我が家の座敷わらし
我が家には座敷わらしがいる。
座敷わらしというのはあれだ、日本にむかしから伝わる人に害をなさい、むしろ福をもたらしてくれると言われてる妖怪というよりも守護神的ないい奴。一般的に座敷わらしがいなくなると、その家は傾くとも言われている。
まぁ、その座敷わらしが俺の家にいる。
「いる」と俺が言えるといことは当然俺ははっきりと座敷わらしを見たことがあるっていうことだ。見たことがないのに「いる」という発言はおかしいだろ?
ふと気付いたら家の中でちょくちょく見かけるようになっていた。小さい頃から見てたような気もするし、数年前から見かけるようになった気もする。はっきり俺にはいつから座敷わらしをちゃんと視認するようになったかはわからない。
ただ、そのおかげで我が家はの財政は赤字になることもなく、むしろ余裕の状態を保ち続けている。
赤い着物におかっぱ頭の十歳ぐらいのまさに日本人って雰囲気の女の子。それが我が家に住み着く座敷わらしの姿。
はっきり言って、めちちゃくちゃかわいいですっ。
くりっとした瞳に無邪気な表情、日本らしく着物姿でちょこちょこ駆け回る姿は色々と俺の中の何かがくすぐられる。
俺はほぼ毎日家の中にいるときは常に見えてると言っては過言ではないぐらいの頻度で見えてる。俺の霊感が強いせいなのかわからないが、大学生の兄は俺ほど頻繁には見えてないらしい。時々俺が気付いていても兄は気付いてないことがあるぐらいだ。そして、それ以上に両親には見えてないらしく、一週間に一度ぐらいしか見かけないらしい。
普通なら驚いたりするような存在だが、我が家では家族同然に扱われている。兄と俺、そして、末っ子座敷わらしの三人兄弟とでもいったところか。
あ、でも、座敷わらしって長生きしてそうだよな。寿命なんてなさそうだし。ん?ってことは座敷わらしが一番上になんのか、むしろ俺が末っ子か?いや、もともと末っ子だけど。
ほとんど視認できてしまう俺にとっては兄弟同然にしか思えなくなってきてしまっているが、やっぱり精霊や守護神と言われるものなので、突然現れられると驚く。
いつかは一人で部屋にいてなんか視線を感じるなとふと振り返ればおかっぱの少女がにこにことこちらを向いて微笑んでいた。
はっきりあれは心臓に悪い。足音がしなければ、扉の開く音もしない。ただ突然に現れる存在。ほんと、あれはマジでびびった。
向こうはただの気まぐれで出没するので、毎回毎回現れる場所も時間も不定期だ。好きなときに現れては誰かを驚かして消えていく。
というか、人を驚かすのが楽しいだけみたいだけど。
前にインターネットで調べたらいたずら好きとも書いてあったし、我が家の座敷わらしも例外にもれずそうらしい。
しかし、あいつの一部のいたずらは何かがおかしい気がしてならない。
結構前のテストの答案が戻ってきたころだったと思う。俺はあまりにも悲惨すぎるテストを見て、とりあえず机の奥に仕舞いこんでたんだ。
当然俺は絶対に見つからないと高をくくっていた。
だけど、あの座敷わらしはやってくれた。ものの見事にやってくれた。
次の日俺が家に帰ると待っていたのは怒っている母さんと何故か机の上に乗せられていた隠したはずのテスト、それらを見てくすくすと笑う座敷わらしだった。
よくもやってくれたなっと座敷わらしを追いかけたが、結局俺はあいつには触れられない上にどう考えても逃げ足は向こうのほうが上なため捕まえられずに終わった。
ていうか、あいつは物に干渉できたんかよっ!
おかげでこってり母さんには怒られるし、兄は大爆笑されるし、散々だった。くそっ、なんであいつは実体がねぇんだよっ。
……座敷わらしだから当たり前なんだけどな、だけどな、こんなことされたら一発ぐらい殴らせろってんのっ。
しかもあいつのいたずらはそれだけじゃない。目覚まし時計をセットして寝たはずなのに起きてみると設定は解除され、友達との約束に遅刻したりもした。
また、勉強せずに漫画を読んでたらそれを母さんに話せないために身振り手振りで教えたりもされた。これもまた当然の如く、それを知った母さんにこってり怒られ、座敷わらしは御礼にと俺の分のアイスをもらって喜んでた。なんなの、あの幼女は俺で遊んでそんなに楽しいの?こっちはめちゃくちゃ迷惑なんすけどっ。
ちなみに兄貴は俺ほどの被害を受けていないらしく、むしろ俺に降りかかる出来事を聞いては爆笑してる。
少し前にどうして俺ばっかりと兄貴にぼやいたら、さも当然のように
「そりゃ、一部は俺が指示してるし?俺も参加してるし?」
「お前のせいかよっ!」
と言われた。
おかげで漫画が部屋中にドミノ倒しをしてそのまま放置しましたという感じで散らばってるわけだよっ。どう考えても座敷わらし一人じゃきつそうだもんなっ、てか、兄貴もずいぶんと暇だな。
漫画ドミノ倒し事件意外にも漫画でタワーを作ったり、いつかは部屋に入ったら座敷わらしと兄貴が俺の部屋でなんでかこっくりさんをやってたりとさんざんやってくれた。
てか、なんで座敷わらしがこっくりさんしてんのっ?なんかおかしくねぇ。少し違う気もするけど、こっくりさんって座敷わらしと同族みたいなもんじゃないのかよ。
ほんと、座敷わらしって何?座敷わらしって時々出現してちょっといたずらして消える奴じゃななかったの?なんで家の人と仲良くなって二人して俺を落とし入れるんですかっ!
