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時が経って

長くならないようにと考えています。3話くらいで終わらせようかなと。

前作と併せて、楽しく読んでもらえたらいいなと思います。

シリアスな「絶望」とかはできるだけ避けるつもりです。なんだかんだで事件は起きるんですけどね(汗)


次回は12月5日の夜に更新します。

「花の買い付けにヨーロッパを周ってくる。ついでに洸にも会ってくるよ」


 と言って岬さんが日本を発ってから、もう1ヶ月になるところだった。



 *  *  *



「望、お疲れさま!!」

「お姉ちゃん、来てくれたんだ」

 私は演奏会を終えたばかりで、控え室にいた。

「今日は陽路くんと一緒じゃないの?」

「ヒロは大学の特別講師に行ってるの。『行けなくてごめん』って」

「あぁ、今日だっけ」

 陽路くんは音大の学長に頼み込まれて、月に1度、特別講師をしている。

 実は私にもその話が来ていたのだけれど、「今年は日本にいる時間があまり取れない」と言って、ありがたく断らせてもらっていた。

 陽路くんだって演奏会はあるのに、人の頼みを断れない優しさは昔からちっとも変わっていない。


 そのあと、私たちは会場近くのカフェにいた。

「望はいつ、向こうに発つの?」

「あさってにでも」

「今回はどのくらい?」

「いつもより長くなりそう。今ウィーンのオケにも誘われてて、ツアーが終わったらちょっと様子見てくる」

「そう。それで、岬さんは? 連絡とれた?」

 姉がそう言って、私は首を横に振った。

「・・・・・・そっか。岬さん、どこにいるのかなぁ」

「心配しないで。お姉ちゃんは自分のことに集中しててよ。もうすぐでしょ? 予定日」

 華奢な体つきの姉には似合わないぽこっとした膨らみが、前見たときよりも大きくなっている。

 結婚して2年。2人に宿った新たな命は、もうすぐその姿をはっきりと見せてくれる。

「無事でいてくれるといいけど」

 と姉が言った。

 無事に決まってるじゃない、とは言ったものの、それはもうすぐ出産を迎える姉に余計な心配をかけないようにしただけで、ほんとうは、私にも分からなかった。

 行ってくるね、と笑顔で言った彼は、なんだかあの日の洸のようだったから。


「じゃあね、ノンさん」と去っていった、卒業の日の洸みたいに。


 岬さんまで、私の前からいなくなってしまった。



 *  *  *


 

 飛行機に乗るのは、そんなに怖くない。

 両親の命を奪ったのが飛行機事故だからって、私は恐れを抱いてなんかいない。


 もう立ち止まらないと、決めたから。


 私は同行するプラハのオーケストラとチェコで合流し、そのまま練習に入った。

「ノゾミと一緒に演奏できるなんて、夢みたいよ」

「チケット完売だって。さすがノゾミね」

「2ヵ月なんていわずに、ずっと私たちとやりましょうよ」

 オーケストラのみんなは、すぐに私を温かく招いてくれた。

 2年前に世界コンクールで最優秀賞を獲ったことは、音楽界に私の名を広めた。そのおかげで、私は世界中のオーケストラから誘いを受けることとなった。

 先月まではイギリスで。3ヵ月後にはアメリカに行かなければならない。


 つまり、ヨーロッパにいられるのは、このツアーに参加している間だけ。

 2週間みっちり練習して、そのあと約2ヶ月は演奏会の日々。

 岬さんを探せる時間は、わずかだった。

「でも、確かにヨーロッパを周るって言ってた。なら、きっとどこかで会えるはず」

 街中に張られた演奏会のポスター。私の写真も大きく載せられている。

 岬さんなら、私に会いに来る。

 そう思っていた。


 練習の合間に、私はチェコのあらゆる花屋を回った。会えなくてもいい。来たという過去の情報だけでもあれば安心できる。

 けれど、チェコに岬さんがいたという情報は、ひとつも見つけられなかった。


「岬さん、いったいどこにいるの」


 ――無事でいてくれればいいけど。


 と言った、姉の言葉を思い出す。


 

 岬さん、もしかして、無事ではないの。



 

 


 明日から、私は2ヶ月間、ヨーロッパを周る。



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