7 おばあちゃん家のコスモス
数日後の午後。
桜広場の中央にあるコスモス畑は、すっかり秋の色に染まり始めていた。
ピンク、白、そして深いワイン色の花たちが、風に揺れている。
麻子はベンチに腰かけ、その様子をぼんやりと眺めていた。
(きれいだな……)
ふと、人の気配を感じて顔を上げる。
広場の入口から、小さな男の子が一人、ゆっくりと歩いてきていた。
「……あ」
思わず声が漏れる。
戸村陸だった。
陸はコスモス畑の前で立ち止まり、じっと花を見つめている。
まるで、何かを思い出そうとしているように。
麻子は少し迷ったが、やがて立ち上がり、ゆっくりと近づいた。
「陸くん」
声をかけると、陸はびくっと肩を揺らした。
「……あ」
振り返った顔は、少しだけ驚いていて、でもどこか安心したようにも見えた。
「どうしたの? 一人で」
麻子はやわらかく笑う。
陸は視線を落とし、靴の先で地面をこすった。
「……暇で」
小さな声。
でも、それだけじゃないことは分かった。
麻子は何も追及せず、そのまま陸の隣に並んで座った。
「このコスモス、きれいだね」
そう言って、花の方を見る。
陸もつられるように顔を上げた。
しばらく、二人で無言のままコスモスを見ていた。
風が吹き、細い茎が一斉に揺れる。
そのとき、陸がぽつりと言った。
「……前も、あった」
「え?」
「コスモス」
陸は少しだけ目を細めた。
「おばあちゃんの家に」
麻子は黙って続きを待つ。
「庭のはじっこに、ちょっとだけあって……」
陸の声は、どこか遠くを見ているようだった。
「父さんが元気なとき、よく行ってて」
そこで一度、言葉が止まる。
風の音だけが流れた。
「……それで」
「うん」
「ここ、似てるから」
陸は小さくうなずいた。
麻子は何も言わず、ただ一緒にコスモスを見た。
無理に励ます必要はないと、なんとなく分かった。
しばらくして、麻子がふと聞いた。
「陸くんは、どんな花が好き?」
陸は少し考えてから答える。
「……ひまわり」
「ひまわりか」
麻子はくすっと笑った。
「夏の花だね。元気で、太陽みたいで」
陸はその言葉を聞いて、ほんの少しだけ笑った。
さっきまでよりも、ずっと自然な表情だった。
そのときだった。
広場の入口から、見慣れた人影が入ってくる。
真司だった。
(あ……)
真司はすぐに麻子と陸に気づいたが、声はかけなかった。
少し離れたベンチに座る。
二人の様子を、静かに見守る。
陸は、さっきよりもはっきりと笑っていた。
麻子が何かを話し、陸がそれに小さく返している。
そのやり取りは、とても自然だった。
真司は、ふと思い出す。
あの日、聞いた言葉。
(君が彼にかけた言葉は――)
胸の奥で、続きが静かに響く。
(彼にとっての、光になるかもしれない)
真司は小さく息を吐いた。
完璧に何かを解決することなんて、できない。
でも――
(こういうのも、ありなんだな)
陸はもう、一人でコスモスを見てはいなかった。
その事実だけで、十分だった。
秋の風が、三人のいる広場をやさしく通り抜けていった。
この回はほぼAIです。
陸の父方の祖母の家のコスモスのアイデアを出しましたが。




