さんばめのはなし
「あの、“じ”はかけますの?」
字?英語と似ていたけれど、どうなんだろう?
首を捻っていると、美少女ことマリアーヌ嬢は何か納得したような表情を浮かべ口を開いた。
「もし、よかったらなのだけれど、わたくしがあなたに“な”をあたえてもよろしくて?」
「(え?)」
いまいち理解できていなく、呆けた顔をする私にマリアーヌ嬢は、説明を付け加えた。
「“じ”かけないのでしょう?なら“ことば”はつうじるのだから“かりのな”をつけさせていただけないかしら?“な”がないといろいろとふべんでしょう?」
「……(まぁ、そうだよな)……コクリ」
お願いしますの意をこめ頭を下げた。
「そんなにかしこまらなくとも……まあ、いいわそうね、“な”はシルドーラ……シルドーラなんてどうかしら?」
「(シルドーラ、シルドーラ、シルドーラ)」
彼女に名をつけていただいたことに幸福感を感じずにはいられなかった。
何度も何度も覚えるように確認するように、音のでない声で自らの名を紡いだ。
すると、無性に恥ずかしさとともに、胸の辺りからむず痒くて温かいものが溢れてくるのを感じ自然と普段は硬い表現筋が緩み笑顔をかたどっていた。
「ねぇ、シルドーラ」
「(はい)」
「あなた、いくところありますの?」
「ふるふる」
何故行きなり彼女がこんな質問したのか分からないながらも、いくところがないのは事実なので首を横にふる。
「じゃあ、わたくしのところへこない?」
私は目を驚きで見開き、何故かと首を掲げる。
私の疑問に気付いたのか柔らかく彼女は微笑みゆっくりといった。
「わたくし、あなたのことがきにいりましたの……だから、もしいくところがないのならば、わたくしのもとではたらいてみないかしら?」
き、き気に入ったっていったの!?
マリアーヌ嬢が、私なんかを!?
え?え!?嬉しすぎ泣きそう
てか、涙出てきた…!!
でも、表情筋が働かない!!!!
目からぼろぼろ出てるけど、止まる気配ないし、彼女にみられてると思うと恥ずかしい……
「え!?シルドーラ?なんでないているの?わたくしなにかあなたのふかいなことしてしまいましたか?」
「ぶんぶんぶん」
「え?では、なぜ?」
彼女に伝わるようにことさらゆっくりと唇を動かす。
「(う、れ、し、く、て)」
「……ッ!!」
マリアーヌ嬢は、驚きとともに一瞬辛そうな顔をしたが、すぐに慈愛に満ちたような顔を作り、私を安心させるように微笑んだ。
「シルドーラ、シルドーラ」
彼女が私の名を紡ぐ声は、とても優しく私をただただ優しく包み込んだ。
私より彼女の方が年が上であることを忘れ、私より幾分か小柄な彼女の体に抱きつき、声が出ないが私の喉から絞り出すような音を洩らしながら涙を流した。