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桜広場イレギュラーズー麻子と真司のその後ー  作者: 村松希美


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3/4

3 万引き少年





 9月初めの祝日。この日、麻子と真司は夏目刑事を伴って、リサイクルショップにモリアーティの例の品々を売りに行く約束をしていた。


 約束の時間に、夏目刑事が車を桜広場脇の道路に停めていた。真司と麻子はそれぞれ例の品々を押し入れから引き出し、夏目刑事の車に集まった。


「時間ビッタリ」

 車の側に立っていた夏目刑事は腕時計を眺めて感心したように2人を眺めた。

 

「モリアーティが持ち帰ったって、これらか?」

 夏目刑事は2人の紙袋を見た。


 真司と麻子はそれぞれ紙袋から現代日本の文明の利器を取り出した。真司はノートパソコン、麻子は携帯というように。


「ホントだ。これは米田電器とかで売ってるものだよ。君たち中学生が買える訳ないし、ご両親のを持ってきたら騒がれるだろうし。モリアーティ、ホームズ、ロンドン。君たちの話は本当なんだ」

 夏目刑事は麻子が差し出した携帯を眺めながら言った。


「よし、車に乗って」

 麻子と真司は文明の利器を紙袋にしまうと後部座席に乗った。助手席には相変わらず新聞をおいていた。


 リサイクルショップに着くと、真司は査定を夏目刑事と麻子に任せて、店内を回った。


 外国人客が多いノトコー市場の中古電器店と違い、中学生でも、品物が見やすかった。ノトコー市場の中古電器店は陳列されているというよりも、空いている場所に無造作に置かれているような感じだった。今日のリサイクルショップは、中古なりに、ちゃんと家電別に分けて陳列されている。


 真司はMD.やオーディオのコーナーで足を止めた。真司のポータブルMD.が壊れかけていたので見てみようと思った。新品を買ったら良いのだが、中学生の小遣いでは買えるものが限られてくる。


 中古品の中にはそんなに使用されていなくても、新しいデザインが出たからと買いかえる人たちが売った品もある。上手くそういう品を見つけたら得したことになる。


 真司がMD.を眺めていると、そこに、小学生くらいの男の子が現れた。5年生くらいだろうか。男の子体格や顔つきから真司はホームズのように推察した。


 男の子はむしゃくしゃしていたようだった。オーディオコーナーに小学生が珍しいなと思って真司かじっと見ていたら、男の子は青色のポータブルMDを手に取ってズボンのポケットに入れようとしていた。


 男の子がMDをポケットに押し込む前に、真司は思わず男の子の右手首をつかんだ。


「痛い!」男の子は驚いたような、でも手首も痛かったので、顔をしかめていた。

瞳は悲しみと怯えの色をしていた。


「何があったか分からないけど、お前がしていることは万引きだよ」真司は悪いことを叱責するというよりも諭すように言った。


「わかってるよ。でも僕が何をしても誰も何とも思わないよ」


「父ちゃんと母ちゃんが悲しむだろう」

 真司は中学生が思いつきそうなことを口にした。


「父さんと母さん?なおさら何も言わないよ。僕は透明人間だから」


「透明人間?」真司は怪訝な顔をした。俺にはこの男の子が見えてるぞ! もしかして、そういう例え?真司は思い当たることを想像した。

 

「どうしたんだ?」

 真司がその声に振り返ると、夏目刑事とその後ろに麻子がいた。

「夏目刑事!」

 真司は思わず夏目刑事と声をあげた。

「刑事さん?」

 さっきの男の子が夏目刑事の顔をオドオドと見上げた。


「僕を逮捕するんだ」

 男の子は観念したように声を落とした。

「何のことだい?」

 夏目刑事は状況が解らず真司に訊ねた。真司は、この男の子が万引きしようとしたことを今告げても良いかどうかためらった。


 そうこうしていると、察しが良い夏目刑事が、

「ははん、でき心というやつか?」とこの男の子を見た。

「35番の方、精算カウンターまでお越しください」

 店内アナウンスが流れた。夏目刑事は、

「ちょっと、行ってくる。その子を店の外に連れて行ってくれるかい。君たちも外で待っていてくれ」

 と、真司と麻子と男の子を見ると精算カウンターの方に行ってしまった。


 出入り口の外のスペースで、真司と麻子とその男の子はつっ立っていた。男の子は自分はこれからどうなるのだろうと心配でキョトキョトしていた。麻子は状況がよく分からなかったが、その男の子に、

