4 透明人間の告白
シーサイドタウンから帰ってきた戸村陸は、自室のベッドで名探偵ドイルのページをめくったが頭に入らなかった。
自分はドイルとは全く逆のことをしてしまった。今から思い返すと自分がしそうになったことが怖ろしくなった。あのお兄ちゃんが腕をつかんでくれて良かったと思った。
「僕は透明人間だから、」
陸は、思わず真司に言ってしまった言葉を思い出した。僕はどうして知らないお兄ちゃんにあんなことを言ってしまったんだろう。
そう、それは、かあさんがあんなだから。かあさんは僕を大学まで行かせるために、1人で働いて頑張っている。
とうさんが病気で亡くなったから仕方がないけど。 でも、僕は将来大学に行くことよりも、今、かあさんに僕が一日、学校であったことや僕が好きなことをもっと一緒に話したい。
お母さんは家に帰ってきたら、食事を作ってくれるけど、さっさと食べて、後は、携帯を触っている。僕が話しかけても、上の空で生返事ばかり。
僕が話しかけても、上の空で生返事ばかり。
「うん」「そう」「あとでね」——それだけ。
陸は本を閉じて、天井を見上げた。
白い天井には、小さな染みがひとつあった。前から気づいていたはずなのに、今日はやけにはっきり見える。
家の中は静かだった。まだ母は仕事から帰っていない。
時計の針の音だけが、やけに大きく響いている。
学校では、ちゃんと席に座っている。授業も受けている。先生に怒られることもない。だけど——誰かに必要とされている感じがしない。
クラスメイトの笑い声の中でも、自分だけ少し外側にいる気がする。
だから、あの店で。
ほんの少しだけ、手を伸ばせば。
誰にも気づかれずに何かを持って帰れたら、自分が本当に「存在している」って証明できる気がした。
「……最低だ」
陸は小さくつぶやいた。
あのお兄ちゃん——真司の顔が浮かぶ。
怒鳴らなかった。責めもしなかった。ただ、腕をつかんで止めただけだった。
その手は強かったのに、不思議と怖くなかった。
『それ、本当に欲しいのか?』
あの時の言葉が、胸の奥で何度も繰り返される。
欲しかったわけじゃない。
ただ、誰かに気づいてほしかっただけだ。
陸は枕に顔をうずめた。
「僕は……透明人間なんかじゃないのかな」
声に出してみると、少しだけ涙がにじんだ。
そのとき、玄関のドアが開く音がした。
「ただいま」
母の疲れた声だった。
陸は急いで目をこすり、起き上がる。
「おかえり」
そう言って部屋を出ると、母は制服のままキッチンに立っていた。肩が少し下がっていて、今日も疲れているのが分かる。
「今日、学校どうだった?」
いつもの質問。いつもの調子。
陸は一瞬、答えに迷った。
本当は話したいことが山ほどある。怖かったことも、恥ずかしかったことも、止めてくれた人がいたことも。
だけど言葉は喉の奥で止まった。
「……普通」
結局、いつもの答えになってしまう。
母は「そっか」とだけ言って、冷蔵庫を開けた。
その背中を見ながら、陸は思った。
——僕も、かあさんも、きっと余裕がないんだ。
誰も悪くないのに、誰にも届かない。
陸はテーブルの椅子に座り、ぽつりと言った。
「ねえ、かあさん」
母が振り向く。
「なに?」
少しだけ迷ってから、陸は続けた。
「今度……時間あるときでいいからさ。一緒に、どこか行かない?」
母は驚いた顔をしたあと、少しだけ笑った。
「急にどうしたの?」
「……なんとなく」
しばらく沈黙があった。
フライパンに火がつく音が、小さく響く。
「うん。休み、合わせてみるね」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわり温かくなった。
透明人間じゃない。
ちゃんと、聞こえている。
ちゃんと、届いている。
陸はふと、本棚の方を振り返った。
名探偵ドイルの本が、静かにそこにあった。
——次にあのお兄ちゃんに会ったら、ちゃんと話してみよう。
そう思いながら、陸は久しぶりに少しだけ軽い気持ちで椅子にもたれた。
この回は、
ーー上の空で生返事ばかり。
まで、自力で書きました。
その続きはAIです。




