日向
第2話です。
ここでようやく主人公やその他の登場人物が現れます!
感想待ってます!
ではどうぞ!
「はあ、疲れたー」
盛大なため息をつきながら銀行から出て行く俺。
扉の前には、屈強な男二人組が延びている。
俺が銀行に入る際、生意気にも邪魔しようとしたので身の程を分からせてやった。
おそらく強盗が完了するまでの見張り役だったのだろうが相手が悪かったな。
不細工な面をさらして気絶する男達の顔に落書きでもしてやろうか、とも思ったが遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきたのでやめて立ち去る。
普通こういうときには事情説明をした方が良いのだろうが、そんなことは知ったことではない。
面倒ごとはやらない主義なのである。
まあ、何かあればあの窓口にいた美人のお姉さんがなんとかしてくれんだろ?
他力本願にもそんなことを考えていたのだが、ふと時計を見る。
俺は信じられず目をこすりこすりしてみたがやはり見間違いではない。
俺の額を一筋の汗が伝う。
冷えていく頭とは裏腹に熱く脈打つ心臓。
先ほどの戦闘ですら感じなかった焦りと恐れがにじみ出してくる。
やばいやばいやばいやばい。
「やべえー!」
叫びながら俺は全力で走り出したのだった。
校門を通ろうとしたときにある人物から声をかけられた。
「初日から遅刻とは良い度胸じゃねーか、うん?」
彼はこの帝都第一士官学校を代表する名物鬼教官「東条 連」教官。
教官は陸軍大佐も務めたことのある古強者である。
当然、彼の指導は苛烈を極めるそうで「教官は殺気だけで人を殺す」という噂がまことしやかに囁かれるほどだ。
――どんだけだよ・・・。
今も殺気をその鋼の肉体に纏わせ遅刻してきた俺を厚く歓迎してくれている。
俺死んじゃうのかな・・・?
こんなことなら強盗なんてほっといたらよかったー・・・。
後悔先に立たず、とはこのことか・・・。
だがしかし、後悔していても始まらない。
俺は今を生きている!
今を生きることに全力を尽くせ、俺!
自分を自分で奮い立たせ、なんとか許して貰えそうな言い訳を探す。
あ、そうか。そのまま、ありのままを伝えれば良いんじゃないか・・・?
しかしこんな突飛で現実離れした言い訳「ふざけてるのか!」と言われてもおかしくはない。
だが、物は試しだ!
そう思い、俺は勇気を出して事情を説明しだした。
「これこれこういうわけで、俺は銀行強盗を撃退し、そのせいで遅刻したんです。俺は何も悪くありません!」
精一杯真剣な声の調子と態度で伝えてみた。
自分でもありえないような言い訳だとわかっている。
けど「人の心というのは真心があれば必ず伝わります。」とある人が昔言っていた。
だとするならば俺のこの思いもちゃんと伝わるはず・・・。
お願い、届いて俺の思い!
俺は祈りにも近い思いで東条教官を見る。
東条教官はニッコリと笑ってこう言った。
「はあ?なめてんのか?お前。」
ダメかー。
だが、諦めるな俺。諦めなければチャンスはある!
俺は折れそうになる心をどうにか立て直し再度説明を試みる。
「いえ、私はあなたを軽んじてなどいません、教官。私はありのままに事実をお伝えしただけです。だから許して!」
後半はもう半泣きになって懇願していたがそんなこと気にしてなどいられない。
鬼教官殿は鬼の形相のままに俺の目をじっと見てくる。
俺はここで目をそらしてはダメだ、と思い見つめ返す。
――どれほど長く見つめ合っているのだろう。
それすらも分からないほどに俺は緊張しきっていた。
冷や汗がたれ、視界がぼやける。
だめだ、これはやり過ごせない。
素直に謝り、怒られよう。
そう思い目をつむろうとしたそのとき、ふいに教官が破顔した。
「がっはっはっはー!」
「ふぇ・・・?」
俺は驚きのあまりかわいいリアクションになってしまったが今はそんなことにかまっていられないほどに混乱している。
あれ?なんで教官がこんなに笑っているんだ?なにがおかしい。それに俺の遅刻は許されたのか?