「何年生?名前は何ていうの?」

と、少し屈んでその男の子に視線を合わせて聞いてみた。


 男の子は、麻子に見つめられたので、急に下を向き、耳を真っ赤にして、

「戸村陸」

 と名乗った。真司がその様子を見て、

「おい、おい、惚れるなよ。麻子は俺の彼女なんだから」

 と微笑えんだ。真司は内心、最近、俺はこんなことばかり言っているなと、面映ゆくなった。男の子が口を開いた。


「とむら、戸村陸。4年生」

「へえ、陸くんっていうんだ。私は二宮麻子。このお兄ちゃんは、仁川真司くん」


「陸っていうからには足が速いのかな? 私たちもうすぐ運動会があって、リレーに出なきゃならないの。私は遅くて、、、」


 へえっ、麻子って、子どもとこんなにすらすら話すんだ。真司は内心感心しながら聞いていた。子どもといっても5才くらいしか変わらない。


「僕、足は早いよ、お姉ちゃん、じゃあ!」

 と、陸は素早くセンター街の中に溶け込んで姿が見えなくなった。


「何なんだ、あいつ?」

 真司は陸が急に逃げたので、面食らった。別にどうこうするつもりはなかったが、みんなで陸の話くらい聞こうと思っていた。

「私があんなこと言わなきゃ。」

 麻子も動揺して真司を見た。

「麻子のせいじゃないよ」


 そこに精算を終えた夏目刑事がやってきた。

「おや、あの坊やは?」

「逃げられた」真司が言った。

「あの坊やは万引きしようとしていたんだろう?」

 夏目刑事がすかさず言った。

「もうわかったんですか?」

 真司は流石は刑事さんだと感心した。

「そりゃ、刑事だからな。でも、逃げられたな」


 夏目刑事は休日のセンター街の人混みを見渡した。

「あのくらいの男の子が万引きするとしたら、家で親に甘えられていないとかだな」

「そうなんですか」

 真司と麻子はうなずいた。3人は、人が多いセンター街を早く抜けようと早足で歩いた。


「あそこの喫茶店に入らないかい?」

 センター街を抜けたところで、夏目刑事が言った。

 「その前に、モリアーティの家電はいくらで売れました?」

 真司が聞いた。


「ジャスト3000円」

「意外と少ないんですね」

 真司が少しがっかりしたように言った。

 夏目刑事が千円札3枚をズボンのポケットから2人の前に差し出した。


「このお金、どうするんだい?」

「こうするのさ」

 真司はそういうと、センター街の入り口の辺りで盲導犬の募金活動をしていた女子大生くらいのお姉さんが持っていた募金箱に3000円をすべて投入した。


 女子大生くらいのお姉さんは驚いた顔で真司を見た。真司はお姉さんに小さく手をあげて、夏目刑事と麻子のところに戻った。


「潔いな」

夏目刑事が拍手した。


「だって、モリアーティの盗品だし、今さら盗んだ店もわからないし、そんなお金を遣ったら気持ち悪いや」

 

「私も真司に賛成」

 麻子も微笑んで同意した。


「そういうものかな。社会で揉まれたお兄さんとしては、ちょっと惜しい気もするが。ファミレスで今日の昼食代、充分に出たよ」


「中学生の夢を壊さないでください。刑事さんって、もっと豪快に事件を解決して、何というか、子どもたちの憧れですよ」


 真司がと両腕を中程まであげて、やれやれのポーズをした。


「君は確か探偵になりたいって言っていたね。その話をこの店でジュースでも飲みながらで聞こうか


 3人はセンター街東出入口近くにある喫茶店の前まで来ていた。


 喫茶店の中に入ると、日曜日なので込んでいたが、奇跡的に、角のテーブルが1つ空いていた。4人掛けだったので、3人はそこに座った。


 夏目刑事がメニューを見て、麻子に話しかけた。

「麻子ちゃんはケーキセットにするだろう?」

「はい。ケーキセットは大好きです」

「今日は僕がごちそうするよ」

夏目刑事が2人を見て微笑んだ。


「じゃあ、俺は、、、」

 真司が言いかけたら、夏目刑事が、制して、

「真司君はアイスレモンティーだけだろう?」

 と言った。


「え~、どうして?麻子はケーキセットなのに。俺は食べたらダメなんですか?」

「さっきの君の失言のお返しさ。何てね。食べても良いよ」


「何だよ~」

「真司君もケーキセットかい?」

「いいえ、僕は甘いものは苦手なので、サンドイッチにするよ」


 夏目刑事は2人のオーダーをウェイトレスに言い、自分はコーヒーを注文した。


 注文を取ったウェイトレスが去って行くと、夏目刑事は、

「さて、真司君の夢は探偵になることだったな」

 と、さっきの続きに入った。


「そうです。俺の憧れはホームズさん。と言うか」

 真司は本の登場人物にさんをつけるのも変かな?と思い直したが、夏目刑事にはあらかじめのことを言っていたので、いいかと思った。


「誰だって、ホームズのようになりたいと思うな。犯人逮捕の仕事をしていたら。真司君は、さっきの坊やのことを観て、何がわかった?」


「そういえば、家では透明人間って言ってた」

 真司はその男の子がそう言った時の思い詰めたような悲しそうな表情を思い出した。

「どういうことですか?」

 真司が夏目刑事に訊ねた。

「両親の仕事が忙しいとかで、その男の子は構ってもらえていないということかもな」


 真司と麻子は両親のそういう状態を想像できなかった。真司は母親に頼りにされているという感じだったし、麻子はお父さんもお母さんからいつも温かく見守られていると感じているからだ。


「どういう感じか俺にはわからないけど、寂しいだろうなアイツ」

「ネグレクトかも知れないな」

「ネグレクト?」

「親が育児放棄することさ。君たちにはまだ、荷が重いかも知れないが、あの坊やに会ったら、優しくしてやってくれ」


 真司と麻子は、夏目刑事に言われるまでもなくそうするつもりだったが、また出会えるかどうかも分からなかった。


 3人の注文の品が運ばれてくると、みんな黙々とそれらを食べた。







新キャラ戸村陸の登場です。


この回もAIなしで自力で書きました。

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