9日目①
本日、第1学年1学期期末テストが終わった。
クラスのみんなは開放感からか最後のテストが終わったすぐに奇声ともとれる歓声をあげた。
もちろん私もその中の一人……ことは当然なく、ただ陽華との点数勝負がどうなるのだろうかと思っていた。
手ごたえとしては悪くないが、手ごたえがどうであれ、陽華に負けていては意味がない。陽華に命令されるというのも悪くはないが、人間、勝負事には勝ちたいものだ。
テストが終わった日には謎の週1回参加義務のある部活動が再開する。
テストが終わった日ではなく、翌日にしてくれれば今日という日を満足に楽しめるものを…。
そんなわけで、文芸部部室。
私は自分のカバンから本を取り出し、読書を始める。
最近はテスト一週間前ということで学校で本を読んでいなかったので懐かしい気持ちがわいてくるような気がする。…少し前に図書室で読もうと思ったときは集中できずにいたせいで(おかげ?)、私の先輩への気持ちを自覚してしまうということもあったため余計にそう感じるのだろう。
ガチャガチャ。ガチャガチャ。
なんだろう、今日は普段と違って騒がしいな。
私は音のする方をむいてみる。すると、
「立直!」
いつも三人で集まっている女子生徒らが机を四つ使い、向かい合わせになるように配置しているのがわかる。しかし、彼女らが何をしているかを視覚情報で判断することはかなわない。
まあ、さっきの発声でなにをしているのかは何らかのボードゲームだろうと予想はつく。
「ポン」
ああ、麻雀か。立直だけではオセロかもしれないと思ったが、ポンというゲームを私は麻雀以外に知らない。
……流局したらしい。また牌をガチャガチャする音が聞こえてきた。
あ、目が合った。
「へい、そこの彼女!一緒に麻雀しないか!」
目をつけられてしまった。私に目をつける先輩はもう間に合っているのだ。
ここは私に言ったことに気が付いていない体でいこう。
「無視はないんじゃないかなぁ!」
「気付いてないのかもしれないでしょ。
そこの1年生のきみ、よかったら一緒にやらない?」
1年生とはこの部では私のことを指す。私以外に1年生がいないから。
なので、気づいてない振りはさすがに通らない。
「遠慮しておきます」
「一緒やろうよー。三麻はもう飽きたんだよー。」
この先輩すごい絡んでくるな。将来酔っぱらったらうざ絡みするタイプだろう。
「ほら、アメちゃんあるよー。一緒にやってくれたらあげるよー」
誘い方下手すぎないか?アメちゃんて。ここは大阪でもないし、大阪だったとしてもアメを配るような年齢でもないだろ。
「1回だけでいいからさ、どう?楽しいと思うよ?」
こっちの先輩はなんか、あのグループのまとめ役って感じだ。
…もう1人の先輩あの中じゃ一番派手な格好してる割に発言がまったくない。
よし、あの人をうまいこと言い訳にして乗り切ろう。
「そこの先輩はあまり乗り気じゃなさそうだし、やっぱり迷惑かなーって思うので3人で楽しんでください」
「わたしもこいつらも気にするタイプじゃないから遠慮せずに参加してよ」
「…一局だけで勘弁してくれるなら…」
くそ!押しに弱すぎる!
「1年生、名前はなんて言うの?」
「凪沙です」
あ、日菜っていえば良かったかな。
まあ言ってしまったことは仕方がない。この人らに知られたところで何ら問題はないだろう。
「よし、凪沙ちゃん!ルールは〇魂と一緒だよ!」
〇魂知ってるんだ。意外だな。
「わかりました。一局だけですからね」
…あ、ルール知らないって言ったらよかったな。
☆☆☆
ついに今日がテスト返却日だ。
今日の放課後、陽華の家で点数を互いに明かし、その場で敗者は勝者からの罰ゲームを執行される。
ちなみに私の点数は82点だった。悪くはないが、陽華に勝つには少々不安が残る点数だ。
勝敗がどうなるのかは放課後の楽しみにしておいて、今は先輩が赤点をとっていないかが気になる。
一応、数学は私が多少教えたため数学で赤点を取っていたら少し責任を感じてしまいそうだ。
「日菜ちゃんおまたせー。テスト全部返ってきたよ」
「早速ですけど、赤点とってないですよね?」
「赤点なかったよ。日菜ちゃんに数学教えてもらったおかげだね」
私のおかげだなんて…。うれしいことを言ってくれるじゃないか。
「それは良かったです…。それで、その…」
「ん?どうしたの?」
先輩への気持ちを自覚した翌日ぐらいに、先輩が赤点をとらなかったら先輩とどこか遊びに誘おうと思っていたが、いざ口にするとなると緊張する。
物語を読んでいるときは、一緒に遊ぼうぐらいとっとと言えばいいのにと思っていたが、今は彼ら彼女らに謝罪したい気持ちでいっぱいだ。
好きな人を遊びに誘うのはこんなにも緊張するものだなんて知らなかった。知る由もなかった。
「そのですね…先輩が赤点をとらなかった記念に一緒に遊びに行きませんか…?」
よし!言ったぞ!緊張に勝ったんだ!