あらゆる疑問が頭の中に去来しているがそんなことはお構いなしに話を始める教官殿。
「お前は本当に木崎さんから聞いていたとおりの男だな。」
「・・・え?なんで木崎施設長がここで出てくるんですか?」
「なぜってお前、当たり前だろ?俺を昔指導してくれたのが木崎さんなんだから。」
なんだそれ、初耳だ。
「え!そうなんですか?木崎施設長ってそんなにもすごい方だったのか。俺はてっきり不思議なおっちゃんかと思っていましたよ。」
それを聞いた東条教官は鬼の形相になり、俺に顔を近づけた。
「馬鹿野郎!あの人はすごい方なんだ。今でこそ、『太陽』の施設長をしているが、一昔前は陸軍の総大将も務めたほどの男だぞ。これまでの人生の中で俺はあれほどすごい軍人を見たことがねーよ。未だにあの人がなんで現役軍人を引退されたのか不思議に思っているくらいだ。」
東条教官はどこか遠くを見ながらそんなことを話す。
俺は一種の驚きを覚えながらにその話を聞いていた。
あの人がそんなにすごかったなんて本当に初耳だな・・・?
『太陽』にいた頃の木崎さんはただの子供好きで人の良いおっさんぐらいにしか見えなかった。
施設の皆も木崎さんにすごく懐いていたし、俺とほとんど同じ印象を持っていることだろう。
――いや、一度だけ、たった一度だけ俺には奇妙な事があったのだったか・・・。
けれど、何だったのか、なぜか思い出せない。
だけど漠然とそんなことがあったという事実だけは覚えている。
確かにあったのに、なぜか記憶から消えている。
なんでだ・・・?
俺が自らの思索に耽溺しそうになっていると、不意に頬をつままれる。
「いだいでずって、どうじょうぎょうがん。」
涙目で教官に痛みを訴える俺。
ほっぺがマジでちぎれそうだ。
「話を聞いていたのか?ボーとしていたぞ?」
そう言いながら離してくれる教官。
俺はつままれて赤くなっているであろう頬をさすりながら答える。
「聞いていましたよ。」
「ふふん、そうか。ならいい。しかし、本当に聞いていたとおりの男で安心した。」
「何を聞いたんですか?」
木崎さんのことだから何か嫌な予感がする。
そして大体に於いて俺の悪い予感は当たってしまうのだ。
ニヤリと片頬をあげて言う東条教官。
「ああ。木崎さん曰く、「君は人一倍かっこつけで、それでいてビビり。美人に目のない最低チキン野郎」だそうだな!」
「あんのおやじぃぃぃぃいいい!!!!!!」
ふはははは、と実に愉快そうに笑う東条教官殿。
「笑い過ぎですって!教官!」
「いや、これが笑わずにいられるか?フハハハ!」
俺は教官をぶん殴りたい衝動に駆られるがなんとか、なけなしの理性によって抑える。
しばらくすると東条教官はひとしきり笑ったのか、実に満足そうな顔を俺に向けて言う。
「っはー。久々にこんなに笑わせてもらったぞー、感謝する。」
「いや、素直に喜べるはず無いでしょ・・・?」
「ふははは、それもそうだな。まあ、この笑いに免じて遅刻も許してやらんでもない。」
「え!?マジですか!?」
「ああ、次からは気をつけるんだぞ?銀行の綺麗なお姉さんの前だからってかっこつけすぎるな?それに次回からは警察にもしっかり報告するように。」
「あれ?俺綺麗なお姉さんの話なんてしましたっけ?」
「ああ、それはさっき電話があってな。お前が助けに入った銀行のお姉さんから。ありがとうってさ。」
「おい!あんた全部知っててあんな脅しまがいなことしたのか!」
「ふははは、まあ、そういうことだ。じゃあ、またな。中村航さんよ。」
そう言って鬼教官殿は背中越しに手を振って去って行ってしまう。
「何だったんだ、あの人は・・・。」
俺はそうつぶやき校門をくぐったのだった。
鬼教官と別れた後、俺は急いで入学式の会場に向かった。
生徒達の入場はまだ完了していなかったのでうまいこと紛れることに成功。
その後入学式はつつがなく進行していった・・・。
俺は退屈な入学式を終え、外に出ると、曇り空が広がっている。
一雨来そうだな・・・。
俺は傘を持っていなかったので急いで帰ることにした。
雲がどんどん濃くなっていき、大雨直前のあの独特の匂いが立ちこめる。
やばいな・・・。しかたない。コンビニで傘買っとくか・・・。
俺はそう思い傘を買う。
コンビニから出るとすでにポツポツと降り出していた。
俺は買ったばかりのの傘を開いて、先ほどよりも幾分落ち着いた足取りで歩き出す。
しばらくすると、予想通り大粒の雨が傘を叩き出した。
雨の音しか聞こえない。
視界も悪い。
靴はぐっちょりと濡れ、肩や背中に服が張り付く。
いっそのこと傘を手放してビショビショになれば気持ちいいんだろうけどな・・・。
幸いこの通りに人はいないが、勿論実行はしない。
俺は残り少ない家路をこの不快感に耐えながら行くことに決めて歩く。
目の前にある最後の曲がり角を左に折れ、数メートル行けば俺の家だ。
