かいことはよく分からないっす」
「ならここでのわいは、見とけばええんやな」
「そういうことみたいっすね」
分かったような分からんような。とりあえずキーパー達に任せておくしかないようだ。
「はーい、では翼の確認でーす!」
坂崎が右の翼を指でさす。するとドラゴンは翼を上げて広げ羽ばたかせた。
「はい、オッケー! ではこっちの翼~~」
そして左の翼を同じように指でさすと、ドラゴンは同じように翼を広げてバサバサと動かす。
「おお。なんやプリタクっぽいで」
「はい、翼は異常なし! では次は尻尾~~」
両手を上に上げると、それに応えるように尻尾をピンと立てて振り回した。かなり太い尻尾で、当たったらかなりのダメージを食らいそうだ。後ろに行く時は気をつけなければ。
「尻尾も異常なし! では足も確認します。右足~~左足~~」
ドラゴンは坂崎の声に合わせて、左右の足をあげてピーンとのばしてみてる。
「ほんま賢い……」
「それに可愛いだろ?」
俺の横にきた青井が誇らしげに言った。
「葛城君もゆーとったけど、班長の可愛いの範囲、ちょっとおかしいで」
「そうか? 俺は可愛いと思うけどな」
「いやあ、どうなんそれ……火を吐くドラゴンを可愛い言うんは班長ぐらいやと思うわ」
そこは間違いないと思う。
「さて、どのドラゴンも問題なしだな。ライダーはそれぞれ乗ってくれ」
「乗ってくれて……わい、乗馬したことないし、こんなんどうしたらええんか分からへん」
手綱なんてどう扱えば良いのやら。動き出したとたんに落ちる気しかしない。
「心配するな! これは沖田の夢だから何とかなる。あいつが飛べない設定の夢を見ると思うか?」
「なんやムチャクチャな理屈やけど、説得力あるような気がするわ」
「だろ?」
「とは言え、やっぱり飛びたないで」
「なに言ってるんだ。おにぎり食べたんだから飛べよ。ほら、葛城君も普通に乗れてるだろ?」
おっかなびっくりという感じで鞍にまたがった葛城。思っていたより座り心地が良かったらしく、楽しそうな顔をしている。
「うらやましいで、そのオール君の順応力……」
早く隊長が起きてくれないものかと思いつつ、首を振りながら俺を待っている五番機君の横に立った。




