最終話 「ねがい」
むっくんと、Iさんと、家族と、これを読んでくださる方に、ありがとうを贈ります。
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こうして、僕の骨髄提供のコーディネートは修了した。
日本骨髄バンクへの登録を継続するか、保留するか、取消するかを選べますがどうしますか、とIさんに尋ねられたので、いったん登録を取り消す事にした。
保留の方が良かったのかも知れない。しかし、僕の仕事が忙しくなりつつある事もあり、体調と環境が万全に整った時、気持ちを入れ換えて、再度登録をし直したいと思い取消とした。
妻は僕のその決断を聞いて、心底安心したようだった。
Iさんは、コーディネートは1人の患者さんにつき5人まで同時に行えるので、患者さんはきっと大丈夫ですよ、と言ってくれた。患者さんに何人ドナーがいるかは口に出来ない決まりになっているので、その言葉は意気消沈した僕へのIさんからのギリギリの優しさだった。
僕の命で、誰かを救えなかった。
ごめんね、ごめんね、むっくん。
その言葉が頭を渦巻いた。無言の約束を破ってしまったような気ばかりした。
むっくんのお母さんへの申し訳無さもあった。
もしかしたら、そもそも僕が骨髄提供に固執するのも、お葬式の時、むっくんのお母さんに悪いことをしたからかも知れない。
それらを忘れるように、僕は仕事に没頭し、時は流れた。
翌年、よんどころない事情により妻の実家は引っ越す事になり、僕たち夫婦は義母と別居する事を決め、僕の通勤時間は大幅に伸びた。
飼っていた老犬は天寿を全うした。
大型の綺麗な白い雑種犬だった。
僕はむっくんの死のような悲しみを減らすために何が出来るか考え、通勤時間に文章を書く事に決めた。
そして、毎日少しずつ、この物語を書いた。
骨髄提供に関心はあるが具体的なイメージがし難いと言う方や、日本骨髄バンクをご存知無い方に、伝える為に。
どうか
どうか、お願いです。
18歳から55歳の、健康で、ご家族や環境が許す方は、骨髄バンクの登録をお願いします。
僕は日本骨髄バンクに所属するものではありません。
実際に骨髄提供の手術を行ったこともありません。
子供の頃友人を白血病で失った、ただの人です。
なんの打算もありません。もちろん、強制する力もありません。
ただ、この文章がたくさんの方の目に触れ、1人でも多くの方が骨髄バンクにドナー登録をし、一人でも多くの方の命が救われる事を、ただ、願っています。
今の僕には分かりませんが、もしかしたら僕のこの行為は偽善や過ちを含むのかもしれません。
それでも、ただ、願っています。
救われ得る命が救われ、一人でも多くの方が、天寿を全う出来る事を。
完
お読みいただきまして、本当にありがとうございました。
この物語を読んでくださった方に健康と幸せが訪ないますよう。