ふー、と安堵のため息をつき、最後の曲がり角を曲がると、なんと一人の少女が俺の家の前で傘も差さずに立っている。
年齢は中学生ぐらいだろう。
白いワンピースを着ている。
雨に打たれビショビショに濡れているのであちこち透けて危ないかんじだ。
誰かはわからないがとにかくあんな濡れてるのを放っとくわけにはいかない。
俺は彼女に近づき、傘に入れてあげた。
すると、ようやく俺に気づいたのかこちらを見上げる。
前髪が長く、俺からは顔がいまいち分からない。
しかし、彼女は俺を見ると、口に笑みをたたえ抱きついてくる。
「な、なに?何してんの、君?」
俺は無様にも動揺してしまう。
彼女はなお抱きついたままにグリグリと顔を俺のおなかに押しつける。
女の子に抱きつかれたのは始めてだったがさすがに、俺は居心地が悪く、彼女の肩を持って引っぺがす。
すると、今まで隠れていた顔があらわになり、俺の記憶が刺激された。
「あれ?もしかして日向ちゃん?」
「はい。ようやく気づいてくれました。」
子犬のようにかわいい笑顔を浮かべる彼女は朝比奈 日向。
交友関係が決して広くはない俺にとっては数少ない顔なじみである。
俺はつい懐かしくて笑顔で話し出す。
「おお。久しぶりだな、日向ちゃん。一ヶ月ぶりぐらいか?」
「はい。前回お会いしたのが航さんが『太陽』に来てくれたときだったので約一ヶ月ぶりですね。会いたかったです」
「おお。ありがとな。というか、お前、とりあえず上がっていけ。そんなビショビショじゃ風邪引く。風呂も沸かしてやるから。」
「ありがとうございます。」
俺が鍵を開けると「お邪魔します。」といいながら入ってくる日向ちゃん。
俺は彼女にすこし待て、と言ってタオルを取ってくる。
「そんなビショビショのままじゃダメだ。ほれ頭貸せ。」
「え、でも。」
「良いから早く。」
半ば強引に頭をタオルで包み込みわしゃわしゃと濡れた髪の毛を拭いていく。
彼女は「あう」とか言いながらも無抵抗にされるがままだ。
俺は娘をもつ父親ってこんな気分なのかな、などと想像しながら彼女の髪の毛を拭いていた。
「よし。まあとりあえずこれで良し。今風呂沸かしてる。着替え用意しといたから沸くまでに着替えとけ。まあ、その着替え俺の余り物の服だしサイズは少し大きいだろうが・・・。」
「いえ、ありがとうございます。」
「なら、こっち来てくれ。」
彼女はぺたぺたと後ろをついてくる。
「ここで着替えてね。」
「はい」
返事を聞いた俺は脱衣所の扉を閉める。
こうして俺は彼女を脱衣所へと案内した後、リビングに戻った。
真ん中にある大きなソファーに身を沈め大きく息を吐き出す。
今日は色々とありすぎて疲れたな・・・。
今日の出来事を思い起こしていくと濃密な1日だったことがわかる。
銀行強盗に入学式、最後は雨に打たれる少女を保護するなんて・・・。
信じられねーな・・・。
それにしてもどうしたんだろう、日向ちゃん。
さっきは聞きそびれてしまったが、なんで彼女は俺の家の前で雨に打たれていたんだ?
何かあったのだろうか?
寂しがり屋で繊細な彼女だけにかなり心配だ。
なにかやれることがあればできる限りやってあげよう。
そう心に決めていると脱衣所のドアが開く。
脱衣所から出てきた彼女は俺の貸してあげた紺色のジャージに身を包んでいる。
案の定、サイズが大きくぶかぶかだ。
彼女はぺたぺたと歩き近づいてくる。
俺は少しずれて、横に彼女を座らせる。
「すみません、航さん。服お借りしちゃって。」
「気にすんなよ。こっちこそごめんな。ぶかぶかで。俺女物の服とか持ってないしさ。」
「いえ、私、航さんの服が着られてうれしいですから問題ありません。」
そう言ってにっこり笑う日向ちゃん。
俺は照れくさくて彼女の目を見ていられず少しそらす。
「おう。ありがとうな。」
「私こそありがとうございます。」
彼女がふふふとうれしそうに笑う。
俺もつられて笑ってしまう。
今のうちに聞いておくか。
そう思った俺は先ほど聞き逃したことについて聞いてみる。
「なあ、日向ちゃん。どうして俺の家の前に傘も差さず立っていたんだ?何かあったのか?」
俺はあんまり重くならないようにできるだけフランクに聞いてみた。
すると彼女は少し考えるそぶりを見せた後、クスリと一つ笑みを溢し俺を見る。
「いえ、それほどたいしたことではないですよ。ただ・・・。」
「ただ?」
「航さんに会いたかっただけですから・・・。」
「え・・・。」
俺は彼女の言葉にフリーズしてしまう。
胸の高鳴りがすごい。
顔は赤くなってないだろうか。
すごく恥ずかしい。
しかし、彼女はハッとした表情になり人差し指をぴんと立てる。
「いや、もう一つありました。」
「どっちだよ・・・。」
恥ずかしがっていた俺がなんかバカみたいじゃん・・・。
俺のピュアさなめんなよ!