「えぇっ!日菜ちゃんが、私を遊びに誘ってくれるなんて…!
私日菜ちゃんに絡みすぎて嫌われてないかなとか思ってたから、なんか、すごいうれしい」
「私が先輩を嫌いになることはちょっと前の私からはないですよ…。
それは…オッケーってことでいいんですか…?」
「もちろん!それで、いつ、どこで遊ぶ?いやー、うれしいなぁ、うへへ」
なんか変な笑い声が聞こえた気がするのは気のせいだろう。
「今週末はどうですか?場所はショッピングモールでいろいろ見て回ったり…とか」
「了解!じゃあ、今週の土曜日にしよ!」
「時間どうします?昼ぐらいからが私的にはちょうどいいんですけど」
「11時に…現地集合で!日菜ちゃんもそれでいいよね?」
「それでいいです」
≪キーンコーンカーンコーン≫
「予鈴もなったことだし、戻ろうか。また土曜日に会おうね」
「はい、またこんど」
あ、服どうしよう。
せっかく先輩と遊び、もといデートに行くのに適当な服だと先輩に私をちゃんと女として見てもらえるかわからないな…。
よし、陽華に勝負で勝った時の罰ゲームは服を見繕ってもらうことにしよう。
もし負けても頼んでみよう。ちょくちょく私のことかわいいとかなんとか言ってるから私を着せ替え人形にできて陽華もうれしいだろう。
かわいいと思っている女の子を着せ替え人形にしたいものだとアニメで学んだから間違いない。
☆☆☆
先輩を遊び、もといデートに誘った日のの放課後。
つまり、陽華の”家”に行く時間になったわけだ。興奮が抑えられない。
女子高生2人、何も起きないはずがなく…。
みんなのアイドル(妄想)の陽華の家に行くことが出来るだなんてなんという僥倖。
しかもそこでなにかを陽華させることができる。また、なにかをさせてもらえることが確定していて興奮を抑えられるはずがない。
陽華に「結果発表は私の家でやろう」と言われたときは本当にうれしかった。陽華に感謝だ。
「凪沙、行こ」
自分の席で時間を忘れていたら陽華が迎えに来てくれた。うれしい。
「うん。陽華の家に行こう」
「凪沙的に今回のテストの結果はどうだった?」
「まあまあだよ。でも英語の結果はいいから今からどんな事することになるのか考えといて」
英語がイイ感じなのは嘘だ。やはり陽華に勝つための点数としては不安が残る。
だが、それを今陽華に悟られるのはイヤだ。
「陽華はどんな感じなの?」
「総合は私もまあまあ。でも、英語はどんなこともさせれない自信がある点数だよ。」
そんなに自信があるのか…。私のほうが何をさせられるのか考えておいた方がいいかもな…。
「とーちゃーく。ようこそ我が家へ」
ここがこの女のハウスか。何回か来たことはあるが、やはり何度来てもドキドキする。
「おじゃましまーす」
「私の部屋で待ってて。飲み物持ってくから」
「はーい」
陽華の部屋で陽華を待ってる間にすることといえばもちろん深呼吸だ。深い意味はない。
そんなに時間がたたないうちに陽華が飲み物を持ってきてくれた。ザクロジュースだ。
陽華の飲み物のチョイスはなんだか毎回変というと語弊があるが、メジャーではないものが多い。
「早速点数開示といこうか」
「よし、覚悟の準備は出来てるね?」
お互いにカバンから解答用紙を取り出し、ちゃぶ台の上に裏返しで置く。
「じゃあ、せーのでめくるね。じゃあ、」
「「せーのっ!」」
私:82点 陽華:96点
「やったっ!」
負けた。完敗だ。10点以上も差が開いている。
「ちょっと待って。たしか先生が言ってた学年最高点数って──」
「そう!96点!私が学年1位なのだ!」
来る途中での発言がひどく恥ずかしくなってくる。
「負けた凪沙に何してもらおうかなぁ」
「ご容赦くださいませぇ。私と陽華の仲じゃないですかぁ」
「こないださんざんおちょくられたから容赦しないよ」
くっ、あの時のことか。こんなことになるなら調子に乗らなければよかった。
「じゃあ、引き延ばしもこのくらいにして罰ゲームの内容を言おうかな。
内容は──」
内容は?
