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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【BL】フェチの二乗

作者: 湊航

いきなりだけど先ほどの俺の恐怖体験を話そうではないか。


昼休みの学食で生徒会役員全員が揃って楽しそうに食事をしている中、俺は遅ればせながらも注文カウンターに向かっていた。


ちなみに件の重要人物になる書記は双子だ。


そして腹ペコな俺は何を食べようかと考えに集中していた。


だから次に起こることなんて予想できなかったんだ。



「あ」



それは誰が漏らしたかはわからない。


けれどそれと同時に会計の手から携帯が落ちた。


それは床と接触したところで止まらなかった。


なんと何メートルか離れていたけど俺の歩行先、ちょうど上げていた足の着地点まで滑り込んできたのだ。


他人事であればナイススライディングと心中で拍手喝采していたくらい見事だ。


突然すぎて平凡な俺は対応できず、そのまま踏んでしまった。


故意ではないけど俺が悪い。


とにかく謝って弁償しなければ。



「あーあ、潰れちゃった。日頃の行いが悪いからだね」



それなのにきゃはらと笑った書記双子兄に遮られた。


おまけに俺のところまでやってくると、足元でしゃがんで携帯の惨事を確認し始めた。



「どれどれ、バキバキになっ……ん?」



けど妙なところで言葉を詰まらせてそのまま固まった。


そ、そんなに酷い状態になっているのか。


現実を受け止めなくては、と恐々見れば書記双子兄の視線はやけに上を向いていた。


あれ、踏んづけた携帯のことじゃなかったのか。


何もないような気がするけど、何を見ているんだ?


まさか俺の後ろに何か?


