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Go ahead! ③

 攻撃の展開は一方的なものだった。

 身隠しの為に炊かれたスモークが晴れた後も、銃撃の勢いは衰えず、包囲した蟻達を銃火と『ネネキリマル』で沈黙させていく。

 銃撃の包囲網を突破しようと、皿頭が横一列に整列し、西側の森に展開している『ファイター』の猛攻を受止め、反撃の強酸を膨らませた尾から噴射した。

 皿頭の陽動に応えた兵隊蟻達が、身にそぐわぬ速さで弾丸の雨を掻い潜り、若い木々を蹴散らしながら『ファイター』へと迫る。


『落ち着いて動き回れば、あいつらの強酸はまず当たらん! 攻撃の手を緩めるな!!』

『隊長、兵隊蟻が5匹抜けてきます』

『俺とローチで対処する、お前らは攻撃を続けろ! 行くぞローチ、チェイスタイムだ!!』

了解(ヤー)!』


 隊列から2機の『ファイター』が離れ、自分達へと迫ってくる兵隊蟻の迎撃を行う。

 先陣を切る2匹の頭部をアサルトライフル――REC21を叩き込み沈黙させ、せり上がって来た後続を部下のローチが続いて撃ち続けマガジンを空にする。

 残った2匹の兵隊蟻が大きく回り込む様に左右に別れ、一番手ごろな位置にいいる隊長機の『ファイター』を2手の凶刃が襲いかかる。


『隊長! 右側を!!』


 ローチに声に応えた隊長機の『ファイター』が迷わずに右側の蟻へと照準を向け、応戦し、反対側へ無防備な背中を晒す。

 隊長機を寸断する、背後の大顎の複眼目掛けてローチの『ファイター』が右腕を突き出し、格納されたナイフシースからアーミナイフを射出した。

 どぷっ、とした潰れる音と共に兵隊蟻の頭部が大きく仰け反り苦悶を示す。

 正面の兵隊蟻を制圧した隊長機がすぐさま振り返り、最後の1匹に止めを刺した。

 ローチと隊長機がREC21のマガジンを交換し、持ち場まで後退していく。


『こいつら、包囲すればするほど厚くなってますよね。 巣の入り口が塞がってるんじゃないかと思う位に、巣穴から絶え間なく出て来てますよ』

『弾の撃ち過ぎには気をつけろよ、弾薬はコンテナで丸ごと降下させたのが幾つもあるが、巣内に持ち込めるのは自分達が持てる分だけだからな』

『じゃあ、弾が好きなだけ補給できる今の内に、沢山撃っておきます。勝利の女神が来るまでのボーナスタイムと言う事で』

『ボーナスを熱心に稼ぐのは結構だが、死亡手当ては一切無いから気をつけろよ?』

『心得てます』




 戦斧を振れば振るだけ、破壊が起きていた。

『オーガ』が情け容赦無くその暴力を蟻に向って全力で振るっていく。

 蟻の肉片を纏った甲殻と四肢が空へ飛び散り『オーガ』の返す刀の勢いは、寸断する蟻の数だけ増していく。


『コウタロウ、もっと押し込んでやれ!』

『応よ! ベニーの分までペース上げてやるぜ!』

『お前のフォローをちゃんとしてんだよ、こっちは、なっ!』


