5日目
週末。金曜日。
いやでもテンションが上がってしまう。毎週金曜日は陽華の部活がオフだ。
つまり、一緒に帰ることが出来る。
しかし、昼の陽華はオフではない。今日も図書室だ。
図書室に着くと先輩は既に来ていた。
「あっ!日菜ちゃん来た!待ったよー」
「待ったって…。私ご飯食べてすぐ来ましたよ。先輩、ご飯食べました?」
「食べた食べた。まあ、私のクラスのほうが図書室に近いからね。私のほうが早いのは当然だよ。」
「じゃあ、待ったなんて言わないでください…。」
ちなみに、今日私は本を持ってきていない。どうせ先輩が来ているため、本なんて読めないだろう、と思ったのだ。
「あれ、今日は本持ってないじゃん。読書の邪魔して悪かったねー」
案の定先輩にきずかれた。あと、悪いと思っている人の言い方とは思えない。そんな楽しそうに言わないでほしい。
「イイですよ。先輩と話すのも結構楽しいので。読書の代わりのいい暇つぶしになってます。」
「そっかー。楽しいかー。うれしいねー。」
「そうですか。」
なんか今までと比べて一段とうざい。でも、うざいと思っているのを先輩にバレたらそれこそ面倒なので、顔には出さないよう、注意する。
「さて、昨日のラインで、私たちはお互いに知らないとこが多いというのが判明したので、今日は理解を深めるような会話をしようと思います。
それでは、まず趣味を聞こうかな。」
趣味か。真っ先に出てくるのは陽華のことだが、これは趣味ではない。
「読書です。ラノベから文学作品までいろいろ読みます。」
「ラノベとか読むんだ。てっきり、明治とか大正の本しか読まないタイプの人かと思ってた。」
そんな人はいない。…と思う。いたとしたら、相当な変人だろう。
…変人…イイな。そう言ったら良かったかも…。
いやいや、小市民的ではない。さっきの私の回答でいいのだ。奇を衒うなよ、私。
「先輩は?」
少し悩むようにして、
「お出かけかな。休日とか色んなお店屋さん冷やかしに行ってるよ。ウィンドウショッピングってやつ。」
暇人か?休日はもっと有意義に使ったほうがいいと思う。
「へえ、そうなんですね。どんな店に行くんですか?」
我ながらグッドコミュニケーション。今日は調子がいいかもしれない。
これなら、仮にクラスメイトに話しかけられてもキョドらず、会話できるかもしれない。
「いざ聞かれると難しいな。ホントに気の赴くままにだよ。感覚としては冷やかしというより散歩に近いかもしれないね。」
散歩か。なるほど。こういっちゃ悪いが、老後のおばあちゃんみたいだ。
顔からは想像も出来ないような趣味だ。冷やかしのほうがリアリティがある。
「そういえば、日菜ちゃん文芸部だったよね。今ってどんな感じなの?去年からなんか変わってるかな。」
「それ、私じゃなくて先輩の友人に聞いたほうが良くないですか?私、去年までの雰囲気とか知りませんよ。」
「それもそうか。日菜ちゃん、一年生だもんね。ごめんごめん」
私が一年生なの忘れてたのか?そんなわけないか。
「話を戻して。休日といえば、日菜ちゃんは何してるの?」
「休日はアニメ見たり、動画見たり、勉強したりしてます。先輩ってアニメとか見ます?」
おっと、アニメの話題になってしまうかもしれない。そうなったら私の中のオタクを出さないように気を付けよう。
「アニメはねえ、有名なのは見るよ。積極的にはあんまり見ないかな。
そんなことより、勉強してるの!?やっぱ特進クラスだと宿題も多いのかな?」
アニメの話題にならなかったのはいいとして、そこか。
「個人的には少ないと思いますよ。まあ、やらずに提出日になることはちょくちょくありますけど。」
「不良だね、日菜ちゃん。先生怒らないの?」
不良とは失敬な。それに先輩のような成りの人にはいわれたくない。
「良くも悪くも教科担任が結構放任主義っぽいんですよ。なので、今のところは何もいわれてません。」
「いいなぁ。私のとこの先生なんてほぼ毎授業で宿題出す人もいるぐらいなのに。変わってほしいなぁ。じゃあ、宿題無いならなんの勉強してるの?」
「数学とか物理の予習です。」
「へえ、やっぱ理系なんだねえ。私文系だから数学とかむりー。ん?予習する必要があるってことは苦手なのかな?」
「いや、苦手ではないです。むしろ得意。」
「これ、初日にも聞いたな。デジャヴってやつだ。なら、それこそなんで?」
この人の頭の中にはしたくてしてるっていう人は存在していないのか?それならば、教えてやるのが世の情け…。
「したくてしてるんです。数学と物理って面白いじゃないですか。」
鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている。そんなに理解し難いことか?