そう思い、上体だけ後ろへ向けた時だった。



「これは!」

「ひえええっ!」



ぐわしっ、と音が聞こえそうな勢いで俺の脚が両手で鷲掴みされた。


勿論犯人は書記双子兄。


前触れさえも目撃できなかった分、余計に怖さが倍増だ。


思わず叫んでしまった俺を咎める奴はいないだろう。


というかいたらきっと書記双子兄と同類に違いない。


周りだって突然の出来事に呆然としている。



「おい、どうし」

「この色このツヤこのフォルムっ。何コレ、何の神秘?頬擦りして舐め回したい」

「ふえええっ!」



早々に復活して心配したらしい会長の言葉を遮り書記双子兄が叫んだのは、俺には未知というか知りたくない世界だった。


想像して反射的に全力で足蹴にしてしまったくらいだ。


痛かったのだろう、後方へ飛びはしなかったがうずくまって頭を下げたままだ。


これは流石に酷いことをしてしまった。



「申し訳ありません。その、怪我はないですか?」



口の中が切れていたりしたら大変だ。


俺は心配になって近付いた。


その途端にとろけるような恍惚とした顔を間近で向けられた。


男でも可愛い顔だからか一瞬どきりとしてしまった。


だがそれを後悔することになる。



「蹴られ続けたい。でも身体がこんな大衆の前では言えないイケナイ状態になっちゃう」

「ひいいいっ!」



予想外の方向に事態は悪化してしまった。


今度は攻撃するのは我慢できたけど、そのまま抱きつかれた。


誰か引き剥がしてくれ。


というか謂わんとしていることがだだ漏れですから。


今度は周りも隠さずに退いている。


だけど俺からも離れるのはよしてほしい。


巻き込まれただけなのがわかっていても傷付く。


書記双子兄の親衛隊隊長さんまで憐れんでいるなんて何事だ。



「仕方ないから今は撫でるだけで辛抱するよ…。それにしても凄い、僕の為にある脚なんだね!」



そんな中、気にせず書記双子兄は暴走し続けている。


違うって、俺が歩くための脚だ。


凄いのはその思考だから。



「それ隠してよ、僕まで同じとか思われたくないって言ってるでしょ!」


「はあ、こんな素敵な脚を見逃すなんて僕にはできない、限界だよ。撫でてたら頬擦りもしたくなってきたしアソコが」

「駄目、お願い、わかったから規制して!」



この状況をどう打破すべきかと考えていると、書記双子弟が俺たちの間に割り込んで引き剥がすと切実そうに叫んだ。


最後なんてもう泣きそうだ。


双子でもコレはシンクロしなかったんだな。


しなくて正解だったと思うぞ。


でも贅沢言うならもっと前に、明るみになる前に止めてほしかったかな。



「ごめん、俺のせいで…」



その隙に俺に話しかけてきたのは携帯の持ち主と思われる会計だ。


俺が加害者なのに逆に謝罪されてしまった。


おまけにかなり申し訳なさそうだ。



「あの、その、踏んで俺の方がすみません。携帯は弁償しますから」


「いや壊れてないし古いから大丈夫。むしろ俺の携帯より君の人生の方が被害ありすぎだからさ」



うわ、良い奴じゃないか。


生徒会役員ではなかったら是非とも友達になってほしかった。


そんなこんなで和んでいると書記双子兄が俺が離脱していることに気付いたらしく、会計を睨み付けた。



「ダメだよ、この子は僕のなんだから色目使わないで節操なし」


「いや、今の会話で何処にそんな要素が?ていうか俺そこまで言われることをこの子にはやってないし」



そう告げられても信用ならないらしく、書記双子兄は態度を改めない。


颯爽と会計から守るように俺に抱き付いた。


うん、下半身中心に。


確かに見た目でも俺の方が身長が高いとわかるけど、これは関係ないと思う。


脚に触れる手付きがあやしすぎる。


というかどさくさに紛れてやってるつもりだろうけど、全然できていませんから。


どこの痴漢だよ。



「それにこの子に蹴られようとしたって許さないんだからね。僕専用なの、んっ」



いやいや、会計は一言もそんな要望出していませんから。


というか何だか鼻にかかった色っぽい声が漏れているんですけど。


やべ、ツッコんでいる場合じゃなかった。


俺、多分今危機的状況。


混乱しすぎて頭がついて行けてないから冷静に見えるけど、これでも焦っているんだからな。



「こらこら、無理強いは嫌われるからひとまず離れた方が良いんでないの?」


「大丈夫、僕と巡り会う為に生まれた脚なんだから。僕の注意を逸らした隙に手に入れようとしたって、そうはいかないよ」


「あれま、どうやら俺では無駄のようで話にならない。ということで慣れているはずの弟くん、バトンタッチ」


「え、ぼ、僕?いきなり言われても……えっと、だ、第一脚しか見てないとか失礼だよ。この子に脚以外魅力がないみたいじゃない」


「あ、本当だ」



良かった、理性が再稼動し始めたのか奇行がパタリと止んだ。


自らの意思で脚からも離れた。


でも何に対して反応したのだろう。


魅力がない、だったら流石に少しは悲しくなる。


確かめられるかなと目線だけ動かしてみれば、ばっちり合ってしまった。


何をしようとしていたのか気付かれたら恥ずかしくて、その瞬間つい勢いよく逸らしてしまう。


おい、これだと今何かしてましたと言ってるようなものだろ、俺の阿呆。



「ふあ、何だろう?耐えようとしても引き込まれちゃう。ここまで僕を惑わすなんて罪深い脚だね」


「ええっ、再燃したよ。上手くいったと思ったのに」


「弟くんでも無理か、残念無念」



自滅して悶えている間にまた書記双子兄の言動が怪しくなっていた。


素早く会計が取り押さえてくれたおかげで何とか身の危険は免れている。


けど時間の問題かもしれない。


俺の脚のせいで興奮しているということは俺が去ったら場が収まるはずだよな。


落ち着いて考え直せば、きっと俺への興味だって無くなるはずだ。


それ故にさっき冷静になれたと考えられるから。



「すみませんが、後日改めて伺います」


「そうした方が良いだろうな。了解」


「待って、せめて一回だけでもその美脚で僕を踏みにじってよ!」



というわけで会計とは書記双子兄がいない時に会おうと退散した。


うん、最後のは空耳だよな。


そしてなかったことにしたいこの出来事は今語っているように過去の話になるはずだ。


俺は心底そう願っていた。


だけどこの後、書記双子兄が俺に会うために会計をストーキングして俺に泣きつかせたり。


主に体育の授業で盗撮や乱入されたり。


無邪気さにほだされた上に油断させられて、あんな関係になったり。


現実は甘くないことを俺は存分に実感することになる。


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