 コウタロウの剛刃で切り崩していく兵隊蟻の壁をベニーの大太刀が隙間を縫う様に突き穿つ。

 崩壊していく虫壁の奥、コウタロウの視界が後方の皿頭が尾をこちらへと真っ直ぐに向けているのを確認した。

『オーガ』がコウタロウの脳波を感知して尾を向けている皿頭にマーキングをつけ、位置情報を後方の狙撃手――アティへと伝える。

 直後に皿頭の尾が膨らみ、破裂した。

 強酸が尾を破裂させた皿頭と周囲の兵隊蟻に降りかかる。


『んー……このライフル、貫通はピカイチだけど、反動が以前より大きいわね』


 命中したのはさも当然、と言った口調でアティの回線がコウタロウの方へ聴こえて来る。

 頼もしいな――。

 コウタロウは脳裏に浮かんだ言葉を戦場の中へと流し込んで、巣の入り口まで後どれくらいの距離か、ヘルメットモニターに表示された目標距離を確認する。

 今の距離は約83m。目標の50mまで後、33m。

 包囲し、押し込み続けている筈の蟻達は数を減らし続けている筈だが、その勢いが弱まった様には見えない。むしろ逆だ。

 押し込むたびに、蟻の密度が上がって行く。きっと、巣から増援が止め処なく押し寄せているのだろう。

 ――だから、どうした。

 数こそ劣っているが戦意は負けてなどいない、武器も弾もたっぷりとある上にこの身には傷一つなどついていない。体力なんて余裕で溢れている。

 ハイスクールの卒業から現在まで軍籍に身を置いた人間を舐めないで欲しい。

 そしてなにより、前哨基地で独り残された時とは――生き延びる為だけに逃げたあの日とは全く違うのだ。


『――今度は人類(こっち)がお前らを狩る番だ!!』


『オーガ』が突如、咆哮を上げ攻撃の勢いを更に増して行く。

 兵器に駆る人間の意志が混ざり、暴れ狂うその様は正に名が体を表していく。

 ――叩きつける。

 目の前の兵隊蟻の頭部を戦斧でかち割った。残り25m。

 ――薙ぐ。

 ホバーを止めずに戦斧で腰を入れて引き切る要領で脚を切断した。残り18m。

 ――ど突く。

 戦斧の石突きで複眼を潰す。残り12m。

 ――切断する。

 怯んでいた皿頭の横に回り込み、頭部を落とす。残り5m。


「キキキキキキ」


 戦斧は勢いを付け過ぎて地面までめり込んでいた。皿頭の落ちた頭部が転がる方向から兵隊蟻の大顎が迫る。

『オーガ』が大顎へと自ら飛び込み、複眼目掛けて左拳を振り抜く。

 軟らかい果物が道路で踏み潰された音がすると、複眼を叩き潰された兵隊蟻が大きく仰け反った。

 残りマイナス3m。


『目標地点に押し込めたぞ! ユーリー隊長!!』


 コウタロウ達から少し距離を置いて援護射撃を行っていたユーリーに向って通信で叫ぶ。


『総員、現状維持! この距離を保ち続けろ、ぶっといのがくるぞ!』




 戦闘空域上空の後方、待機していた『ヒクイドリ』の内部では下半身がカヌーボート状の奇異な出で立ちをしたパワードスーツ『デメテル』が複数のワイヤーによって多方向から固定されていた。