「私には理解できない感覚だぁ。これが特進クラスとの意識の差?」
「そんなことないと思いますけど。先輩のクラスにも大なり小なり私みたいな人いないんですか?歴史が好きな人とか。」
「いないね、断言できる。」
なぜそこで自慢げな顔が出来る。それに、さすがに嘘だろう。先輩の目に入ってないだけに違いない。
そんなこんなしているうちに予鈴が鳴り、私たちはそれぞれの教室に戻り、私は自分の席に着く。
それにしても、今日はイイ感じだ。さあクラスメイトよ、どんとこい。
「酒々井さん、ちょっといい?」
早速きた。よし、今日の私は一味違うんだぞってところを感じさせてやろう。
「あ、は、はい。な、んですか?」
「隣のクラスの陽華ちゃんからの伝言で、『今日一緒に帰ろ』だって。」
「あ、はい。ありがとござます。」
うまく会話できなかった…。先輩との会話だったら調子良かったのに…。
それにしても、わざわざ伝言なんて頼まなくても今日陽華と一緒に帰ることは確定しているのに。かわいいやつめ。食べてしまいたい。
☆☆☆
帰りのHRも終わり、私は今、陽華と帰り道を歩いている。
「今日の昼に陽華の教室に行ったとき、凪沙いなかったけど、図書室で読書?ほんと本好きだよねー。」
「そうそう。あーでも、本は読んでないな。」
「読んでないの?じゃあ、何してたの?」
「それが、この前話した先輩に本格的に目をつけられてさー。図書室に行ったら大体先輩がいるんだよ。だから、先輩と話してた。」
「フーン、例の先輩のお眼鏡に叶っちゃたか。」
「叶っちゃったよ…。いろいろ根掘り葉掘り聞かれるし…。まあ、苦じゃないからイイんだけど。」
あれ?なんか陽華がめっちゃこっち見てくる。
「なんかすごい私のこと見てない?なんかついてる?」
あ、目そらした。
「特に何にもついてないよ!」
「ならいいけど。それでさぁ、先輩が私が宿題出してないだけで不良だって言ってきてさぁ!ほんとまいっちゃうよね。」
「不良はさすがに言い過ぎだと思うけど、凪沙はもうちょっと宿題出したほうがいいよ。」
「陽華知ってる?大学の一般入試ってね、評定は関係ないんだよ。私はテストである程度の点数をとっておけば、進級は出来る!だから、宿題は出さなくてもイイんだよ。」
「あ、そうですか…。まあ、その心意気でがんばってください。」
なぜに敬語。
「陽華これから敬語キャラで行くの?私は敬語キャラ好きだしイイと思うけど…。あ、陽華なら何キャラでも好きだよ!」
あ、さっきまでこっち向いてたのに明後日の方むいちゃった…。
「なんとなく使っただけだよ。
あと、急に好きとか言わないで…恥ずかしい…。」
かわいいか?
「かわいいか?」
おっと本音が口にも…。よだれも出てた。
「ちょっと、やめてよ…。
そんなこと言ってる凪沙には抱きついてやる!おりゃ!」
ぬおっ!あ、いい香りがする。やっぱ陽華も女の子だなぁ…。そんな女の子のお顔が目の前に。ーーー目の前?
「ちょっ!顔近くない?」
「ふふ、そうだね。顔、近いね。このままキスも出来ちゃう距離だね。」
キス!!??今日の陽華さんはどこかおかしい。
「私にはまだ早いから!」
だんだんと陽華の唇が近づいてくる。抵抗はしている。しかし、私と陽華では力の強さがまったく違う。陽華からしてみれば、形だけの抵抗をしている子羊同然だろう。
ああ、このまま私はハジメテを顔のいい女の子に奪われてしまうんだ…。『悪くない?』なんて考えが出て来てしまう。
お母さん、お父さん。今日、あなたたちの娘はこの娘のオンナになりますーーー
「ふふっ。凪沙、ほんとに私がキスすると思ってる。寸止めでーす。残念だった?」
放置プレイッ!嫌いじゃない!
いやいや、私は何を考えてるんだ。おちけつ、おちけつ。
私はかわいい女の子は好きだが、決して同性愛者ではないのだ。場の雰囲気に流されるな、私。しかし、あの時の高揚感、そして興奮が嘘だというわけではないことを私の心臓が物語っている。
「凪沙、めっちゃ顔赤いじゃん。ほんとに勘違いしちゃった?ごめんごめん。」
陽華の顔を直視できない。
「陽華ごめん。私、急用を思い出しちゃった。先帰るね!」
背中に背負っているモノなど関係なしに私は陽華から逃げるように駆け出した。
「ちょっ、凪沙!?…やりすぎたな。でも、直前で止まれたぞ、私。えらい。」
☆☆☆
夜、陽華からラインが来た。
『帰りのお詫びじゃないけど、日曜遊ばない?』
なんと、お誘いがかかった。あんなことがあったにもかかわらず私が『YES』とでもいうと思っているのか?
………カレンダーはどこだ?
『おっけー。遊ぼ!』
即落ち二コマとはこのようなことをいうのだろうか。我ながらちょろい。
『行きたいところとか希望ある?』
『特にないよー。お詫びなんだから、陽華が決めてよ』
『わかった。じゃあ、私が一人で決めちゃうね。
駅集合でいい?』
『わかった。楽しみにしてるね。』
陽華とデートか…。どこ連れっててくれるんだろ…。
『デート』!!??
あの時の気持ちが抜けきっていない。日曜日までには抜けていることを願おう…。




