4日目
昨日は先輩にいろいろ言ってしまった。
図書室に行くのはあまり気が乗らない。しかし、人間関係のいざこざで自身の行動を変えてしまうこと。間接的に変えられてしまうというのはもっと嫌で、屈辱的だ。
そんな感じで、私は今図書室のいつもの隅で本を読んでいる。
先輩はまだ来ていない。今日は来ないのかも知れない。そう思い、私は本を読み進める。
しかし、こんな風に落ち着いて本を読むのはいつぶりか。最近は先輩にちょっかいをかけられていたせいで、ココで本を読めていなかった。
久々の図書室での安らぎに身を任せ、本に没頭する。
ーーー風が流れた。
図書室では基本的に窓は開いていない。まだ春なので、冷暖房もついていない。周りに人はいないので、誰かが動いても私にはわからない。
では、なぜだ。
不思議に思い、本から顔を上げ、あたりを見渡す。
「わっ」
先輩がいた。とても驚いた顔をして、私の少し前の本棚からこちらを覗き込んでいる。
どうやら、今日も落ち着いて読書は出来ないな、と思い私は静かに本を閉じる。
☆☆☆
先輩が図書室にいる。それはいい。それなら、なぜこちらを見るだけで、近くで座るなり、私に話しかけるなりしない。
昨日、私は確かに先輩にきつくモノを言った。だが、私とてそこまで器の狭い人間ではない。しかも、先輩は去り際に謝罪をしてくれている。
とはいえ、陽華のことを何も知らないはずの先輩が陽華を悪く言い『陽華とのかかわりをなくせ』といった先輩を完全に許したわけではない。ただそれは、私が納得できていないだけであって、先輩を許していないわけではない。
ここで先輩が悪いと思うのはただの八つ当たりだと、私は思う。
しかし、先輩を見ている感じだと先輩はそうは思っていないらしい。
ここは私から先輩に声をかけてあげよう。私も少しは話が出来る人とギスギスしたまま関係を終わらせたくない。
「先輩は昨日のこと気にしているかもしれません。ですか私は去り際の先輩からの謝罪で、完全にとはいいませんが、大部分は許しています。
なので、そんなとこに立ってないで、私の隣に座りませんか?」
「許してくれてるの?ほんと?」
甘えるようないい方に私の中に初めて芽生えた母性を言葉に乗せるように、
「はい、ほんとです。」
そういった次の瞬間に先輩の顔は、今まで見たことのないような満面の笑みを浮かべる。
そして、私のすぐ目の前に立ち、
「ありがと、日菜ちゃん!」
と私に告げる。
昨日はあまり意識していなかったが、先輩の顔の良さを私はあらためて感じさせられる。
「せっ、せんぱい、顔が…その、近いです…。」
思わず、こんな言い方になってしまう。
今少しでも気を抜いたら所謂『メスの顔』になってしまいそうだ。
「あ、ごめん。近かったね。」
そういって先輩は私から少し離れ、隣の席に座ってしまう。
残念だなと思ってしまった。まずい、すぐに別の感情で上書きしなくては!
今日も退屈、今日も退屈…。陽華好き!かわいい!
心の中で反芻しながら平常心を取り戻す。
「あらためて謝罪するよ。ゴメン。人の友人関係に口出しするのは、良くないよね、反省してます。」
「二回目の謝罪なんて必要ないのに…。ま、これで完全に仲直りということで。今後今回のようなことがないようにしましょう。」
「そうだね。なかなおり~」
「ところで先輩。私たちが喧嘩する前になんの話をしてたか、覚えてます?」
覚えていないとは言わせない。今日ここに来た理由の一つがこれなのだから。
「もちろんだよ。『日菜ちゃんと連絡先を交換しよう』って話だよね!」
よかった、先輩を馬鹿にする意図はないが安心した。
わざわざ今日の朝アカウント名を変更し、スマホをここまで持ってきたことが無駄にならなかったことに安心しているのである。
その後、連絡先を交換したところで予鈴が鳴り、私たちはそれぞれの教室に戻った。
☆☆☆
本日下校終了後、自宅のソファでゴロゴロしているときに早速先輩から連絡がきた。
『今、何してるの?』
どういう意図の質問だ?私に経験はないが、こういった質問は往々にして何か面倒ごとを連れているというのはよく知られていると思う。
しかし、先輩にそういう意図はないだろうことは少し考えれば容易に想像できた。
なぜなら、桐生綾瀬という女のことを私がそう認識しているからだ。他者からの視点があれば、違った結論が出るだろう。
しかし、私と先輩に共通の友人なんていないので、結果として、私だけの考えから想像する必要がある。すると、『意図はない』ということになった。
『特に何も。強いて言えばゴロゴロしてます。』
さあ、どう来る。
『いいね、ゴロゴロ。私もしてるよー』
ほら、思った通りだ。先輩のこういった質問に特に意味はないのだ。たった二日間の付き合いでここまでわかるとは。私は人間観察が得意なのかもしれない。探偵にでもなろうかな。
『話は変わりますが、あと数週間で定期テストですね。』
『やめて、その話を私に意識させないで。勉強ホントに嫌いなの』
『そうもいきませんよ、いやでも多少意識しておかないと散々な結果になるんですから』
こんな先生みたいなことを先輩に言ったものの、私は高校の定期テストというものは前回の経験からそんなに気張る必要はないと結論付けた。
中学までは受験に評定がかかわってきたが、大学のこと一般入試においては関係ないのだ。
なので、私は現状テスト用の勉強はほとんどしないつもりでいる。
『そんなことは忘れて、もっと楽しい話をしようよ。ね?』
『それもそうですね…』
さて、『楽しい話』と言われても何を話すべきだろう。さっきも述べたとおり、私と先輩は出会って日が浅いのだ。つまり、先輩の趣味すら知らない。
…。 …。
会話が途切れた。どうしよう。
『それはそうと最後に!日菜ちゃん!明日も!図書室!来るんだよ!』
『はい、了解です』
強制的に切ってくれて助かった。陽華がフリーでなければ行こう。
本編が今までで一番短いのでかさまし用のあとがきです。
綾瀬が図書室へ行くまでのことを書いたので、ぜひ。
昨日、あんなことを言ってしまったため、正直図書室へ行かずに三人の友人とご飯を食べたい。
しかし、日菜ちゃんとの関係がこのまま保たれてしまうのはすごく嫌なので、日菜ちゃんに改めて謝罪をしに、図書室へ歩みを進める。
ただ、気は進まないので、図書室へ直接はいかずに時間稼ぎをしつつ廊下を歩く。
なぜ、私はあんなことを言ってしまったのだろう。
このことを考えるのが何回目かもわからないほど、昨日から続けて考えている。
それでも、答えはわからない。私にとってはやっぱり、彼女は単なるかわいい後輩に過ぎない。初めて知り合い、会話をした後輩であるという点だけであんなことを言うはずがない。
何度考えてもこの思考にたどり着き、そして停滞する。
これは、今までの私のなかにはなかった感情が影響してして、その感情が何かわかっていないからなのだろう。
そう思ったとして、この感情を分析することは今の私には不可能だ。誰かしらに、それこそ日菜ちゃんに助けを求めたほうがいいのだろうか。
よし、これでどうしても日菜ちゃんと会わなくてはいけない、という理由付けができた。行こう。
いつも日菜ちゃんがいるところを覗いてみる。
ふと、彼女が顔を上げ、きょろきょろすると、目が合った。
「わっ」
彼女の顔はただただ『先輩がいた』程度の感情しか表に出していないように見えるが、私の顔には驚きの表情が浮かんでいる。