ちなみに両親はにこにこと仲がいいのはよいことだと座敷わらしへ対するツッコミは一切ない。あれ、俺の認識が間違ってるの?
まぁ、散々座敷わらしに遊ばれている俺だが、特に何かちょっかいを出されることもなく過ごすときもある。
例えば、テストも終わり一人で漫画を読んでるとき。気付くと座敷わらしは俺の部屋にやってきていて、ちょこちょこと俺の隣までやっくると俺の持つ漫画を覗き込み一緒に読み始めるのだ。こういうときは基本的におとなしい。時折、俺の本棚の中で読みたい本があると指でしめすので、それを広げて時間を潰したりもする。
……少年漫画しかねぇんだけどな。そもそも漫画を読む座敷わらしって何?しかも外見十歳ぐらいの少女って、おい。
兄貴は兄貴で座敷わらしに肩たたきをしてもらってるのを最近見たことがある。
大学を終えるとバイトしてるせいか、結構疲れてるらしくここ数日は毎日のようにしてもらってる気がする。座敷わらしの持つ能力か何かなのか、人にやってもらうよりも疲れがとれやすいらしい。
傍目から見ると兄貴がロリコンにしか見えなかったけどな。
兄貴ももう二十歳だし、座敷わらしは十歳ぐらいにしか見えないんだからもうロリコン確定でいいと思う。
いつかぼそりと肩たたきをしてもらってる兄貴の側でぼやいたら、怒号の言葉と共に返事が返ってきた。
「一緒に漫画読んだり寝てたりしてる万年ロリコン野郎が何言ってんだ。お前、俺のいないところでこの子に何かしよとか企んでんじゃねぇだろうなぁ?座敷わらしとも言えども手を出んじゃねぇぞっ」
「ロリコンじゃねぇしっ、一緒に寝てるというよりも俺を金縛りにさせたいがために側にいんだろっ、おかげで全然寝られなかったんだよ。それに誰がてなんか出すんだよ」
「今度からこいつには気をつけろよ、なんかあれば俺のとこに来い」
「なんで座敷わらしもそんな怯えた目で俺も見るのっ。そんなことしないからっ、だからそんな目で見んなよっ」
……ああ、今思えばけっこう散々な目にあってる気がする。
断じて俺はロリコンではないっ!
まぁ、それも座敷わらしがおもしろがるネタになってしまうだけだが。
そんでもって、俺の持つ漫画か兄貴の見るアニメに影響されたのかよくわからないが、なんでか今日は腰に小ぶりの日本刀を差していた。
うん、なんでそうなったの。
いや、確かに日本刀を振り回す主人公のいる漫画を持ってるし、アニメも兄貴が見てたよ。
だからって、なんでそうなった。
いきなり日本刀を抜いたと思えばいきなり俺の首筋に当ててきたりし。これはかなりびびったけれども。
なんか顔が主人公というよりも悪役っぽいぞ、お前。
そう言うと座敷わらしはぷうっと頬を膨らませ、日本刀を鞘に納めるとその場からしゅんと消えてしまった。
今日ものすごく嫌な予感がするんだけど。こうやって座敷わらしの機嫌をすくねるとろくな事が起きない。
ああ、絶対今夜は寝れねぇな。
金縛りのせいで。
今までも、お菓子を分けてやらなかったりとか、いたずらをスルーしただとか、漫画を開いて読ませてあげなかったりだとかで機嫌を損ねる度に金縛りという刑で何度も寝不足になってきた。
ああ、また明日も授業が睡眠に潰され先生に起こされるんだろうなぁ……
ああ、最悪だ。
「くそ、ねみぃー」
やっぱり金縛りの刑は予想通りものの見事に実行された。
あんな発言なんてしなければ、ぐっすりと寝れたのに。
「よぉ、ずいぶんと眠むそうにしてんな」
あくびをする俺の横に馴染みのある顔が並ぶ。
今日のように駅から高校までの短い距離を歩いている間にクラスメイトに会うことも少なくない。
「いや、見事に金縛りにあって眠れなかった」
「お前も大変だな。こっちは宇宙人に部屋を荒らされて大変だったぜ?」
さらりと宇宙人などと会話に紛れ込ませてくる我が友人だが、いつものことだし気にすることはない。俺も座敷わらしがどうだのと言うが相手も本気でとってるわけではなく、あくまでも冗談の一環として使ってるだけだ。
友人はため息をつきながら俺の隣でぼやいた。
「いあやさ、あいつさ、朝家を出ようとしたらなんでか俺のバックくっついててさ、剥がすのに大変だったんだよ」
「そっちも大変だなぁ。俺は昨日なんでか日本刀向けられたぞ」
互いに言い合いながらため息をつく。もっとも俺のは本当の話だけど、友人のため息のつき方もリアルすぎて、どことなく笑えなかった。こいつ、演劇部は入れるんじゃね。
「あの宇宙人いつまでいんだろ」
「俺の家の座敷わらしもいたづらは程ほどにしてほしいよ、全く」
がくりと横で友人がうな垂れる。なんだろ、本当に宇宙人がいるような感じがすんだけど。でも、宇宙人なんているわけないよな。
二人そろって再びため息をつきながらも登校する。
というか毎朝互いの予想外な我が家の住人について語り合いつつ登校するのがもはや日課となりつつある。といっても向こうは作り話だろうけど。
ひとまず、我が家の座敷わらしに対する俺の認識はこうだ。
俺の知る座敷わらしと違うっ!
本作品は部活用に書いた作品です。
書いているうちに何故か主人公ロリコン疑惑が浮上してました。
主人公はロリコンじゃないはず・・・・たぶん。
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