「いえ、一つだけ航さんにお願いがあったのです。」
いつになく真剣な表情で俺を見つめてくる日向ちゃん。
これから告げられるお願いに対する彼女の真剣さが伝わってくる。
おそらくかなり深刻なお願いなのだろう。
だけど、俺はさっき彼女のお願いならどんなことでも精一杯やってあげようと決めた。
なら、俺のやることはただ一つ。
彼女のお願いを受け入れてやる、ただそれだけだ。
俺は覚悟を決めて彼女を見る。
すると、彼女は瞑目しスーと息を吸い込んだかと思ったらカッと目を見開きこう言った。
「私をこの家に住まわせてください!」
「ああ!俺はお前のどんな願い事でも受け入れ・・・ん?」
「やったー!ありがとうございます!私家事とっても得意なんです。なんでも任せてくださいね!」
彼女は日頃見せない程のテンションで喜びを露わにしているが俺はあまりの斜め上な願い事に混乱してしまう。
「え・・・?ちょちょちょちょっと待って。あれ?願いってそんなことなの?」
「あ、はい。そうです。緊張しましたー。受け入れて貰えなかったら私もう生きていけませんでしたよお。」
たはは、と笑う日向ちゃん。
こちらとしてはもっと壮大なモノを想定して気構えていたためなんだか拍子抜けしてしまう。
まぁ、それほど深刻なことではない。
ただ彼女と一緒に暮らすだけなのだから。
だが、あれ?これをオッケーすると彼女と同居することになるのか・・・。
同居・・・同居・・・同居。
「って、いやいやいや。ダメでしょ。同居なんて。」
「えー、今良いって言いましたよね?何でダメなんですか?」
プクッと頬を膨らませて怒っているよアピールをする日向ちゃん。
う・・・、罪悪感が・・・。
いや、負けるな俺!
自分を鼓舞して彼女の説得を試みる。
「いいかい。日向ちゃん。女の子が男の人の家に簡単に住むとか言ったらダメだよ?」
「なんでですか?私は住みたいのに。」
「いや、そういう問題では・・・。」
「じゃあどういう問題なんですか!」
ずいっと怒り顔を俺に寄せてくる日向ちゃん。
俺はえっとー、と言葉を詰まらせてしまう。
彼女はそこからたたみかけるようにしゃべり出した。
「私は航さんの家に住みたいです。その私の気持ち以上に大事なことってなんですか?もしや彼女さんでもいるんですか?どうなんですか?いないなら問題無いですよね?問題があるというならそういうことだと解釈しますけど良いんでしょうか?良いんでしょうか!」
はーはーと息を乱している日向ちゃんを俺は唖然としながら見ている。
やべー、マジコエーよ日向ちゃん。
絶対これ以上怒らせたらダメだ・・・。
俺はそう思うが、一つだけ確認しとかなくてはならない事があるのでそれだけは確認しておく。
「日向ちゃん。そこまで君が一緒に住みたいと思っているなら、もう俺は何も言わない。どうぞ住んでくれ、と言いたいところなんだが一つ確認しとかなきゃならないことがある。」
「はい!なんでしょう!」
もう住めることがうれしくてしょうが無いのかテンションが高い日向ちゃん。
かわいい・・・いかんいかん。集中だ。
「そのことは木崎施設長には言っているのか?」
彼女が所属する施設『太陽』は身寄りの無い少年少女の保護機関で、住む場所だけでなく食事や教育も提供してくれる。
俺も両親を幼くして亡くしこの施設に入った。
そこでは多くの子供達がいて友達も作ることができたし、木崎施設長にも大変よくしてもらったのを覚えている。
あの施設の子供達からしたら施設長は血のつながっていない父親のようなモノだった。
だから、木崎施設長から許可が出ていないだけでなく、この子が勝手に施設から抜け出してきているのだとしたら俺は心苦しいが彼女を追い返し、施設長のところへ謝りに行かなくてはならないだろう。
「どうなんだ?」
もう一度問うてみる。
すると彼女はけろっとした顔で答えてきた。
「言ってるし、許可も取ってるよ?というよりも航さんの家を教えてもらったのも木崎さんですし。」
