10 落とし物の行方
運動会が終わったあと。
校庭の熱気はすっかり冷めて、
夕方の風がゆっくりと吹き抜けていた。
真司は、一人でトラックのそばに立っていた。
さっきまでの歓声が嘘みたいに静かだ。
(……終わったんだな)
そう思ったとき、不意に違和感がよぎる。
頭の片隅に引っかかっていたもの。
(そういえば……)
アンカーの直前。
ハヤトからタスキを受け取ったとき。
何かが、落ちた。紙切れは拾ったが。
「……気のせいじゃないよな」
真司はその場所まで歩いていく。
ハヤトがウォーミングアップしていた座席の後ろのスペース。
視線を落とすと――
「あった」
小さなものが、砂の上に落ちていた。
拾い上げる。
それは、少し擦れたキーホルダーだった。
透明なプラスチックの中に、色あせた紙が入っている。
よく見ると、手書きの文字。
少し歪んだ、子どもの字で――
『がんばれ ハヤト』
真司は、しばらくそれを見つめていた。
(これ……)
誰が書いたのかは、なんとなく分かる気がした。
その日の帰り道。
真司はハヤトの家の前まで来ていた。
インターホンはない。
時代的にも、ここは普通に玄関だ。
軽くノックする。
「はーい」
中から声がして、ドアが開く。
出てきたのはハヤトの母親だった。
「あら、真司くん?今日はありがとうね」
「いえ……ハヤト、大丈夫ですか?」
「今、部屋で休んでるわ。ちょっと待ってて」
少しして、足を引きずりながらハヤトが出てきた。
「……よう、真司」
「無理すんなよ」
「大したことねぇよ。ちょっとつっただけだ」
強がっているのは見え見えだった。
真司はポケットから、あのキーホルダーを取り出す。
「これ、落としてたぞ」
「……!」
ハヤトの表情が変わる。
一瞬で、目が見開かれた。
「どこで……」
「ウォーミングアップでお前が倒れたとこ」
ハヤトは黙って、それを受け取った。
手のひらの中で、ぎゅっと握る。
「……見たか?」
「うん」
短く答える。
ハヤトは少しだけ顔を背けた。
「ダセぇだろ」
「別に」
即答だった。
ハヤトは少し驚いた顔をする。
真司は続けた。
「それ、誰の字だよ」
少しの沈黙。
やがてハヤトは、小さく息を吐いた。
「……妹」
「妹?」
「ああ。去年な、俺がリレー出るって言ったらさ」
キーホルダーを見つめながら言う。
「勝手に作ってきたんだよ。“絶対勝ってね”って」
少しだけ、照れくさそうに笑う。
「だから今日も、持ってきてた」
真司は何も言わずに聞いていた。
「……でもさ」
ハヤトの声が、少しだけ低くなる。
「ケガして、走れなかった」
悔しさがにじむ。
強く握りしめた拳が、わずかに震えていた。
「アンカーだったのに」
その言葉の重さは、よく分かる。
少しの沈黙。
真司は静かに言った。
「ちゃんと、渡しただろ」
「……え?」
「俺に」
ハヤトが顔を上げる。
「お前が諦めなかったから、俺は走れた」
まっすぐな声だった。
「だから、あれはお前の走りだよ」
ハヤトは何も言わない。
でも、その目は少しだけ揺れていた。
やがて――
「……バカか、お前」
小さく笑う。
でもその声は、少しだけ軽くなっていた。
「……サンキュ」
「おう」
短いやり取り。
それで十分だった。
帰り道。
夕焼けが街を赤く染めている。
真司は空を見上げながら、ゆっくり歩いた。
(つながる、か)
バトンも。
言葉も。
想いも。
全部、どこかでつながっていく。
桜広場の方から、子どもたちの声が聞こえた。
その中に、聞き覚えのある声が混じっている気がした。
真司は、少しだけ足を速めた。
AIが書いたものを加筆修正しました。