「──凪沙に私のことをだっこしてもらいます。持ち上げれなかったら追加でもう一個あるからね」
だっこ?想定よりもだいぶぬるいな。それよりも──
「追加って何!?そんなのあり!?」
「勝てば官軍負ければ賊軍、だよ凪沙。勝者は何をしてもいいの」
「あんまりだぁ」
「はい、じゃあだっこして?」
「わかったよ。持ち上げたらいいんでしょ…」
早速私は陽華の腰のあたりに腕を回して力を込める。
陽華の腰は私の想定よりも細く、そして運動部の高校生らしくがっしりとしていた。
「じゃあ、いくよ」
足の力も使うために屈んでいるせいもあるが、もとの身長差からさらに差が開いているように感じられて、『見降ろされてる感』が増している。
「うん、いいよ。きて?」
見上げた陽華の顔は少し上気している様に見えた。
そして私と目を合わせるために顔を下げた時に陽華の長髪が目の前に降りてきた。視界には陽華を構成しているものしかない。
陽華の腰に回した腕と下半身に力を込め、陽華を持ち上げる体勢にはいる。
「んっ」
腰に圧力がかかり、当然のように陽華の口から声が漏れる。
それを私は気にせずにさらに力を込める。
ささやかな仕返しというやつだ。
さらに漏れたような気がするが気のせいだろう。もし辛ければ陽華も私を止めるだろう。
それがないうちはまだ平気なのだと私は解釈する。
♡♡♡
凪沙が力を込めた瞬間、声が漏れた。
そして凪沙が私のほうを向く。
私も凪沙のほうを見下ろす形で見る。
瞬間、少し浮いた感じがした。
それは一瞬のことだったろう。浮遊感なんてものを感じる暇もないほどの一瞬。
しかし凪沙に抱き上げられたのだという確信はある。
凪沙の腕は私の腰から離れようとしている。
「陽華?」
私は凪沙の腕をつかみ、さっきまでの位置に持っていく。
心残りのせいだろうか。
凪沙の顔には疑問符が浮かんでいる。
そして私はこう嘯く。
「持ち上げた?私凪沙が力込めてる感じしかしなかったよ」
「え?ちょっとだったけど持ち上げたよ?」
「ほんと?確信が持てないからもう一回いい?」
「でも…」
「おねがい」
コクリ。凪沙がうなずく。
昔から頼めば凪沙は言う通りにしてくれる。押しに弱いのだ。
私は都合よく凪沙の性質を利用している。悪い女だ。
だが、この行為を裁く法律もなければ、人もいない。いるのは私たち2人だけなのだから。
すると、心地よい圧迫感が再び私の腰に与えられる。
1回目のように凪沙からの声掛けはない。凪沙は感づいているのだろうか。それでささやかな抵抗なのだろうか。
どうでもいい。今重要なのは凪沙がこうしてくれているという事実のみだ。
そして、浮く。
さっきよりは長い時間浮いていただろうか。ほとんど変わらない程の時間だったが、これ以上のおねがいは良くない気がする。
「浮いたね」
「浮かしたよ」
「…ふぅ。ちょっとトイレ行ってくるね」
何か言いたげな凪沙を置いて私はトイレに向かう。
トイレのドアを開け、服をあげ、さっきまで凪沙の腕が回されていた腰に触れる。
そこは少し赤くなっていて、凪沙の腕があったのだという実感がわいてくる。
トイレから出る。
そして、凪沙を感じながら凪沙のいる私の部屋へと戻る。