「エメリ特別准尉! 戦線から連絡来ましたよ、行きます!!」

了解(ヤー)、お願いします』


 気圧が『ヒクイドリ』の下降に合わせて地表に向って変化していき、機内が少し傾く。

 薄暗い『デメテル』の内部でエメリは瞼を閉じている。

 ――大丈夫だ、たくさん練習した。気負い過ぎずにやれる事を落ち着いてやるだけだ。

 ――恐くない訳ではない、しかし、動けないままの方がずっとずっと辛い事を、あの日から私は知っている。

 ――だから、絶対に、勝つ。姉を取り戻して、みんなで前に進むんだ。

 エメリが閉じていた瞼を開ける。その瞳は生命力に溢れる新緑の力強い意思が宿っている。

 待っててね、お姉ちゃん――コウちゃんと一緒に今度こそ助けに行くよ。


「理想降下高度に到達! タラップの開放と同時にワイヤーを外します!!」

『エメリ、特別准尉、出撃します!!』


『デメテル』が両手にアサルトライフルを構えたまま上半身を前に倒すと、カヌーボート状の脚部が微光を示し、空気を揺らして僅かに浮上して行く。

『デメテル』を固定していた張り詰めた金属ワイヤー達が軋む音を立て始める。

 タラップが徐々に下がり始め、隙間から入り込んでくる暴風によってワイヤーが更に軋む音を立て――外れた。

『デメテル』がタラップ目掛けて急降下し、空へと飛び出す。

 脚部の微光が明確な発光へと変わった。

 エメリの視界には急激に高度が下がっていくのがメーターで表示される。


「――――っっっ!」


 言葉にならない悲鳴が脳内で響いていく。

 ああ、でもこの浮遊感は少しイイかも……。

 空中降下に愉しみを見出しそうになったエメリの視界は迫っていく戦場の銃火を捉えた。

 あそこでみんな戦っているんだ――。

 森の木々へ激突しそうになるスレスレの高度まで到達すると脚部の光は最大になって高度を維持し始めた。

 木々の先端がホバーの圧によって折れ飛び舞いながら『デメテル』は蟻の作った獣道へ降り立ち砂塵を巻き上げ、戦場へと急速に前進していく。

『デメテル』の左肩に担がれた長身の砲が砲身の奥から荷電を帯びながら光を溜め始める。


『エメリ・ミール、到着しました!』


 戦線の後方にいる仲間の背が見え始る距離になると、エメリが回線へ名乗るのに合わせて複数の回線が一斉に繋がっていく。

 道の中央を突っ切っていく『デメテル』へ仲間が道を空けて行く。


『待ってたぜ、お嬢ちゃん!』

『主役のお出ましだな!』

『待ちくたびれましたよ、エメリ』

『やっちゃいなさい、エメリちゃん!!』


 ここまで蟻を追い詰めてくれていた仲間達へ答える為にも最前線まで『デメテル』は突き進んだ。

 左肩の砲身がついに、銃身の先端まで蒼く眩く光を溜め込む。

 すると蟻の猛攻をいなしながら、その場に食い止め続けた紅い鬼の背が見えた。

 コウちゃん――!

 鬼が武器を銃器へと切り替え、道を譲る為に振り返りながら引いた。

 前方の押さえが弱まり、押さえつけられた反動によって蟻達が破竹の勢いで正面へ押し進む。


『エメリ――やっちまえ!!』

『はいっ! 荷電粒子砲――グラァンピィ・マザー、撃ちます!』


 エメリの声紋を判断した『デメテル』が遂に溜め込み続けた砲身の光を開放した。


「ギ――」


 発射された光りが稲妻を帯びた津波の様に、銃身の先から獣道の全てを蟻と共に飲み込んでいく。

 道の脇に生い茂る歳若い木が光の余波で身を大きくしならせ折れた。

 余りの威力に発射した『デメテル』自身も荷電粒子砲を撃ち続けながらも後ろへと下がって行く。

 想像を超えた光景に、兵の何人かが呆然と稲妻の濁流に見惚れていた。

 荷電粒子砲の光が漸く弱まり、外側から内側へとその光を霧散させていく。


『……あ、あんだけ沢山居た蟻が……消えた……』


 光が消えた獣道に残っていたのは大きく抉れた熱を発する地面と、直撃し以前より大きくなった巣の入り口だけだった。

 獣道に残った蟻達の残骸らしきものが燃えカスとして小さくあちこちに散らばっている。


『お、おお――オオオッ!』


 何処からともなく、1人の兵士が歓声を叫び、それが周囲に感染して広がっていく。


『やった、やったぞ!! あいつら全部死んだぞ!!』

『……ああ、ああ! うじゃうじゃ湧いてた奴らが消し飛びやがった!?』

『これなら巣の中にいる残りの害虫共だって!』

『総員に伝達、これより我々特務部隊を先頭に少数の地上部隊を残して突撃を開始する!! 1匹残らず害虫を駆除するぞ!!』

了解(ヤー)!!』


 ユーリー二等准尉の号令の元、高機動装甲歩兵達が巣へと進撃を開始する。


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