「へ・・・?」
「木崎さんが私に「航の家に住め!場所はここだ。頑張れよ!」って言ってくれたんだあ。」
うふふ、といいながらほっぺを手で押さえる日向ちゃん。
なんだと・・・これもあんたの仕業なのか木崎さん。
俺は頭痛を感じてこめかみを押さえる。
だめだ・・・あの人絶対俺で遊んでやがる・・・。
「ねーねー。良いですよね?施設長にも許可もらってるし。良いですよね?」
俺の服の袖を引っ張る日向ちゃん。
「おい、服が伸びる伸びる伸びる。」
「良いでしょー?ねーえ?」
「分かった分かった。良いよ。もう良いから離してくれ。」
「やったー!一緒に住めるんだー。ヤッホー!」
いつも落ち着き払った印象だった日向ちゃんがソファーの上でぴょんぴょん跳び回っている。
こんなに明るい子だったのか・・・。
俺は彼女の知らない一面をしれたことに少し歓びを感じていたが、一つ気になったことがあるので聞いておく。
「おい。でも日向ちゃんまだ卒業してないでしょ?どうするの勉強。どこかの中学にでも転校するのか?」
この子はまだ十三のはずなのでまだまだ勉強しなくてはならない年頃のはずだ。
ちなみに俺は今年で十六なので彼女とは三歳違いである。
しかし、そんな俺の心配はまたしても杞憂に終わる。
彼女は少し興奮したような口調で俺に話してくる。
「いえ、ご心配は無用です。私こう見えても天才なので中学校内容はおろか高校内容もすべて学習済みです。それに私のことを木崎さんがある学校に推薦してくださったのです。」
「ある学校?それってどこなんだよ・・・?」
彼女がずば抜けて頭の良いことは俺も知っていたのであまり驚かなかったが木崎さんが推薦している学校、というのはどうにもきな臭い。
またいつものようにろくでもないことを考えているんじゃないだろうな、あのおっさんは。
そう思い、警戒心をあげ、すこし険しい表情になっている俺に対して彼女は心底うれしそうにしている。
「どこだと思いますか?」
「いや、全く見当もつかない。」
「えーしょうがないなー。じゃあ、教えてあげましょう。」
「おう。教えてくれ。」
「うん!私の行く予定の学校の名前はねー。」
「名前は?」
「帝都第一士官学校。航さんと同じ学校だよ?」
「へ・・・?」
今こいつは帝都第一と言ったか?
あり得ない。彼女はまだ中学生の年齢だ。
十三歳で士官学校に入ったやつなんて聞いたことがない。
前代未聞だ。
確認の意味をこめてもう一度聞いてみる。
「今なんて?」
「だ・か・ら帝都第一士官学校だっていってるじゃん!」
やはり聞き間違いではなかった。
聞き間違いであってほしかったぞ・・・。
「まじかよ!」
「大丈夫だよ?私の方がたいていの生徒よりも優秀らしいし。」
「そういう問題かな・・・。」
「まあ、良いじゃん。私は航さんと一緒の学校に行けてうれしいですし!」
えへへ、とだらしない笑みを浮かべる日向ちゃんを見ているとなんだか深刻に考えている俺がばからしく思えてきてつい笑顔になってしまう。
まあ、いいか。難しいことは置いておいて。
今は彼女との生活を楽しめればそれで十分だ。
「よし。話は分かった。じゃあ、とりあえずこれからよろしく日向ちゃん。」
「はいよろしくお願いします。」
にっこりと満面の笑みを浮かべ握手する俺たち。
するとお風呂が沸いたことをつげる音楽が鳴る。
「おい、日向ちゃん。風呂沸いたみたいだし先入ってきて良いよ。」
「え、良いんですか。ありがとうございます。ではお先に。」
「ほーい。ごゆっくりー。」
彼女は脱衣所のドアを開け、入っていくかと思いきや顔だけ覗かせて
「覗いたらダメですよ?」
「覗かねーから早く入れ。」
「はーい。」
「全く・・・。」
そんなこんなで俺たちは同居することになってしまったのだ。
どうなるんだ、これ?
いかがでしたか?
楽しんでくれてたら嬉しいです!
また次話でお会いしましょう!
感想待ってます!